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ヴィジュアル、サウンド、テキスト、コードの間を彷徨いながら、感じたこと考えたことを綴ります。

覚悟の、大阪。ギタリスト最大の試練。ファンと仲間の音楽愛が、奇蹟を起こす!? ~6弦のカナリア(9)~

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結成30年。磨き抜かれたパフォーマンスで、熱量Max、全力疾走。
『TERROR SQUAD』の8月のライブは、圧巻だった。大いに客を沸かせ、無香害ライブの足跡を刻んだ。
そして9月。強い香害が渦巻く大阪で、スラッシュ・メタルの祭典に参戦だ。

読めない空気事情。尽きない不安要素。それでも、弾く。

TTFが、帰ってきた。有志のドネーションと支援によって復活した、「True Thrash Fest RETURNS 2023」。
主催は、『ROCK STAKK RECORDS』。2023年9月16日(土)、17(日)の二日間にわたって開催される。

この日のために来日したのは、『MINDWARS(US)』、『CYCLONE(US)』、『STRIKEMASTER(MEX) 』、『AMORPHIA(IND)』の4バンド。
これに対するのは、『 LOWCARD DE LA MORTE』、『BLIND HATE』、『RIVERGE』、『FASTKILL』、『 縁魔』、『ROSEROSE』、『SHADY GLIMPSE』、そして『TERROR SQUAD』だ。海外勢と日本勢が火花を散らす。

決戦の舞台は、大阪『江坂MUSE』。
首都圏以上に香害がすさまじいと言われる、近畿。香害健康被害者は、少なくない。漏れ聞こえてくる、危惧。出演は、危険な行為だ。

昨秋以降、『TERROR SQUAD』は、首都圏で活動を続けてきた。なじみのライブハウスのオーナーたちは、香害について知る努力を惜しまず、演奏をバックアップ。だが、今回は?
中規模のホールで、500席。出演者多数、それぞれのファンが集う。当日券もある。事前に無香害化を呼び掛けることは不可能だ。
空気事情を改善するには、全国的な無香害の流れを作り出すしかないが、ライブは目前に迫っている。

有害化学物質が漂う空気への突入は不可避。

そうした空気の中では、ギタリスト大関の頭脳は曇る。思考がまとまらない。混乱して、アンプにケーブルを挿すことすらできなくなる。曲の展開がわからなくなる。手足が震える。演奏どころか、ギターを抱えて立つこと自体が厳しくなる。

大関は問う―――最後の曲まで、オレの身体は、持ち堪えることができるのか?

それでも、TTFには、リスク以上の価値がある。海外勢との競演。出演の栄誉。関西のファンたちとの再会。関西での新曲の披露。

迷いはない。「弾く」。
その二文字しか、浮かばなかった。
ステージに立つ喜びが、恐怖心を圧倒したのだ。

出発前日まで、続く曝露。ボーカルにも異変が。

出演に照準を合わせたものの、日常生活での曝露は続く。

前回ライブの疲労から回復した途端、柔軟剤臭を放つ郵便物が届いた。書類作成者が使っている商品名は、ニオイでわかる。顔がヒリヒリして何度も洗顔した。
今月初めには、外出先でトイレと洗面所の芳香剤に曝露、ギターケースに移香。帰途立ち寄ったスーパーでは柔軟剤成分に2回遭遇、入浴中の嘔吐に苦しんだ。

その数日後、機材車の部品が壊れた。修理を依頼し、業者の事務所で待機中に、最新の洗剤の成分に襲われた。活性炭マスクからガスマスクへの切り替えが一呼吸遅れ、帰宅後も長引く頭痛。直接吸い込んだのは1分程度。それでも「記憶にまでこびり付く恐ろしい商品」だと感じた。

さらに、大阪への出発前日。勤務先の郵便局の香害のために休職中であるにもかかわらず、勤務先から郵送された書類が柔軟剤臭。顔から耳まで痺れに見舞われた。
蓄積するダメージ。生活圏内でさえ、この状況。首都圏以上の香害が囁かれる大阪で、いつ、何に、曝露するかーーー心配は尽きない。

