意地悪ではない、親切心で『小言』を出していますか?
★黙って見逃す、一見カッコ良く聞こえますが、それは悪い行為であれば認めたのと同じになります。小言を言うべき人がたまに言わないと、それは逆説的にその行為を認めたということになってしまうことまであります。今朝はそれについて。
【朝メール】20070202より__
===ほぼ毎朝エッセー===
□□小言係り
麹町駅近くの交番※に立っているおまわりさん、その目の前を、横断歩道が無いにも関わらず道を横切る人びとがいます。自分もそうです。こういう渡り方を英語ではジェイウォーク (J-walk)といいます。
横切る人たちの言い訳としては、横断歩道が近くにない、その横断歩道がなかなか青にならない、自動車は信号待ちで殆ど止まっているので大丈夫、などがあります。それなので比較的堂々とジェイウォークするわけです。
おまわりさん達はなぜだか黙っています。ジェイウォークをとがめることをしません。
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ある日の帰り道、自分は珍しく横断歩道を渡ることにしました。案の定、信号はなかなか変わりません。地下鉄の到着時刻は迫ってきています。左右をみてみます。車は来ていません。車用の信号は黄色から赤に変わるところです。歩行者用はまだ赤です。「もいいっか。」見切りをつけて横断歩道を渡ったのです。気分はヌーヨーカー。(Brooklyn訛りで!)
すると渡りきったところでしょうか、いきなり反対側で信号待ちをしていたおまわりさんが目に入ります。反射神経的に「やばっ」と身をすくめてしまったその横から声が聞こえます。
「こらっ、信号は青になってから渡りなさ~い!」
「ハイっ。。」
妙に体は縮こまり、目も合わさずに地下鉄の入り口に駆け込みます。
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上の二つの事象から大切なことが学べます。
おまわりさんという制服を着た役目の人たちがいるわけです。
そして、一般的には不正を正す役割をしています。
制服はいわゆるそういった役割を果たすシンボルです。
その不正を正す役割の人が、大小はあれ、不正を目の前に黙っていると、それは黙認したっことになってしまいます。それも、何度も繰り返されるといわゆる弱い肯定的な承認の意味までをも持ち始めてしまいます。
一方、一言でも「こらっ」と諭すとどうでしょうか。その行為が不正であると評価をされたことになります。それなので、間違っても肯定的な意味を持つには至りません。自由な風潮を重視したいと、自由奔放にさせておくと、集団のモラルが低下していくのはこういう理由です。
おまわりさん達もそういった不正を小さな芽のうちから摘み取る、いわゆる『小言係り』を担っているというわけです。人によっては注意されたことに逆切れして絡まれることも多いでしょう。なかなか大変な仕事だと思います。ご苦労様です。
※ちなみにこの交番、正式名称は『麹町四丁目交番』だそうです。平成16年3月に開所、比較的新しいのですね。
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/1/kojimachi/koban/4chome.htm
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ガムを歩道に吐き捨てるのは悪いこと、犬の糞を始末しないのは悪いこと、歩きタバコは悪いこと、吸殻を下水に捨てるのは悪いこと、そういったことの認識の積み重ねが社会の規律を創り上げていくわけです。民度が高くなるためには『小言係り』が必要なのです。
これは会社内にも共通することだと思いました。居眠りをするのがいいことなのか、駄目なことなのか。私用でYahooニュースを見るのがいいことなのか、悪いことなのか。会社として好ましいことなのか、好ましくないことなのかは、なるべく早期に表現をしあう、ルールとまでも行かないものの、善し悪しを決めて、それに反したら小言で知らせるということが、全体モラルをあげるためには必要なのです。
『小言係り』などは本来、誰もやりたくないですよね。言う側の方が得てして嫌な思いをしてしまったりします。だから、誰かが言ったらそれは個人攻撃と捉えるのではなく、「基準とずれたことをやっているよ」といった、それを知らせる親切心と捉えるようにしたいです。
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『STOPカード』というものを思い出しました。デュポンから伝わった安全活動です。1995年から1998年まで、お世話になっていた愛知県東海市の工場でやっていたものです。
アメリカの総合化学メーカーであるデュポン社は、もともとダイナマイトを扱っていた会社です。また、多種の化学薬品を扱っていることからも、安全性にはヒステリックなほど厳格な会社でした。その徹底ぶりの結果は、例えば、社員が自宅で草刈をするときには、自ら進んで安全めがねをしながら作業するようになる、そういうところです。おかげで、安全性についての意識が高まった自分も階段の手すりを持つ習慣で何度転倒から救われたかわかりません。
そのデュポン社から東レ・デュポンに伝わった『STOP活動』とは何でしょう。
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Safety Training Observation Programの略ですが、デュポン社が社外に対して安全活動のプログラムとして外販していました。(1990年代のことですが。)
その活動のポイントは、社員の相互監視にあります。不安全だと思われる行動というのは、一緒に働いている人たちには見えるものです。一方、管理監督者には隠されることも多いので見えづらいです。そこで、社員に『STOPカード』というものを携行させ、不安全だと思われた行動を発見したらその場で「STOP!」と言ってその人にその行動の何が不安全なのかを教え、そのことをカードに書き込んで渡すというものです。
言われた人はそれで×をもらったのではなく、不安全な行動を指摘してもらって助かった、というような気持ちでいるように、活動の意識を持ってくることがポイントです。もちろん、改善提案よろしくそのカードの発行数にノルマがあります。人への注意だけではなく、職場で危ない場所などを指摘するのもOKです。
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やり方の是非は別として、管理者には見えない、隠されることが多い不安全な行動を、職場仲間同士で表面化させ、さらに、全体レベルを上げることができます。とても科学的なアプローチです。いかにもアメリカ文化らしいです。
ここでSTOP活動を取り上げたのは、上記の『小言係り』と通じるところがあると思ったからです。係を作ってしまうよりは、実は相互にこまめにやるほうが適確に効果を挙げます。小言係りに頼ると、その人の目につかなければいい、そんな文化はすぐ醸成されてしまいますから。制服や役職の権限は不要です。気づいたことは、早めに相互に注意しあうのが小さいうちに止められるし、ダメージも小さいのです。
『その人のことを思った親切心でそのことがいえるか』、これが『小言』の基準なのだと思います。『意地悪ではなく親切心で小言を言う大切さ』です。