新型コロナ: スウェーデンに学ぶ新型コロナ対策※追記あり
※2020/7/4重要な追記。トップページに案内されているとおり、オルタナティブブログ全体でコメント機能が無効化/非表示となりました。新たなコメント、過去コメントについては「はてなブログ」を参照してください。
■スウェーデンと集団免疫
新型コロナに関しては、ほとんどの国で感染拡大を防ごうと外出禁止のような厳しい規制をかけている中、手洗いを奨励したり、高齢者との接触を抑止する程度で、厳しい規制をかけていないのがスウェーデンです。「スウェーデン、集団免疫に見通し」(共同通信)によれば、「同国首都では今後数週間以内に「集団免疫」を獲得できる、との見通し」が示され、スウェーデン政府の感染対策リーダーであるアンデシュ・テグネル氏によれば「ストックホルムでは既に25%が感染して免疫を獲得したとの見解が表明」されました。
※2020/5/10重要な追記。コメント(2020/05/09 21:58)で教えていただきましたが、この「25%」という感染率は、PCR検査や抗体検査の標本調査などを行ったものではなく、数理モデルによる予測値とのことです。この研究によれば、ストックホルムでは感染のピークは4月中旬にあらわれ、5月には落ち着き始めると予測されています。行政が、このような予測値を公式の発表とすることは驚きです。地域別に確認されている感染者数はこちらで参照でき、5/8時点の情報としてストックホルムの感染者数は9227人(全体の36.5%)です。スウェーデン全体の死者数(現在3220人)と致死率などから逆算すると、ストックホルムでの感染率が予測値通りに進行している可能性は否定できないものの、発表された感染率が標本調査のような結果でないことはご留意ください。
スウェーデンの人口は1022万人で現在確認されている感染者数は19621人(4月28日時点)ですが、人口96万人のストックホルムで25%が感染しているということは感染者数は最低でも24万人ということになり、まったく感染者の実態を追跡できていなかったということになります。NHK「おはよう日本」では「他の国のような感染の爆発的拡大は起きていません」と伝えていましたが(NHKプラスで見逃し視聴できます、48:08~)、とっくに感染が広がっていたということです。
※どのような検査による判断なのか分からないですし、そもそも抗体を持っても免疫を獲得できるとは限らないという指摘もありますが、その点は脇に置いておきます。
これは悲報ではありません。感染者が多いのに死者数が少ないのであれば、結果として致死率が下がるため、それほど怖がる必要がなくなるかもしれないということだからです。集団免疫を獲得するまでの「今後数週間」が具体的にどれくらいの期間なのかは分からないですが、スウェーデンの感染者数は1カ月前には3447人(3月28日時点)であり、この1カ月で5倍以上に急増したことを思うと、集団免疫を獲得する感染者率が50%(※)だとしても、それほど時間はかからないのかもしれません。
※フランスの原子力空母では乗組員2300人のうち半数が陽性反応が出たことが報じられています。
■年齢と死者数
スウェーデンの死者に関する年齢別データがこちらで参照できます。現時点の死者は20代が5人、30代が8人、40代が25人、50代が81人、60代が185人、70代が549人、80代が938人、90代が564人、計2355人となっています。70代以上が87%を占めており、やはり高齢者にとってハイリスクな感染症であることがわかります。
もともとスウェーデンは寝たきりになってまでの介護をせず、自分で食事ができなければそれまでという国で、延命治療もされません。worldometerによれば「感染終了(CLOSED CASES)」の3360人のうち、「回復(Recovered)/退院(Discharged)」が1005人(30%)に対して、「死亡(Deaths)」が2355人(70%)と非常に高い割合です。感染者全体に対する「重症(Serious)/重篤(Critical)」の割合は決して高くないのですが(現時点で3%)、高齢者に対しては積極的な治療が行われていないということかもしれません。今のところスウェーデンで医療崩壊しているような報道はありません。
スウェーデンの状況をブログに書かれているglobaljourneyさんによれば、そもそも「慢性閉塞性肺疾患やBMIが40以上の人、中毒患者、ペースメーカー利用者など、1つまたは複数の深刻な全身性疾患のある患者には、集中治療室での治療を施すべきではないというガイドライン」が出されているそうです。日本では考えにくいことですが、重症化しやすい(あるいは救命しにくい)人を積極的に治療をしないことは医療崩壊対策になりそうです。
