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「日本は著作権法が強すぎるから iTunes Match が実現できない」

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すっかり乗り遅れましたが、1週間ほど前に iTunes Match が日本でも始まりました。3年前にアメリカではじまったときにもそうでしたし、2年前に日本上陸の情報が流れたときも、「日本は著作権法が強すぎるから iTunes Match が実現できない」「(最高裁判決で示された)カラオケ法理が邪魔をするかもしれない」という話をする人がいました。あまり振り返られることもなく忘れらている人も多いかもしれません。私は当初、機能を正しく理解しておらず、こんなエントリを書いてしまった後に、訂正エントリを書くことになってしまいましたが、何はともあれ、実際に上陸を果たしたわけです。

そもそも、iTunes Match は「(米国の)フェアユースがあったから実現できた」というものではありません。もし、それだけに頼っていたら、こんなに多くの国で実現できるはずがありません。Appleはレーベルと契約した上で、このサービスを提供しています(このことはサービス開始時点から報道されています)。「iTunes Match は再生回数に応じて権利者に利益が分配される仕組み」と指摘する人がいましたが、分配する仕組みにしては安いので「iTunes Store での楽曲の配信に Match の許諾を条件としている」のではないかと私は推測しています(その契約が行き渡るのに時間がかかったことは考えられます)。これは、iTunes Plus のときに、そのような報道があったためです。そうであれば、iTunes Store で売られている楽曲はすべて許諾があります(マッチングデータを用意するという意味でも重要)。

配信契約を結んでいないところが訴え出る可能性はありますが、その場合でも「申し出のあった楽曲データをクラウドに転送しない」ようにすればよいだけです。マッチング技術があるのですから、これは容易に実現できるでしょう。そういう申し出をせずに警察に「被害届」を出したところで受理されないでしょうし(疑う人はやってみてください。“著作権”を主張するのに JASRAC 楽曲である必要はありません)、予告なく民事訴訟を起こしたところで「指定楽曲を対象から外す」以上の成果が得られるとは思えません。実のところ、そんな申し出をしたところで、誰が得をするわけでもありません。マッチングを拒否したところで、それを iTunes Store で買えるわけではないのですから(※)、ジャニーズですら、やらないのではないかと思います。
※iTunes Store で売られているのに、マッチング対象でない楽曲があったら教えてください。

2年前のエントリでも(カラオケ法理が適用された)MYUTA を取り上げましたが、MYUTA とも事情が異なります。MYUTA は、たとえ自分で CD を持っていたとしてもできないこと(着うたとして利用すること)を実現していました。だから著作権者が「積極的に」中止を求めるという事態になったのです。ちなみに、MYUTA 裁判運営者のイメージシティが原告で、JASRAC は被告です。いずれにせよ、そのままで和解する道などなかったでしょうが、カラオケ法理が適用される条件を満たしていた案件で、自ら先に裁判に訴え出てしまっただけです。たとえフェアユースのあるアメリカでも「DVD をリッピングしてクラウドに転送し、自分のデバイスだけで視聴できるような仕組み」をサービスし始めたら、間違いなく「著作権侵害」で訴えられ、敗訴するでしょう。

以前にも書いた通り、日本の著作権“運用”はけっこう緩いものです。CDレンタルなんて業態は日本にしかありません。アメリカの著名な弁護士は、もしアメリカでコミケを実施しようとしたら著作権侵害ですぐに潰されてしまうだろうと、日本のコミケを賞賛していました。私が大量の深夜アニメをデジタル放送のまま blu-ray に録画できるのも日本だからこそで、アメリカにいたらできません。いまだに「日本の著作権は世界一厳しい」などと煽る人がいますが、人々はもう少し記憶力を高めて煽られないようになってほしいものです。(iTunes Match について、もうひとつ試したいことがあるのですが、それは気が向いたときにでも)

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