そうした中、ボーカル宇田川に異変が。TTFを3週間後に控えたある日、『TERROR SQUAD』と併行して参加しているプロジェクト『Another Dimension』。そのボーカル収録中に、頭痛を訴えたのだ。さいわい一時的なもので、すみやかに回復。念のために受けた検査の結果も異常なしと知り、大関は胸をなでおろした。
宇田川の作詞と、第一声で場の空気を変える能力は、『TERROR SQUAD』を『TERROR SQUAD』たらしめる、最強の武器だ。そして、「ウダ」は、大関を支える存在でもある。ステージで、横を見れば、ウダがいる。それが、どれほど心強いことか。
以前、ステージ上の曝露で演奏がままならず、進退を考え始めたときに、ウダは言った。
「オレは君のギターが無かったら唄ってないよ。」
ありがとう。わかってる。今回も、ギターの隣りで、思う存分、暴れてくれ。

おりしも、amazonプライムから、映画『MINAMATA―ミナマター』の情報が流れてきた。大関は、唯一、空気事情を意識する必要のない自宅で、静かに、作品と対峙した。
いまだ完全解決とは言い難い、水俣を襲った公害。この国の闇を、ジョニー・デップが真正面から見据えた作品だ。自ら伝説のカメラマン「ユージン・スミス」を演じている。
重大な健康被害と環境汚染、そして次世代への影響。原因物質を排出する企業が、被害を知りながら目を背ける、理不尽。香害と重なった。悔しかった。おもわずSNSに投稿した。

「いち公害(香害)被害者として見たけど、涙無しには見れなかった。世界中の人に見てほしい。頑張らないとな」

打ちのめされそうになる。泣き言を言いたくもなる。痺れに苦しみ、吐いて、吐いて、頭痛に呻く。それでも、何度でも、何度でも、立ち上がる。泣き寝入りなんてするものか。
オレは、ロッカーは、挫けない。

大阪の空気事情に赤信号。ノーマスクで作った笑顔。

8月31日、ちょっとうれしい出来事があった。『TERROR SQUAD』の新しいデザインTシャツが納品されたのだ。これが、おもいのほか、クール。黒地に青の図案が映える。SNSに投稿すると、ファンたちが湧いた。期待に応えられる物販を用意できたようだ。丁寧に畳んで梱包し、機材車に積み込んだ。さあ、準備を始めよう。

ツアー時は荷物を最小限にしたい。今回、アンプは会場の機材を使う。スピーカーやケーブルで音が変わることもあるので、ケーブルとペダル類は、使い慣れたものを、積み込む。
ギターは、愛用のストラトを1本。サブギターも持ち込むことはあるが、今回は、メインギター1本で勝負だ。

出発三日前。木曜日の夜。ギターの弦を張り替えた。

一方、大阪には、9月14日(木)、15日(金)に、海外勢が到着。16日(土)の公演は大盛況のうちに終わった。

その夜、大関は機材車のハンドルを握り、サポート・メンバーのキャッツ邸へ向かった。不特定多数が乗車する交通機関は、ガス室と化している。長距離の移動には、リスクが伴う。「無香害の」車で移動するしかない。
宇田川は別スケジュールのため、ドラム・ジョーカーとベース・前川が同乗。
キャッツ氏の運転で、深夜の高速を一路大阪へ。二日間で東京ー大阪を往復する強行日程。
だが、大丈夫。キャッツ氏は、元カーレーサー、プロ中のプロなのだ。4人は、その運転技術に全幅の信頼を寄せている。
助手席に乗り込んだ大関は、キャッツ氏と、道中の会話を楽しんだ。ふたりにとって、往路は有意義な時間となった。

明けて17日、大阪の手前のサービスエリアが見えてきた。ここで仮眠をとる予定だったが、二人とも眠くなかった。そのまま会場へ直行した。

早朝、現地入り。
SNSの向こうで心配しているファンたちのために、ノーマスク姿の動画で到着を知らせた。人気のない早朝、動画を撮る数十秒は、笑顔を見せることができた。
ところが、そこへ強い抗菌臭が流れてきた。見れば、数人の人影。放たれた成分は、風に乗り、直撃した。
「無理だ。移動しよう。」

軽く食事をとりたくて、街を歩いたものの、チェーン店しか目に付かない。コンビニに立ち寄った。抗菌洗剤臭が鼻についた。空気事情をポストした。「大阪ニオイキツい、抗菌系多し」。
おにぎりで腹ごしらえをして、会場前へ移動した。嫌な予感がした。

