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「技術立国」から、「技術哲学立国」へ、シフトせよ。(1)「昭和のモノづくり、デジタル化の背景」

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 原発震災により、技術立国・日本の方向性が揺らぎ始めている。
 いったい我々技術者は、どの方向に視線を定めればよいというのか?
 本日から4回にわたって掲載する記事は、3年前に執筆した、XML設計のあり方について述べたテクストからの抜粋である。
 これはそのまま、我々が眼差すべきベクトルであるかもしれない。

「技術立国」から、「技術哲学立国」へ、シフトせよ。  (1)

昭和のモノづくり、デジタル化の背景

 まず,XML登場以前の,我が国のモノづくりにおける社会背景について述べる(図1)。そこには,生販物(生産・販売・物流)における「データ交換」と,文書作成における「文書の電子化」という,2つの流れがあった。

図1 XML登場までの背景。ロジスティクス,CALS,SGML

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 1980年代初頭,パソコンとフロッピーディスクが普及すると,製造工程を持つ企業は,次々と合理化に取り組み始めた。顧客のニーズが細分化し始めることを察知した企業は,多品種少量生産のために,販売数・在庫数を記録して調整する生産管理に着手した。「FA(Factory Automation,生産工程の自動化)」は,合理化の合言葉となった。

 80年代半ばになると,FAは,CIM(Computer Integrated Manufacturing,コンピュータ統合生産,開発・製造・販売工程の合理化)へと拡大する。大規模な生産ラインを持たない企業でも,設計・製造・管理の一貫合理化が始まった。設計工程のレガシーデータを製造工程に渡して加工用データとして利用したり,設計レガシーデータと管理用詳細データを連携して,受発注や帳票管理に流用するというものである。データを流用することによって,再入力の軽減と,タイプミスによる精度劣化の防止が期待できるようになった。

 そして,80年代後半からは,各工程間で,INS回線を使ってデータを受け渡すようになった。入出力機器やアプリケーションが次々と開発され,文字列・数値・ラスタデータおよびベクトルデータの画像や図面の混在データベース化が進んだ。当時の主流はカード型データベースであり,RDB同様,フィールド名でメタデータを表す,フラットな構造であった。

 それら設計や管理用のデータは,アプリケーション固有の形式でやりとりされていた。しかし,それでは設計業者と製造業者が異なるアプリケーションを導入していると,データを再利用することができない。また,業界共通の部品データを資産として活用することもできない。ユーザは,業界標準データ交換フォーマットのサポートを,ベンダに期待するようになった。

 一方,文書については,1980年代半ばまで,印刷媒体の制作自体が手作業であった。DTPが一般化したのは1980年代後半であり,文書の電子化は,ゆっくりと進んでいた。電子化が最も必要とされたのは,マニュアルである。マニュアルには,取扱説明書やユーザーズ・マニュアルだけでなく,保守や修理に使用されるサービス・マニュアルがある。たとえば電子機器であれば,分解組立図・回路図・実体配線図・部品リストなど,1モデルだけでも大部数になる。印刷すればさらに嵩が増すものを,製品輸出先へ輸送していたのである。小型の電子機器であればまだしも,複雑なマニュアルが必要となる大型機器や設備において,文書のペーパレス化が待ち望まれたのは当然であろう。

 そこへ,CALS(Computer-aided Acquisition & Logistics Support)が登場した。
 CALSは,Logistics Supportという通り,ロジスティクス(物資・人員・設備の効率的な調達・輸送・管理)を目的とするものである。ITを用いたデータ共有とデータ互換により,製品ライフサイクルの合理化を実現するものとして広まっていった。

 90年代になると,設計・製造業向けシステムを提供する各ベンダが,CALS標準の元になる業界標準フォーマットのサポートを進め始めた。それはたとえば,CADデータであればIGES(Initial Graphics Exchange Specification,初期グラフィックス交換仕様)であった。システムを導入する企業にとって,CALS標準入出力フォーマットのサポートは,検討事項の一つとなった。

 CALSでは,標準の文書電子化フォーマットとして,SGML(Standard Generalized Markup Language,汎用マークアップ言語)が採用された。SGMLは,DTDで定義したタグを用いて文書構造を記述するものである。95年前後からは,米国業界標準に対応したマニュアル類のSGML化が,自動車や航空機業界で進む状況を報じる記事が目立ち始めた。なお,国内では95年に,マニュアルの内容と表現に影響を及ぼす,PL法(Product Liability,製造物責任法)が施行されている。

 世界的に見れば,CALSの登場が1985年,SGMLが国際規格となったのは1986年であって,CALSとSGMLは,ほぼ同じ歴史を持っていると言われている。CALS標準の「データ交換」と,SGMLによる「文書の電子化」が,それぞれ併行して発展してきた到達点に,XMLがあることになる。

 SGMLは,電子化による長期蓄積と輸送コストの削減により,文書の利用期間と利用範囲を拡大した。インターネットは,利用時間と利用空間の制約を外した。そして,インターネット対応としてSGMLから生まれたXMLは,両者のメリットを受け継ぎ,さらに利用時間と利用空間の範囲を拡大した。

 現在の経済活動は,インターネットを抜きにしては語れない。販売先やOEM供給先が拡大したり,生産拠点を移転するケースが増えたり,ユーザの居住地が拡大する一方で,ジャスト・イン・タイムがもとめられている。帳票類やマニュアルなどのXMLデータをインターネットでやりとりすることにより,より効果的なロジスティクスを見込むことができる。XMLの誕生は,時代の要請であった。

 なお,ここに記したことは,筆者が記憶をたどりつつ経験を書きとめたものである。SGMLからXMLへと移行した構造化文書専門のテクニカルライタや,RDBを手始めにしてXMLも手掛けるデータベース・エンジニア,あるいは製造工程にたずさわる技能者では,また異なる見方となるであろう。

(2)「製品ライフサイクルと、データ・ライフサイクル」 >

(2008年執筆、2009年10月10日発行、拙著オンラインブック「XML設計の心得」第4章より抜粋)

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