■日本との人口比で考える
こちらにあったスウェーデンの年齢別人口構成を日本の最新の人口構成に合わせて計算してみます。2020は予測値で実数とは若干ずれがありますが、ご容赦ください。
年齢 | スウェーデン 人口(万人) |
死者数 (実数) |
割合 | 日本人口 (万人) |
死者数 (換算値) |
人口あたりの 死亡率 |
---|---|---|---|---|---|---|
20代 | 131 | 5 | 0.2% | 1266 | 48 | 0.0004% |
30代 | 135 | 8 | 0.3% | 1414 | 84 | 0.0006% |
40代 | 129 | 25 | 1.1% | 1837 | 356 | 0.0019% |
50代 | 130 | 81 | 3.4% | 1639 | 1021 | 0.0062% |
60代 | 111 | 185 | 7.9% | 1588 | 2647 | 0.017% |
70代 | 99 | 549 | 23.3% | 1615 | 8956 | 0.055% |
80代 | 44 | 938 | 39.8% | 906 | 19314 | 0.21% |
90以上 | 10 | 564 | 23.9% | 241 | 13592 | 0.56% |
合計 | 1029 | 2355 | 100% | 12596 | 46018 | 0.037%(日本)※ |
※2020/4/30追記。
換算人数は各年代ごとのスウェーデンにおける致死率を日本の年代人口と乗じたもので、日本はスウェーデンに比べて少子高齢化が進んでいるため相対的に高齢者の死者数が多くなります。現在のスウェーデンの人口当たりの死亡率は0.023%(=2355/1022万人)です。
スウェーデンで高齢者が積極的に治療されないために死亡率が高くなることは、少子高齢化が進む日本での死者数を多く見積もらせる要因になっていることから、60代以下の死者数(スウェーデン=304人、日本=51人)の比率を、現時点の高齢者の日本の死者数(70代=77人、80代以上=147人)に適用してスウェーデンの調整した死者数とした場合、70代=451人、80代以上=862人となります(表内の(*)印)。この数値を使った表も以下に示します。(以下の本文でも調整値について追記しています)
年齢 | スウェーデン 人口(万人) |
死者数 (※上記) |
割合 | 日本人口 (万人) |
死者数 (換算値) |
人口あたりの 死亡率 |
---|---|---|---|---|---|---|
20代 | 131 | 5 | 0.3% | 1266 | 48 | 0.0004% |
30代 | 135 | 8 | 0.5% | 1414 | 84 | 0.0006% |
40代 | 129 | 25 | 1.6% | 1837 | 356 | 0.0019% |
50代 | 130 | 81 | 5.0% | 1639 | 1021 | 0.0062% |
60代 | 111 | 185 | 11.5% | 1588 | 2647 | 0.017% |
70代 | 99 | 451(*) | 28.0% | 1615 | 7357 | 0.046% |
80代以上 | 54 | 862(*) | 53.5% | 1147 | 18310 | 0.16% |
合計 | 1029 | 1612(*) | 100% | 12596 | 29823 | 0.024%(日本)※ |
(追記終わり)
現在のスウェーデンの死者数を日本の人口に当てはめて考えると死者数は5万人弱(調整した値で約3万人)というところです。別記事では致死率2%と計算していたのに桁違いに割合が低いじゃないかと怒らないでください。これは、現時点での人口に対する死者の割合であり、スウェーデンの全人口に対してどれだけ感染者がいるかは分かっていません。首都のストックホルムで25%ということなら地方ではもっと割合が低いでしょう。それこそ全国での平均感染率が10%くらいなのであれば、ざっと感染者に対する致死率は10倍ということになりますし、これから死者が増えればさらに割合は高くなります。