「香害」を知るバンドマン仲間たち。配慮を超えた、見えない力。

仮眠をとらぬまま、午前10時に会場入り。
ライブハウスは、「東急ライブプラザブーミン」ビルの5階にある。
1階のテナントは、「ドン・キホーテ」。同店おすすめ日用品の第2位は、大関を苦しめる柔軟剤だ。
そのうえ、エレベータは店内にある。横には、トイレットペーパー売り場。さいきんの紙製品は香料付きが主流。また、紙は多孔質で移香しやすいことから、店内の他の製品の香りも吸着している。その一角は、強いニオイを放っていた。呼吸がままならない状態を耐えて、エレベータで機材を搬入。少しずつ、ダメージが、蓄積していく。

楽屋はふたつ。海外勢と日本勢が、それぞれ使う。
用心深く、息を止めて入室した。1分といられなかった。飛び出した。それまでの出演者に抗菌系洗剤のユーザーがいたのか、狭い楽屋内に成分が充満していたのだ。
楽屋、客席、ステージ、物販エリアは空調が効いている。だが、それ以外の場所では汗が噴き出す。大気汚染と暑さの、両方が体力を奪う。

ため息をつく大関に、見知った顔が近づいてきた。
前日に出演した『FAST KILL』のギタリスト・望月氏だ。一泊したようで、「挨拶だけでも」と、声をかけてきたのだ。『FAST KILL』と『TERROR SQUAD』は、ツアーを共にしたこともある、旧知の仲。ツアー先で出会う仲間の存在が、どれほどの安心感をもたらすことか。あたたかな心遣いに、顔がほころぶ。
楽屋側の非常階段で、望月氏とベース・前川、大関の三人は、会えなかった数年間を埋めるかのように、語り合った。近況を報告し合う中で、望月氏が「香害」について知っていることがわかった。感謝しかなかった。

午前11時半。リハーサルが始まった。
通常、『TERROR SQUAD』は、ステージ内で音量バランスをとる。ボーカルとコーラス以外は、モニタースピーカーからの返しは不要な状態にもって行く。今回は広めの会場だが、PAの腕がすばらしかった!注文することは何ひとつなく、順調に調整を終えた。

ステージも確認した。
高さは、80センチ。揮発した化学物質を避けるには、微妙な高さだ。
ステージと客席を隔てる柵は強固だった。ボーカル宇田川は、客席に降りられないかもしれない。だが、直立不動で歌ったとしても、エネルギーの溢れ出る漢だ。問題はない。
ほぼ同じ高さのステージは、川崎市のライブハウス『CLUB CITTA』で経験がある。1300人収容のハコだ。
客との距離が近いライブハウスでは、一体感が生まれやすい。とはいえ、キャパの大小は、客との交感には無関係だ。ステージの広さを味方につければ、動きやすく、ダイナミックなパフォーマンスを展開できるからだ。

出番2時間前、3人でリハーサル終了。
ここに、新幹線で来阪したボーカル宇田川が合流。4人で戦う体制が整った。
あとは、本番を待つのみだ。

とはいえ、今回は、事前に無香害化の呼びかけをできなかったこともあり、香害原因製品ユーザーの関係者も、ちらほら。会場内には、抗菌系洗剤や柔軟剤のニオイが漂っている。
ひとりのスタッフが近づいてきた。リハーサルを高評価する言葉に、大関は礼を言おうとした。ところが、抗菌系洗剤の成分に包まれ、吸い込んだ化学物質が喉に刺さった。「ありがとうございます。よろしくお願いします」―――定型文を返すのが精一杯。急ぎその場を離れるしかなかった。

香害原因製品のユーザーたちは、清潔を保とうとして、良かれとおもって使ってしまう。その中身はといえば、危険な物質なのだが、メーカーの華やかな宣伝が、これを覆い隠す。ユーザーは安全性を疑わず、使い続ける。それが習慣になった後に、口コミやSNSや自治体のウェブサイトなどから、リスクを知る。誰でも習慣を変えることは難しい。ユーザーたちは「香害」による被害を訴える声に直面して戸惑うことになる。

一方、海外勢はといえば、無臭だった。なぜ、この国は、悪臭に満たされるようになったのか。

メーカーへの怒りが湧き上がり始めたそのとき、偶然、『TERROR SQUAD』の後に出演する『ROSEROSE』のドラマーと、顔を合わせた。
楽屋前で、少しだけ話す時間を得られた。驚くべきことに、彼も「香害」について知っていた。セスキと酸素系漂白剤で洗濯しているというのだ。

