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原状復帰、不可能。物件の価値が変わる。不動産会社・管理会社・オーナー・検索システム開発者の、見通しと判断は!? ~日用品公害・香害(n)~

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日用品に含まれる化学物質が、物件内に蓄積

ごくありふれた日用品が、物件に原状復帰不可能なダメージを与える可能性がある。

柔軟剤に含まれる香料とそれを包む物質、合成洗剤に配合された抗菌剤や香料は、一部が排水として流れ、残りが衣類に付着する。一度の洗濯で、服や床から約42万個の微粒子が見つかっている。(Youtube:早稲田大学・大河内教授による説明は、3:12~)

衣類から放たれた微小な粒子は、一部が呼吸から体内に取り込まれ、残りは空間に滞留する。室内では天井や壁や什器備品の表面に付着したり、床の隅に吹き溜まる。(ハウスダスト中マイクロカプセル化香料についての研究論文)。

香料を配合した商品は多数販売されている。たとえば、香水・コロン・ローション・ヘアケア用品・化粧品・デオドラント製品・フィルター付き煙草・床ワックス・シルバーケア用品・トイレ用消臭剤などだ。その中には、洗濯用品と同様、徐放技術が使われているものもある。

同じニオイを嗅ぎ続けると、ヒトの嗅覚には馴れが生じる。ニオイを感じにくくなり、メーカーが推奨していない行為に及ぶ。柔軟剤スプレーを作って香水代わりに使い、柔軟剤水を作って室内や備品を拭く。室内には大量の化学物質が残留する。

これらの物質を、除去する方法はない。メーカーのサポートすら、その方法を知らない。(前回記事を参照)

使用世帯以外にも影響!隙間から侵入する、微細な化学物質

化学物質の蓄積は、戸建てでも集合住宅でも起こりうる。
使用者の居住する物件だけではない。物理的に近い物件に影響が及ぶ。粒子が小さいため、わずかな隙間から侵入する。

その拡散範囲は広い。敷地の広い戸建てでも、風向きによっては室内に入り込む。
共用部のあるマンションでは、使用世帯の上下左右はもちろん、離れた部屋にも侵入する。エントランスやホールに隣接する物件では、空気の流れが止まり、化学物質が澱む。住宅内だけではない。血管中のプラークのように、共用配管に蓄積する可能性がある。

それらの物質の多くはニオイを放つ。そのため、侵入を許した物件の住人は悪臭に悩まされるようになる。
侵入する場所は、次のとおりだ。

  • 水回り:キッチン・手洗い・浴室・洗濯機置き場の排水溝
  • 直管の配管
  • 天井裏、壁裏、床下のの配管
  • エアコンダクト
  • ドアの隙間
  • 郵便受け(ドアの内側についている場合)
  • 換気扇(トイレ、浴室、キッチン)
  • コンセント
  • 壁裏(ガスなどの配管を通している孔)

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使用世帯への交渉、併行して、応急処置で侵入対策

この問題の重大性に気付いた使用者は、今すぐ使用製品を見直してください。(代替製品については、前回記事を参照)

他世帯からの侵入であれば、仲介業者や管理会社やオーナーに相談し、使用製品を変えるよう交渉する必要がある。それには資料が必要だ。まず、嗅覚で侵入経路を探る。ネットの不動産情報サイトから平面図を入手して、経路を記入する。

また、簡易な測定器を購入して、データを記録する方法もある。日用品の内容はブラックボックスで、必ずしも検出されるとは限らないが、もし、検出されたなら、交渉に使えるだろう。相手に想像力をもとめるよりも、数字で示す方が理解されやすい。

問題の解決には時間がかかる。その間の健康被害を避けるため、応急処置を併行すべきだ。

もし、直管があやしいようならU字管に交換する。排水溝から上がっているなら、隙間をパテで埋める。化学物質過敏症でパテに反応する場合はアルミホイルを貼る方法があるという。使わない換気扇や郵便受けは、室内側からポリ袋や板などで覆い、マスキングテープで仮止めするなど、できる対策をとる。

また、侵入した化学物質の蓄積量を減らすために、空気清浄機脱臭機を使う。
とはいえ、侵入する量が機器の処理能力を上回る場合もある。部屋が分かれていれば、1台では追い付かない。状況に応じて、複数台を使い分ける必要がある。(筆者の事例

物件価値が低下する!?入居者募集や、売却価格にも影響か!?