もっとも、感染者に対して2%の致死率というのは高い見積もりだったかもしれません。ニューヨーク州での抗体検査では、14%で抗体が確認されたと報道されました。ニューヨーク州での現在の死者数は人口の0.12%ですから、集団免疫を獲得すると言われる50%まで増えるとして計算すると単純計算で人口に対する死亡者は0.42%(感染者に対する致死率は1%未満)になります。
■「スペインかぜ」との比較
新型コロナは100年前の「スペインかぜ」と対比されることもありました。wikipedia を見ると、スペインかぜでは世界中で1700万~5000万人が死亡し、1億人に及んだ可能性もあるそうです。Our World in Dataに、各国の寿命を示すグラフがあり、どの国も年を追うごとに伸びているのですが、1918年前後だけ10年近くも寿命が縮んでいます。スペインかぜは若年層の死者が多く半数が20~40歳の間だそうですから、寿命に与えた影響も大きかったのでしょう。
それに比べれば新型コロナの犠牲者は高齢者の比率が高いので、寿命に与える影響もわずかと思われます。ざっくり人口の1%が10歳早く死亡したとしても、平均寿命が0.1歳縮まる程度ですから、年ごとの平均寿命の伸びよりも小さいくらいです。スペインかぜとは比べるようなものではありません。
■現在進行形という意味
いかがでしたでしょうか。規制のないスウェーデンの現状を見る限り、新型コロナは決して恐ろしいものではありません。
......そんな締めくくり方をするわけがありませんね。そもそも、今見ているスウェーデンの数字は、決して「終わった数値」ではありません。新型コロナは感染したら即死するというものではありません。訃報が伝えられた岡江久美子さんの場合、発熱が3日、感染が確認されたのが6日で、23日に亡くなられたそうです。今すぐ感染者の増加がゼロになったとしても、これから死者数は増えていき、減ることはありません。スウェーデンの感染者数がこの1カ月で急増したことを考えても、死者数が倍増するくらいはあり得ると考えています。もっとも、実はNHKの番組で「死者が減り始めています」と伝えられていました。たしかに日によって差はあるものの、感染者が増えているのに死者数が増えないなんてことがあるのか、ちゃんと検査されて確認されているのか少し疑問はあります。
いずれにせよ首都での感染者率が25%なのであれば、集団免疫を獲得するまで"これから"感染者が倍増するということです。地方の感染者率が低いのであれば、もっと増えることになります。最終的な死者数が今の何倍かになっても何の不思議もありません。これまでの感染者に対して倍増、さらにこれから倍増するであろう感染者の分を合わせて4倍増としても18万人(調整した値で12万人)が死亡する計算になります。西浦博氏の推測した42万人の半分以下ですが、これは"少ない数値"でしょうか。これで収まるでしょうか。
スウェーデンは積極的な治療をしないから致死率が高いのであって、日本はそんなことにはならない、という話は現実味がないと思います。日本の医療が世界的に見てもリーズナブルかつ高度であることはいうまでもありませんが、すでに新型コロナ以外の治療にも影響が出ている状況で、医療機関から悲鳴が上がっています。通常の医療レベルが維持できていないという意味では、すでに医療崩壊しています。これ以上感染者が増えたら、十分な対応はできなくなるでしょう。何を考えているのか「防護服なしで治療すれば負担が減る」という声もあるようですが、そんな特攻隊のようなことを命じたら逃げ出す医者や看護師が続出して、いっそう医療崩壊が加速することは容易に想像できます。ここでは致死率しか計算していませんが、それ以上の割合で重症化はするのです。
スウェーデンも若い人には治療をしているでしょう。スウェーデンの死者のうち70歳以上は87%ですが、高齢者を救命している日本では70歳以上は81%です。若い人も一定の割合で亡くなるのです。そして日本はスウェーデンと違って死にゆく高齢者を見捨てるような社会ではありません。高齢者に対しても必要な治療や介護をする体制があり、世代を分断するような仕組みになっていません。
仮に国政を担う議員たちが「高齢者たちは変革を受け入れよう」などと言い始めたら、選挙で落選し、そのような政党は政権を失うでしょう。スウェーデンが特別なのです。"経済合理性"のために急にスウェーデンのマネをしようといっても、そんなことにはなりません。中国や韓国のように自粛によって感染を抑え込んでから、徐々に経済を再始動するしかありません。一刻も早く抑え込むためには、皆が協力してできる限り接触を避け、感染が広がらないようにすべきなのです。