「香害」のリスクを知るバンドマンが、確実に増えている!
大関には、ステージに立つ4人の姿が、はっきりと見えた。
そう、大丈夫だ。ベース・前川が、最高のセットリストを用意している。1st.アルバムから『Disco Bloody Disco』『Blood Fire Metal』をチョイスしたのだ。
4月28日、『西横浜 EL PUENTE』での『DEFILED』のレコ発ツアーの初日に、演奏。それ以降は演奏していなかった2曲だ。

東京を発つ直前、大関は語っていた。「スラッシュな楽曲を2曲演る。今回のイベントには丁度いい。ヘッドバンギングでもモッシュでも、お客さんには、好きなように楽しんでもらいたい。」

東京では見られなかった、不利な条件。
無香害ライブ史上最大の試練。4人は、どんなステージを見せるのか。

ファンも、バンドマン仲間も、DJも。音楽愛が生み出す、演奏の場。

いよいよ、この時が来た。

2日目は、7バンドの競演。開場14時、開演15時。『TERROR SQUAD』は、2番目だ。15時45分から16時15分、30分間を駆け抜ける。その後を『ROSEROSE』が引き継ぎ、海外勢が狼煙を上げて、23時に終了となる。

開場するや、同じTシャツを着た客が何人も、吸い込まれるように、ハコに入っていく。
そのデザインに、見覚えがあった。過去に販売したものだ。来阪は、2021年初頭以来。テラーが来る!!大阪に来る!!ファンたちは、この日を待ちわびていた!
うれしかった。心が震えた。

トッパーの『縁魔』が、優れたパフォーマンスを披露して、持ち時間を終えていた。客たちは好反応。すばらしいスタートをきった!
ステージに上がった。はっきりと、客が見えた。期待に満ちた、顔、顔、顔。

いつも通りの手順で、セッティングを開始した。ところが、なぜか、注意が逸れる。
「う!このニオイは......!?」
抗菌剤の異臭を目で追う。リハーサル後、礼を言いそびれたスタッフが、アンプの傍にいた。
混乱した。危険だ。逃げろ。いや、セッティング中だ。身体の反応と、冷静な頭脳。葛藤が生まれた。

そこへ、見知った顔が近づいてきた。大阪のバンド『WRECKING CREW』のギター&ボーカルの林氏だ。
化学物質過敏症を理解している、仲の良いバンドマンだ。驚くべきことに、林氏は、ギター側のステージ・スタッフとして参加してくれていた。事情を説明すると、大関をかばうように、抗菌系洗剤使用のスタッフに駆け寄り、遠ざけてくれた。それだけではなく、「香害」について説明している様子。悪いのはユーザーではなく、メーカーだ。ありがとう!助かった!

気を取り直して、ストラトの音を確認。温度変化で微妙に狂ったチューニングを調整。
セッティングを終えようとしたその時だった。大関の耳に、聴き慣れた歌が飛び込んできた。
DJが選んだのは、David Lee Roth『Yankee Rose』。
底抜けに明るく、優れたパフォーマンスの名曲だ。
耳を疑った。これは中学生の頃コピーした曲じゃないか。オレは将来ギタリストになると確信していた。毎日、帰宅すると、練習に没頭した。
DJ!GJ!サイコーの選曲だぜ。
イントロのギターとボーカルの掛け合いに、手が自然に動いた。合わせて弾いた。心が晴れ渡った。
よし、このまま、本番突入だ!

日本チームとしての使命。海外勢をも圧倒、渾身の7曲30分。

ドラム・ジョーカーが、スティックを振り下ろした。お決まりの煽りに、宇田川が叫んだ。
「Straight to Hell!!!」

湧き上がる、大歓声。宇田川の第一声で、会場は、瞬時に、テラー・ワールドと化した。
1曲目から、宇田川は動いた。ステージの端に足をかけたままマイクを握りしめ、客席との空間を、詰めた。
激烈なサウンドの切れ目に、大関のメロディアスなギターが顔を出す。激しさと、美しさと。

興奮冷めやらぬ客たちをしり目に、間髪を入れず、『Disco Bloody Disco』

ドラムの鬼気迫る熱演。激しく、強く、たたみかけるリズムセクション。
1st.アルバムを作った時は、多重録音。大関がベースも弾いた。そのパートを、今は、信頼できるベーシスト・前川が弾く。
顔を見合わせ、ギターも爆走。前川のボンバーヘアと大関のウルフカットが激しく揺れる。客たちの身体も動く。エネルギーが溢れ出る。

すこし息をきらしつつ、宇田川が、感謝を爆発させた。「TTFに呼んでくれてありがとーっ!!」
そして、強い意志を湛えた目で、客席を見据えた。
「次は、新曲! 『No Wrong Way』!」

