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ヴィジュアル、サウンド、テキスト、コードの間を彷徨いながら、感じたこと考えたことを綴ります。

画像生成AIを、ラフデザインに活用。商用利用可能な Adobe Fireflyで広告ラフを作る。 ~日用品公害・香害(n)~

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前回ブログで公開した広告ラフ
建設現場や製造現場での香害。それを周知するために使うものだ。
そのメイキングと、修正版の作業と、デザインにまつわる話。

Copilot で描いた部分を、商用利用可能な Fireflyで置き換える

前回公開したものは、Microsoft Copilot(bing Image Creator from Designer) と Adobe Firefly 両方を使って制作している。効率を最優先して、併用した。
ラフとはいえ、個人が手渡したり、掲示板に貼るぶんには、じゅうぶん使用に耐えるものとなっている。

筆者は、フリー素材だけがベースであっても描けるテーマを、手描き時代に確立した独自のスタイルでしか描かないが、巷には、そうではないイラストもあるようだ。アニメやマンガのようなスタイルのイラストについて、トレーニング素材の著作権を不安視する声は少なくない。「生成AI」の4文字自体が、あまり良い印象を与えないこともある。

そこで、Copilot で描いていた部分を、商用利用可能な、Adobe Firefly で作成して差し替えた。
Adobe Fireflyは、「現在のFirefly生成AIモデルのトレーニングには、Adobe Stockなどの使用許諾を受けたコンテンツのデータセットおよび著作権の切れた一般コンテンツが使用されています。(Adobe ウェブサイトから引用)」ということであって、安心して利用してもらえるからだ。

Adobe Firefly 版は、次のとおり。

genba_forBlog.png

前回記事で公開したものは、手前の人物を Adobe Firefly、背景の足場は Microsoft Copilotで描いていた。この背景を、Adobe Fireflyで描いて差し替えた。
上がCopilotによる絵、下がFireflyによる絵だ。

Adobe Photoshop、Microsoft Expression Designで、少々加工している。

materiaks_hikaku.png

こうした、図形のような計算機が得意とする絵は、Copilotの方が描きやすい。
Copilotは比較的指示通りに描画してくれるが、Fireflyはグラフィックを創りだす。Copilotは副操縦士として計算結果を出力するが、Fireflyは指示以上にクリエーティビティを発揮しようとする。
筆者からすれば、最低限のものしか描かない Copilot の方が、処理を推測しやすい。指定したものすら描かないことがあるほどで、プロンプトを追加して描き足せばいいから、扱いやすい。
Copilotはエンジニア向き、Fireflyはデザイナー向き、という印象だ。

制作した素材は、Expression Designでレイアウトしている。フルカラーのヴィジュアル優先の印刷物なら、Adobe llustratorを使うが、素材点数も少ないシンプルなものなので、作業速度を優先した。Expression Design は、軽くて速い 。
フォントは、標準搭載されているものだ。おもに、UDフォントを使用している。

Copilot のみで作成したイラストも、啓発に使用できる

前回掲載した、もう1点、「まさかの頭痛 原因は...」の広告ラフ
こちらは、(制作時間の関係で)Copilot版のまま、据え置いている。もちろん、個人が啓発に使うぶんには問題ない。

下に、Copilotで作成したイラストと修正したイラストを掲載した。左が元の絵、右が修正後の絵だ。

Copilotで描いた元のイラストは、ヘルメット上部が欠けている。なにより、フルハーネスが義務化されているにもかかわらず、装着していない。法令を遵守していないから、そのままでは使えない。追加する必要があった。

服から立ちのぼるピンク色の化学物質の霧は、Expression Designで追加している。このような少々毒々しいピンク色は、シャボン玉石けんの香害を伝える新聞広告や、第二弾の広告、(筆者は見ていないが)映画「ピンククラウド」などでも使われており、有害物質を表す象徴の色として認知されやすくなっている。

kousho.png

広告制作を正式に仕事として受注する場合は、作業服も、ハーネスのフックの取り付け位置も、足場も、正確を期す必要がある。足場については、描き起こしてもいいし、足場ではなく施工途中の写真や、外に出しても大丈夫なCADデータ(全体図)があるなら、お借りして組み込んでもいい。訴求対象者、とくに現場を知る職人が見たときに、正確な絵のほうが、実感を伴いやすいからだ。

CADデータは、Illustratorに互換して読み込める。筆者が使っていたころは、DXFではなく汎用HPGL形式で渡していたが、今はDXFが主流のようだ。

訴求対象と媒体を設定して、仕様や表現手法を決める

広告制作は、企画から始まる。企画が堅牢であれば、表現は後からついてくる。

まず、訴求対象を絞りこむ。今回は、建設業や製造業の経営者(特に中小企業)、現場で働く従業員(職人だけでなく出入りの業者を含む)、重機や加工機メーカーの社員、を想定した。

次に、媒体の設定。今回、(実際に広告の掲載を申し込むかどうかは未定だが)、日刊工業新聞や鋼構造出版の業界専門誌を想定した。訴求対象である経営者に馴染みのある媒体だからだ。
そして筆者は、それらに掲載する広告を多数手がけた経験から、どのように描けば、どのような印刷結果になるかを心得ているからでもある。イラストは、インク+丸ペンや、CADを使って描くという、筆者スタイルになるプロンプトを指定している。

媒体を設定すれば、おのずと、色数などの仕様が決まる。

制作者の「感じる、理解する」工程を、AIは支援できない

このように、生成AIイラストツールを使えば、ラフ制作を効率化できる。

その際、重要なことは、AIに主導権を渡さないことだろう。明確なイメージを固めてから指示しなければ、AIの提案をただ受け入れる形になってしまい、ヒトとAIの主従が逆転しかねない。制作するテーマにもよるが、プランニングとディレクションに、いっそう注力する必要があるのではないか。

筆者は、どのような仕事でも、対象を深く知ることから始まると考えている。
鋼材や鋼鈑の手触りを、その重量感を、現場の空気感を、「五感で捉えた」記憶。こうした制作者が「感じる、理解する」工程をたいせつにしたい。

未経験のテーマについて、取材やヒアリングもせず、生半可な知識しかなくても、表現技術で補って、広告の形に仕立てあげることはできる。Adobeの提供する優れたツールの操作をマスターすれば、クールなイラストもデザインも、デスクの上だけで完結するだろう。

だが、それでは、何かが欠けてしまうのだ。その「何か」を、AIで埋めることはできない。AIツールは、あくまで有能なアシスタントとして活用することが望ましいとおもう。

当ブログには画像サイズの制限があるため、600pxに縮小して掲載している。原寸大のpngファイルは、Xで公開している。


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