すみやかに対策を講じなければ、住むに適さない物件となる。具体的には、次のような問題が発生する可能性がある。

・汚染の加速

賃貸物件の場合、室内が汚染されると、入居希望者が限られる。ニオイが気にならない、同じライフスタイルを持つ人でなければ住むことができないからだ。その結果、化学物質の蓄積が加速する。

・防災リスク

香害原因製品を、喫煙のニオイ隠しに使うケースがある。香りでマスキングされると、ボヤやガス漏れに気付きにくくなる。

・近隣トラブル

外干し洗濯物が屋外の大気に影響を及ぼす。近隣住民から苦情が出る可能性がある。

・リフォーム費用の発生

入室するなり強く香る状況では、クロスの張替え程度では済まず、フルリフォームが視野に入る。規約に明記されていなければ、原状復帰費用の請求は難航するだろう。

・健康問題の発生

この数年、香り付き柔軟剤や抗菌系合成洗剤をトリガとする化学物質過敏症の発症者が増えている。今では10人にひとりとも言われており、未発症ながら体調に影響するひとも含めれば、その割合は2割にのぼる。他世帯の使用品のために、不使用世帯の住人が発症するケースも少なくない。ペット可物件では、ペットが健康を害する可能性がある。

・空き物件の増加

香りを好む者であっても、その嗜好は多様だ。部屋に染みついた香りを好むとは限らない。中古物件では、買い手がつかない可能性もあるだろう。

・鈍る成約

築年の古い分譲マンションでは、棟内でオーナーチェンジが発生し、香害原因製品のユーザーが入居する可能性を避けられない。使用者の多い地域では、屋外の大気も汚染される。敷地の狭い戸建てや月決め駐車場は、周辺の空気事情の影響をダイレクトに受ける。

物件検索システムからは、前住人の使用した日用品や、周辺の空気事情のデータを得られない。現地に赴き空気事情を確認する必要がある。契約までのハードルが上がり、購入意欲を削がれる可能性がある。

無香害物件へ。啓発しつつ、規約と契約書の見直しを

以上のような事態を防ぐために、不動産会社・管理会社・マンションオーナーは、どうすればよいのか。

まず、気軽に報告や相談を受ける仕組みづくりがもとめられる。ニオイの問題はナーバスだ。相談できず無言で耐えている人も少なくない。問題が発生していないとは限らない。

次に、手軽にできる方法として、共用部の掲示板に、5省庁による啓発ポスターを貼るとよい。
戸建てなら、自治体のポスターをポスティングしたり、回覧するればよい。(愛媛県の例:県のポスター松山市のポスター

賃貸物件では、新規入居者に、安全な洗剤セットをプレゼントするのもよいだろう。

今では、物件の評価を、SNSで発信することができる。良い評価が拡散されるよう、無香害の姿勢を明確に打ち出し、安全な製品の啓発に努めることが重要ではないだろうか。

香り長持ち製品の登場は、2000年代半ば、ナノテクが推進され始めて以降だ。契約時に、原状復帰への理解と合意を得られるよう、規約の改訂が必要だろう。

『香り付き洗剤禁止物件』や、『大島てる 残り香バージョン』がもとめられようになりはしないか。」――ーと、筆者が書いたのは、2019年。「『香り』が客足を遠ざけ、『無香』がビジネスを作る。」。
5年近く経ち、事態は改善するどころか、悪化している。
今すぐ日用品の使い方を見直さなければ、不動産への影響は、一気に顕在化するに違いない。

騒音やゴミの問題以上に、化学物質の問題は厄介だ。
不動産業界の方々は、入居者や地域住民がストレスなく暮らせるよう、この問題を真剣に考えてみてください。よろしくお願いいたします。

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