新曲だ!どよめく客たち。
昨年末に東京で初披露、演奏を重ねているが、関西での演奏は初めて。もちろん、この曲でのシンガロングも初めてだ。
どんな曲なんだ?想像する間を与えず、演奏は進む。体感しろよ。それが、すべてだ。宇田川の突き上げる拳に、拳で返せ。
Go Ahead! Go Ahead! 前へ、前へ!!
中盤、ギターソロが始まった。アラン・ホールズワースを意識して書かれたフレーズ。両者のファンは気付いて、さらに感激!大関も、なりきって盛り上げる。この曲、かっこいいぞ!弾ける客たち。

マイクを握り直し、満面の笑みで応える、宇田川。
その背後で、大関がカウントを始めた。4曲目は、『Bastards』!
トリル!スクラッチ!ライトハンド!視覚にも訴える、ギターワーク。ピンポイントで使うテクニックに、ギターファンの目は釘付けだ。
リズムセクションは、ゾーンに入った。汗を吹き飛ばしながら、ひた走る。
宇田川に呼応して、客も叫ぶ。Bastards! Bastards! Bastards!

次は何だ!次の曲は!?そこへ、聞き慣れた、イントロが。ファンたち期待の『闇より深く・・・』!
丹念に創り込まれた楽曲と、激しいボーカル、高速のリズム、ドラマティックなギター。
ボーカルは強固にメタルを突き進み、ギターはノンジャンルの雰囲気を醸す。
1曲の中で、相反するイメージが、融合。『TERROR SQUAD』の独自性が、くっきりと浮かび上がった。

ふたたび宇田川の小気味よいMCを挟み、来たぞ!『Blood Fire Metal』
前のめりに刻み、突き上げるリズム、超高速のドラムのスティックは霞んで見える。客席に、音が迫る。轟音、繰り返すリズムは、土着の祭りのように、身体を中から揺さぶる。
すさまじい熱気。4人のTシャツから、汗がしたたり落ちる。

そしてラストは......宇田川が上を向いて、叫んだ。
『Chaosdragon Rising』!!

持てる力を振り絞り、走り、飛び、吠える、ボーカル。
前列の客に届いたエネルギーが、情動の塊となって、瞬く間に、波紋のように拡がっていく。
共鳴する客たちの熱量を、手を拡げて受けとめては返す。
その熱量を支える、激しいプレイ。ギタリストの呼吸は自ずと荒くなる。

会場入りから10時間、大関は、ずっと汚染された空気の中にいた。持ち前の忍耐力に、ライブ特有の高揚が、呼吸の辛さを麻痺させている。
このまま弾き終えろ!あと少し!
宇田川も、前川も、ジョーカーも、客席のキャッツも、そして大関自身も、知っている。最後の1音が、会場に響き渡ることを。自分たちが手繰り寄せる未来を。
単音速弾きのギターソロが始まった。ファンたちには、おなじみのフレーズ。ピッキングを抑え、なめらかにつながる音の粒を、繰り出していく。高音域へ駆け上るフィンガリング、独特の和音。
ボーカルが煽る! ドラム、ベースが、たぎる! 音の渦が巻きあがる! 渾身の、ピッキング!!

そして祈りは届いた。

突き上げる拳。鳴りやまぬ声援。
天を指して、応えた。視界が、滲んだ。

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写真:演奏を終え、客の声援に応える『TERROR SQUAD』(キャッツ氏撮影)

成功の要因は、「オシ」バンドへの情熱と、正しい知識。

演奏が終わり、物販が始まった。新しいTシャツに、ファンたちは大喜び。
その笑顔を見届けたかった。だが、容赦なく襲い掛かる、化学物質。長居は不可能だった。

短時間だけなら......客席に行ってみた。『AMORPHIA』が演奏中だった。インドのバンドだ。カッコいいじゃないか!
抗菌成分を避け、屋上へ逃れた。しばらくすると、演奏を終えた彼らがやってきた。
ひとこと伝えた。「GREAT SHOW!!」
二言三言、かわした。初対面。音楽は、人と人の間の、透明な壁を取り払う。ありがとう、TTF。

