「ハーバードの人生を変える授業」を受けて考えた、東京大学入学式の祝辞論争
ウェルビーイング(well-being:身体的、精神的、社会的に良好な状態)
先週末、「ポジティブ心理学の父」マーティン・セリグマン博士、「ドクター・ハピネス」エド・ディーナー博士、「ハーバードの人生を変える授業」タル・ベン・シャハー博士、「TED 2017 BEST10」エミリー・スミスという、ポジティブ心理学の大家が集結する2日間のワークショップ(https://yeey.co/positivepsychologyws2019)にファシリテーターとして参加する機会がありました。
「ハーバードの人生を変える授業」の著者であり、ハーバード大学で最も学生の人気を集めた授業で知られるタル・ベン・シャハー博士の講演だけで4時間という、非常に贅沢で充実した内容のワークショップ。
4時間という長さにも関わらず、400名近いオーディエンスの集中力を少しも途切れさせることなく場の一体感を創り出し、「もっと聴いていたい」というオーディエンスの気持ちで満ち溢れた会場。
オーディエンスのPERMAが上がり、ウェルビーイング(well-being)であることを体感できる時間。
これらすべては、タル博士が1つ1つ紡ぎだす『丁寧な言葉』と『穏やかな口調』と『周りを包み込む空気感』によって生み出される、ライブでしか感じることができないものでした。
そして、講演から1週間が経過した今日も、講演のことを思い出すと穏やかな気持ちになります。これは、脳科学的にいうと「エビソード記憶」から「感情」が想起され、オキシトシンやセロトニンが分泌されているからかもしれません。
*PERMAとは*
今回の講演者の1人でもある「ポジティブ心理学の父」マーティン・セリグマン博士が2011年に提唱したwell-being(ウェルビーイング)の多面的モデル。Positive emotion:ポジティブ感情,Engagement:物事への積極的な関わり,Relationship:他者とのよい関係,Meaning:人生の意味や意義の自覚,Accomplishment:達成感という5つの領域で構成されるモデル。(セリグマン博士の講演については、また、別の機会に書きたいと思います。)
ラポール(相互信頼)を構築する
『大事なことは、まず受け止めるということ。自然に受け止めて観察する』という言葉どおり、ご自身の講演時間だけでなく、他の講演者の話やオーディエンスの様子を会場後方で受け止められているタル博士の姿がありました。
この行動に限らず、タル博士の全ての言動は、会場にいる全員とラポール(相互信頼)を構築することに向けられているように感じました。
- 講演する国や関係者に対する感謝とリスペクト
- 全体最適を考えた上で、自分が果たすべき役割と責任を意識した言動
- オーディエンスや通訳者への深い愛情ときめ細やかな心遣い
- プロフェッショナルとしての探求心と真摯な姿勢
今回の内容は、心理学、脳科学、感情知性(Emotional Intelligence Quotient)などを学んだ経験のある人にとってはベーシックな内容であったにも関わらず、「新しいことを初めて知った時のような新鮮な気持ち」になりました。
私がそのような気持ちになったのは、全員とラポール(相互信頼)を構築するために全力で取り組まれているタル博士の姿から心を動かされたからだと思います。(終始一貫して、上記の4つがベースにあることを感じていました。)
Give yourself permission to be human.
Embrace both good and bad emotions ... observe it friendly.
First step towards happiness is accepting unhappiness. (抜粋)
「人生には、楽しい感情も苦しい感情もある。大事なのは、その感情を感じられるスペースをもつことである。感情がどんな感情であっても、その感情を無視してはいけない。その感情を感じられるスペースが大事。感情を無視すれば無視するほど強くなり、抑圧すればするほど現象は強化される」
タル博士の授業が「ハーバードの人生を変える授業」と呼ばれ、多くの人達を魅了するのは、博士の深い愛情ときめ細やかな心遣いを受け取り、お互いに感謝とリスペクトを感じることができるからであり、それは、ダル博士が1つ1つ選んだ『丁寧な言葉』と『穏やかな口調』と『周りを包み込む空気感』によって構築されるラポール(相互信頼)によって実現されているのだと感じました。
『読む言葉』と『聴く言葉』
タル博士の講演で感じたことの1つに『読む言葉』と『聴く言葉』の違いがあります。これは、文字データとして『同じ言葉』であっても、その『言葉』をどのように感じるか、『読む』と『聴く』では、感じ方が異なるという意味です。
例えば、タル博士の『言葉』を著書で読むことと、直接聴くことは異なります。タル博士が1つ1つ丁寧に紡ぎだす『言葉』と『穏やかな口調』と『周りを包み込む空気感』は、ライブでしか感じることができない(聴くことができない)ということです。
『読む言葉』と『聴く言葉』の違いについて考えていた時、ふと、頭をよぎったのは、各メディアで話題になっている東京大学の入学式の祝辞についてです。いろいろな意見が飛び交い、私の友人・知人の方々も賛否両論、SNS上にさまざまな意見を書かれています。そこで、EQトレーナーとして以下の2つの観点で考えてみました。
- 個人としての私はどう感じるのか? (個人としての感情)
- EQの専門家としてどう考察するか?(多くの人達の感情)
1の観点では、メディアによって切り取られた文字である『読む言葉』と、映像と音声で『聴く言葉』の両方を確認し、同じ言葉であっても『読む言葉』と『聴く言葉』では、想像以上にイメージが異なるということを感じました。
2の観点では、上野教授の言葉以外の『ノンバーバルな情報』と、受け取り側の賛否両論のベースにある『感情』について考えました。
そして、あらためて重要だと思ったのは、タル博士がそうであったように、ラポール(相互信頼)を構築しようとする姿勢がオーディエンスに伝わっているかどうかという点です。
つまり、話す側のラポールを構築しようとする姿勢がオーディエンス側に伝わっていれば、もう少し異なる伝わり方になったのではないのかな?ということです。
相手の心に届けたい時、特に、言いづらいことを伝えたい時には、ラポール(相互信頼)を構築しようとする姿勢が相手に伝わるように話すことの重要性を再認識した1週間でした。