書評:『業務システム開発モダナイゼーションガイド 非効率な日本のSIを変革する実践的ベストプラクティス』(著)赤間信幸氏
『システム』って何ですか?
皆さまは、この質問にどのように回答されますか?IT業界の方々にこの質問をすると、『えっ、システムは、システムでしょ』という回答であったり、『業務システム』『経理システム』『情報システム』など、ITで構築されたシステムを表す言葉が多く返ってきます。
少し視野を広げると、ITが関わらないモノでも、システムキッチン、システム手帳、3-4-3システム(サッカーのフォーメーション)など、システムがつく言葉が数多く存在することに気づきます。
◆「システム」(スーパー大辞林 3.0判より引用)
①個々の要素が有機的に組み合わされた、まとまりをもつ全体。体系。系。
②全体を統一する仕組み。また、その方式や制度。
③コンピュータで、組み合わせれて機能しているハードウェアやソフトウェアの全体。
つまり、『システム』とは、何らかの目的を達成するために、複数の要素を組み合わせ、相互に機能している要素の集合ということになります。
書評の前に、言葉の定義に触れた理由は、ITに関するネットの記事を観ていると、ITの世界だけでモノを観ていたり、局所的にモノを観て論じられていると感じることが多くあるからです。そして、誤った情報がさらに誤った情報として、拡散されているケースも散見されます。
例えば、『輻輳(ふくそう)』という言葉も、IT業界に入ってこの言葉を知った方は、ITの世界でだけで使われている用語(ネットワーク用語)と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、『輻輳(ふくそう)』は、英語でいうと「congestion」であり、「ものが一ヶ所に集中して混雑している状態のこと」という意味になります。
そして、最近では、前提条件や特性が語られずに、ウォータフォールはNGで、AgileがGoodと論じられる場面なども多く見かけます。
このように、ITに対する考え方や具体的な取組みに対して、日本と米国にズレが発しているのは、何故なんだろう?その根本原因はどこにあるんだろう?とモヤモヤを感じている方にお奨めしたい1冊が、『業務システム開発モダナイゼーションガイド 非効率な日本のSIを変革する実践的ベストプラクティス』です。
本を読む前にAmazonの書評を読むと、高低の評価が書かれていたので、その両方の観点も意識しながら読んでみました。読了後に感じたのは、まず、この本を読み始める前に『はじめに』をしっかり読んでいただきたいということです。
技術者や開発者を育成する仕事をとおして、私も著者同様「なぜ、こんな基本中の基本が見落とされているのか?」と思うことが少なくありません。そして、その原因は、SI技術を「体系的に学ぶ」機会の有無に関係していると考えています。
自身の経験をとおして思うのは、創業120年のSIerで「体系的に学ぶ」機会があったからこそ、製品やサービスの表面的な技術だけではなく、その基盤になる学術的な理論や考え方まで理解することの意味や重要性を実感しています。
そして、本書は「体系的に学ぶ」ことの重要性を理解している人であれば、著者の想いである『どのようなロールの人であっても、必ず知っておいていただきたい「SI技術の基礎」をまとめた書籍』であることが分かります。
日本のSIer出身である著者だからこそ書ける、日本のSIに関わる人たちへの愛が感じられる1冊であることは間違いないです。
- 俯瞰的に、自分の知識や技術の過不足を補いたい(特に設計や手法などを独学で学んできた)方
- 日本と米国にズレが生じている、問題の根本原因を理解したい方
- 製品やサービスの表面的な技術ではなく、その基盤にある理論や考え方を理解したい方
- 自分の頭で考える力を鍛えたい方
上記のような方には、特に読んでいただきたい1冊です。
そして、読了後に感じたのは、久しぶりに「自分の脳に心地よい疲労感がある」という感覚でした。それは、既知の内容であったとしても「分かった気になっていない?」「本当に分かっている?」というように「自分の頭で考えながら」読む必要があるからです。
(Amazonの書評の「読みづらい」と感じた方の目的は、スラスラと読める読み物や製品やサービスのリファレンスのようなものを期待されていたようでしたので、期待値が異なったということだと思います。)
本書をSIに関わる多くの方々に知っていただきたいと思い、先日、主催するWindows女子部で本書をベースにしたセミナーを開催しましたところ、参加者から以下のようなメッセージが届きました。
正直なところ、1年目の方には難しいかもれしませんが、1年目でこの本に出会えたこと、この本の意義を理解できたことは、彼の人生を大きく変えると思っています。なぜなら、私が1年目の時に、こういう本に出会えていたらよかったと思ったからです。
1人でも多くのSIに関わる方々に、今、絶対に読んでいただきたい1冊です。
(ただ、脳は疲れるかもしれません(笑))
計画的偶発性については、こちらのエントリを!