夢のような二日間が、過ぎ去ろうとしていた。
いつもなら直帰だが、今回は遠路だ。昨晩から、まともな食事にありついていなかった。ベース・前川と外に出た。 松屋へ立ち寄った。客の姿はなかった。漂ってくる香害もなかった。涼しく、穏やか。
来阪してからというもの、暑いか臭うかの二択を迫られていただけに、ホッとした。かろうじて食事をとる気力は残っていた。ゆっくりとではあったが、完食できた。

大阪の空気の質は、東京のそれとは違う―――カナリアの嗅覚は鋭い。大関は嗅ぎ取っていた。
東京が「ほぼ無臭:6、柔軟剤:3、抗菌消臭系:1」なら、大阪は「ほぼ無臭:5、柔軟剤:1、抗菌消臭系:4」だ。柔軟剤の香料よりも、抗菌消臭系洗剤のニオイが強い。この成分は、喉に刺さり、気道閉塞を引き起こす、厄介な化学物質だ。
にもかかわらず、感知できないひとが少なくない。避けなければ、危険。これを伝えることの難しさときたら!

撤収を待って、キャッツ氏は機材車を発進させた。夜の高速道をひた走る。

その頃、客たちは、ライブの余韻に浸っていた。SNSには、高評価の声が上がり始めた。

「2番手いきなりTERROR SQUAD!
Disco Bloody Disco、Blood Fire Metalなどの攻撃的な名曲が並ぶ中、新曲披露されましたが、これがまた良い!大関さんのギターソロの美しさがたまりません。独特の展開も見事。
闇より深く、は何度聴いても痺れます。ラストはChaosdragon rising!まさしく慟哭の音楽。」

「個人的に今回の外タレ勢と同じくらいめっちゃくちゃ盛り上がったTERROR SQUAD
TTFに向けて攻めたセトリを組んだとのことですが、直近のライブでは演奏されてなかったDISCO BLOODY DISCOをブチかましに来ていて、狂ってしまいました。
ライブ後は放心状態になってました......」

ライブ翌日の朝。大関は、「X」に帰宅報告をポストした。
会場にたどり着くことさえかなわぬ、香害健康被害者たち、そして、遠隔地から見守っていたファンたち。ライブ成功を祈っていたひとたちに向けて。
力を振り絞っての、入力。それが、精一杯だった。
大関の身体の中には、呼吸や皮膚から侵入した化学物質が蓄積。それは、内側から細胞を蝕み、生命力を奪っていた。移香したギターとケースを拭き、衣類を浸け込むと、力尽きた。
東京でのライブなら、帰宅後の深夜に、ファンと関係者への感謝メッセージを投稿するのが常だ。今回も......と、気力を奮い立たせようとしたが、身体が鉛のように重かった。スマホを手に取ることさえ厳しかった。

回復したのは、出演から五日後。金曜日になっていた。facebookに、感謝の気持ちを投稿した。
「TTFのお礼、遅くなりました。数日屍でした。なんとか無事に演奏出来ました。みんなありがとう!!」

汚染された空気の中での出演となった、今回のライブ。
だが、SNSでの地道な啓発は奏功していた。香害を知る人は、確実に増えている。待ってくれていたファンたちと、正しくリスクを知ろうとする仲間、その心遣いと行動が、ライブを成功へと導く光となったのだ。

啓発は進むも、分解しない化学物質が蓄積・循環。

生体リスクと環境リスクのある、日用品。それがあたりまえのように、スーパーやドラッグストアに並ぶ。危険性に気付いてほしいーーー大関たちカナリアの必死の叫びが、届き始めている。

大阪府堺市で5月に開催された展示イベントは、好評のうちに幕を閉じ、引き続き、京都で開催。主催者の願いは、「朝日新聞アピタル」に掲載された。9月には、中央大学での大規模なパネル展

メディアへの露出は増えている。
8月9日には「NHKジャーナル」、8月23日には、NHKラジオ放送「Nらじセレクト きょうのニュースぷらす」で「柔軟剤 香りで体調不良の相談増加なぜ?マイクロカプセルが...」。
視聴者の反応も大きい。NHK「反響の大きかった番組 週間皆さまの声(7/31〜8/20受付分)」の5位に、化学物質過敏症を取り上げた、8月2日放送の「あさイチ」がランクイン。
8月24日の新潟日報「日報抄」は、給食着の香害問題を取り上げた。青森県で、8月29日に、当事者たちが、医療体制の整備などを行政に要望したニュースは、青森朝日放送や青森テレビで紹介された。兵庫県では、宝塚市教委が保護者アンケートを実施。その結果が「神戸新聞NEXT」に取り上げられた。 8月26日の「朝日新聞デジタル」は、香害や農薬散布などによる体調不良についての活動を紹介。同内容は夕刊にも掲載された。9月9日には、「毎日新聞デジタル」に、香害の実像に迫る記事(前編)(後編)。
キャットクリニックの小宮みぎわ医師が執筆したコラム(前編)(後編)は、「まいどなニュース」と「Yahoo!ニュース」に転載された。ヒトだけでなく、ペットの健康リスクから、香害をとらえる動きが拡がっている。

