新型コロナ: アメリカCDCが発表した致死率0.26%の衝撃
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■致死率0.26%
スウェーデンの状況も気になりますが、少し驚く報告がありました。アメリカCDCが"COVID-19 Pandemic Planning Scenarios"という新しい情報を公開しました。その推定によれば感染者全体に対する致死率が0.26%であると話題になっています。これは有症状者の致死率0.4%に加えて無症状者が35%いるという想定(つまり0.4%×65%)によるものです。CDCは3月には致死率1.8~3.4%と推定していましたので、桁違いに低い推定値になっています。医学雑誌「ランセット」は、無症状者がいるので初期に予想された致死率よりも低く0.66%程度になるという推定をしていたものの、それよりもずっと低い値です。
これは5つのシナリオのうち"Current Best Estimate"とされるシナリオ5によるものですが、実は他のシナリオを見ると致死率の推定値がもっと低いものがあります。以下に致死率と無症状者の割合を抜粋します。(確率はパーセント形式に修正しています)
パラメータ | 年齢 | シナリオ1 | シナリオ2 | シナリオ3 | シナリオ4 | シナリオ5 |
---|---|---|---|---|---|---|
症状者の 致死率 |
0~49 | 0.02% | 0.02% | 0.1% | 0.1% | 0.05% |
50~64 | 0.1% | 0.1% | 0.6% | 0.6% | 0.2% | |
65~ | 0.6% | 0.6% | 3.2% | 3.2% | 1.3% | |
全体 | 0.2% | 0.2% | 1.0% | 1.0% | 0.4% | |
無症状者の割合 | 20% | 50% | 20% | 50% | 35% |
シナリオ1と2では有症状者の致死率がわずか0.2%、しかもシナリオ2では無症状者が50%いることになっているので、感染者全体の致死率は0.1%となります。シナリオ3でも感染者全体の致死率は0.8%で、このシナリオだけがランセットの推定値(0.66%)を超えます。別記事で取り上げましたがインフルエンザの致死率が0.1%だそうですから、最も低い推定値どおりであれば致死率はインフルエンザ並ということになります。
■低い致死率に対する疑問
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」では、乗員・乗客3711人を全員検査し、陽性者が712人(うち無症状者331人)、現時点での死亡者14人(オーストラリア帰国後の死亡者を含む)であることが判明しています。高齢者の致死率が高いと言われているとおり、すべての死亡者は70歳以上ですが、全体を分母としても致死率は2.0%、有症状者(712-331=381人)を分母とするなら致死率が3.7%になります。クルーズ船の死亡者が全員70歳以上であるという年齢を考えても上記の表のどれにもあてはまらないくらい高い値ということになり、実は「日本人は死にやすい」のではないか、ということになってしまいます。
そうではないでしょう。世界中で最も新型コロナの状況が悪いのはアメリカです。アメリカのいくつかの州では、すでに"人口"に対する死者数が0.1%を超えています。ニューヨーク州=0.15%、ニュージャージー州=0.13%、コネチカット州=0.11%、マサチューセッツ中=0.10%です。感染者全体に対する致死率が0.1%なのであれば、全員が感染していたとしても足りません。さらに、クオモ知事のツイート(5/3時点)によればニューヨーク市での抗体検査の結果は19.9%、その他の地域も2割前後です。この時点でニューヨーク州の人口当たりの死者数は0.1%を超えていましたし、そもそも、この抗体検査は(無作為抽出ではなく)ボランティアで行われているため検査してほしい(おそらく感染の確率の高い)人が集まりやすい可能性もあります。都市部で肥満や基礎疾患を持つ人が多いという可能性を否定するわけではないですが、それでも"死にやすい人"がそこまで偏って集まっていたというのは、ちょっと信じがたい話です。
スウェーデンの状況については改めてまとめたいと思いますが、先月末には「ストックホルムでは集団免疫を獲得しつつある」と発表したにもかかわらず、先週発表された抗体検査の結果が7.3%でした。「抗体ができるまでの時間を考えると、予測との差はあまりない」と言っているようですが、現在の死者数4266人に対して致死率0.26%なのであれば感染者は164万人、致死率0.1%であれば感染者は427万人となります。新型コロナは感染して即死するわけではないので、死者数の増加は感染者数よりも遅れているはずですから、人口一千万人の国なら本当に集団免疫が獲得されていてもよさそうなくらいです。しかし、スウェーデンの最新の報告による週ごとの感染者数を見る限り、感染者の増加がおさまっているようには見えません。そもそも、そんなに大量の感染者がいるなら、まったく検査が追い付いていないということにもなります。抗体検査の結果はストックホルムより他の都市の方がずっと低い値でしたから(スコーネでは4.2%、ヴェストラ・イェータランドで3.7%)、地方への感染はこれから進むとも予想されます。
週 | 感染者数 |
---|---|
4~8(-2/23) | 1 |
9(2/24-3/1) | 13 |
10(3/2-8) | 211 |
11(3/9-15) | 835 |
12(3/16-22) | 911 |
13(3/23-29) | 1943 |
14(3/30-4/5) | 3211 |
15(4/6-12) | 3711 |
16(4/13-19) | 3741 |
17(4/20-26) | 4171 |
18(4/27-5/3) | 3704 |
19(5/4-10) | 4028 |
20(5/11-17) | 3652 |
■CDCの報告は何を意味しているのか
シナリオのパラメーターは「公衆衛生の準備と計画を目的とした推定であり、新型コロナの起こりうる効果を予測したものではなく、行動の変化や社会的距離、その他の介入による影響を反映していない」そうです。決して英語が得意なわけではないので読み取り足りないところがあるのかとも思いましたが、それでも、この推定は上記の疑問に答えてはくれません。これがトランプ大統領の雇った外部機関なのであれば「経済を再開させたいがために、わざと低い致死率を推定させている」と思うところですが、一度は不良品の検査キットを配ってしまったCDCにとって、そんな失態は避けたいはずです。そもそも、この推定が事実なら大手メディアがこぞって取り上げそうなのに、意外にそうした記事が見当たりません。
......と思っていたのですが、BuzzFeed.Newsに"The CDC Released New Death Rate Estimates For The Coronavirus. Many Scientists Say They're Too Low."(CDCが新型コロナウイルスに対する新しい致死率を発表。多くの科学者が低すぎると言っている)という記事がありました。
"New CDC estimates of coronavirus death rates look suspiciously low and present almost no data to back them up, say public health experts who are concerned that the agency is buckling under political pressure to restart the economy."
(新型コロナウイルスの致死率に関するCDCの新たな推定値は疑わしいほど低く、それらを裏付けるデータはほとんどない、と公衆衛生の専門家は語り、この組織は経済を再開させる政治的な圧力の下で捻じ曲げられたのではないかと懸念しています)
トランプ大統領から「経済が再開できないのは不良品の検査キットを配ったオマエラが悪い、再開させる材料をよこせ」とでも脅されたのでしょうか。そうだとしたら、まさに「衝撃」ではあります。