地方自治体による啓発も活発化している。
「香害をなくそう」facebookページによれば、長野県では、安曇野市飯田市をはじめ、議会での質問が増えているという。
ある啓発者が丹念にリストアップしたところ、9月議会で「香害」について質問をする議員は、20名にのぼっている。
愛知県豊橋市の小学校では、給食エプロンの共用が見直された。
長野県佐久市では、柳田清二市長が、「公共施設では無香料石鹸を使用することの是非」について、「X」でアンケートを実施。賛成が7割を超える結果となっている。

香害をなくす議員の会」参加者は、いまや107人。事務局を務める日本消費者連盟は、中学生が描いたイラストをもとに、ポスターを作製。先般改訂された5省庁によるポスターとは違い、当事者の困難に切り込んだものとなっている。
「カナリア・ネットワーク全国」は、電車等の座席から香料がボトムスに付着して除去困難となる現象「ケツフローラル」について、6月に「移香実験」を実施。その報告書を、要望書とともに、内閣府と消費者庁等に対して提出した。

そして、研究者たちも、身を粉にして働いている。
大気中マイクロプラスチック研究の権威、「アース・ドクター」こと、早稲田大学 大河内博教授が、洗剤と柔軟剤で洗濯した衣服から、900種程度の化学物質を検出したと発表。
また、雲水中のマイクロプラスチックの存在量と特徴を解明。海洋マイクロプラスチックが飛散して、輸送され、自由対流圏の雲水中AMPsとなる可能性を示唆した。
香害健康被害者たちは、これらの研究に、大きな期待を寄せている。香料マイクロカプセルの壁材には、メラミン樹脂などプラスチック製のものがあるからだ。環境中での動態に類似性があるのでは?と危惧しているのだ。

「香害」に終焉を。ボトムアップで、空気を変えよう。

こうしたメディアや自治体の啓発をものともせず、メーカーは矢継ぎ早に新製品を市場に投入。
巷に漂う、ミントの香り、金木犀の香り、紅茶の香り、抗菌除菌の刺激臭。香害健康被害者たちが、いま恐れている新製品だ。

ヒトの嗅覚は、ニオイに馴れる。「もう香りなしでは、生きられなくなった」ユーザーたちが、より強い香り、より斬新な香りに手を伸ばす。
除菌・抗菌製品も増えた。コロナ禍でのニーズの高まりに、メーカー各社は、抗菌成分を増強した製品を発売。
予防原則を実現する「WETシステム(Whole Effluent Toxicity)」が途上のこの国で、メーカーに技術倫理は望むべくもない。
自治体と健康被害者がリスクを共有し、ボトムアップで、一般消費者の購買行動と売り場の品ぞろえを変えるしかないだろう。

近隣、職場、学校、友人。近しいひとたちに知ってもらうべく、資料を作り、イベントや講演会を企画して、訴える被害者たち。SNSで発信する、啓発者たち。少しずつではあるが、健康リスクの低い製品に切り替える人が増えている。

そして、ついに、ライブの企画者も無香害へと舵を切った。
2023年11月11日に、『東京両国SUNRIZE』で開催される『METAL ANARCHY TOUR STRIKES BACK!!!』
出演は、『TERROR SQUAD』をはじめ、錚々たる、5バンド。
企画者は、なんと、化学物質過敏症の説明を、フライヤーの裏面に印刷しようと考えた。端的でわかりやすい平塚市のページが選ばれた。許可を得た。前代未聞のフライヤーが出来上がった。

風向きは変わる。あと一歩!

かつて水俣では、まず、猫の行動に異常が現れた。汚染された魚を食べたのだ。それから、ヒトに異変が生じた。
香害も同じだ。室内飼いの猫に、すでに異常が現れている。一日の大半を、汚染された室内ですごし、汚染されたラグの上でくつろぐのだから。
そして、ヒトに異変が生じている。
全国で増え続ける、化学物質過敏症の発症者。いまや1割に迫るいきおいだ。
特定圏域の産業公害の苦しみが癒えぬ間に、地球規模の一般消費財公害が拡大しつつある。

大関はおもう。
家族からも理解されず、孤立無援で、苦しみをつぶやくことさえできず、ひっそりとその日をやり過ごす被害者たちがいる。
オレは名を晒し顔を晒し、音楽という武器を持っている。彼らのために、矢面に立とう。

2nd.アルバムの収録曲。宇田川の書いた詩を、魂で叫ぶ。
「Fight Forever!」

有害物質には弱いカナリアだ。だがな、簡単に潰せるとおもうなよ。生きる権利を、オレは、必ず、取り戻す。

 


TTF 概要

動画ダイジェスト(TTF動画チーム制作)
『TERROR SQUAD』スナップ

出演者(タイムテーブル順)

※ リンク先は、主催者『ROCK STAKK RECORDS』X Official』が選定した、事前紹介の情報。

16日(土)LOWCARD DE LA MORTE』、『BLIND HATE』、『RIVERGE』、『SHADY GLIMPSE』、『FASTKILL』、『STRIKEMASTER(MEX) 』、『CYCLONE(US)』、『MINDWARS(US)』

17日(日) 縁魔(えま)』、『TERROR SQUAD』、『ROSEROSE』、『AMORPHIA(IND)』、『RIVERGE』、『STRIKEMASTER(MEX) 』、『MINDWARS(US)』、『CYCLONE(US)』


音源情報

当日演奏した曲の音源(bandcampほか)セットリスト順
Straight to Hell!!』
Disco Bloody Disco
『No Wrong Way』(新曲)
『Bastards』
闇より深く・・・
Blood Fire Metal
Chaosdragon Rising』、『Chaosdragon Rising』 PV (Youtube)

※CDは、残念ながら完売。アルバム2枚は、bandcampで、試聴・購入できる。

文中で引用した楽曲

TERROR SQUAD『Fight Forever

文中で紹介した楽曲(DJによる選曲)

David Lee Roth『David Lee Roth - Yankee Rose Official Video

ライブ・スケジュール

年内、4人は、アルバム制作と併行して、ステージに立つ、
会場で生音を浴びて、盛り上がろう。唯一無二の「大関の音」を体感しよう。
ご来場の際には、フレグランス・フリーを心掛けてくださいますよう、お願いいたします。

9月30日(土)憎まれっ子世に憚る十五巡目
『西横浜 EL PUENTE』13時30分開演、16時30分終演。
BAREBONES、G.L.G.、TERROR SQUAD
チケット予約(フライヤーQRコード、リプまたはDM)

10月1日(日)Nutty's Muraki pre Black Spinel Vol.3
『(東京都/町田市)ライブハウス ナッティーズ』17時半開場、18時開演。
IN FOR THE KILL、TERROR SQUAD、泥虎、Machete Tactics、Brutal Decay
チケット予約

10月8日(日)KAPPUNK 企画『KAPPUNK 2023 COUNTRY OF THE PUNKS
『(新宿LOFT or 新宿ACB』10月7日(土)8日(日)9日(月)。12時開場、12時30分開演、21時10分終演。
『TERROR SQUAD』は、2日目の10月8日(日)に出演。>>出演者リスト

11月11日(土) ダブルレコ発『METAL ANARCHY TOUR STRIKES BACK
『両国 SUNRISE』16時半開場、17時開演。
フライヤーの裏面には、「香害」啓発チラシが印刷されている。
予約はリンク先アカウントにリプまたはDM。

12月16日(土)SHELLSHOCK主催『Abstract Dischord Vol.4
『新大久保EARTHDOM』16時半開場、16時半開演。
SHELLSHOCK、324、TERROR SQUAD、SHADY GLIMPSE、DISASTER、泥虎。超速バンドの競演!!
チケット発売:9月23日(土)、各バンド予約:9月16日(土)
※当日の出演者の中に化学物質過敏症にて闘病中の方がおります。ご来場の方々には、リンク先と添付画像をご参考いただき、ご理解とご協力をお願いいたします。

12月22日(金)DIE YOU企画『Black X'mas
『新大久保 EARTHDOM』19時30分開演。
BASTARD! / TERROR SQUAD、2マン!

最新情報は、『TERROR SQUAD officialTERROR SQUAD』サポート を参照。


※本稿は、関係者の公開ツイートや投稿をもとに、情報を再構成したものです。

「6弦のカナリア」目次

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