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新型コロナ:スウェーデンは成功したのか

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■スウェーデンの集団免疫策
この記事から1カ月経ちました。この時点で2355人だった死者数は、4395人にまで増え、単純に日本人の人口に換算したら約3万人だったものが今では87%も増えて約5.5万人相当です。日本は致死率の高まる高齢者人口が多いので、先の記事のように年齢人口で重みづけすると約8.5万人相当に及びます。

こうした状況ですから、かつて「日本もスウェーデンを見習うべき、彼らは乗り越えて勝利した」と言っていた人たちも、スウェーデンについて語らなくなりました......と思いましたが、そうでもないようです。「スウェーデンの集団免疫、いよいよ「効果アリ」の声が聞こえてきた」(現代ビジネス)という記事では、スウェーデンの集団免疫策を肯定的に紹介しています。しかし、今のところ集団免疫を獲得しそうと発表されているのはストックホルムだけです。ヨーロッパの他国より低いと書かれている人口当たりの死者数について、そのストックホルム(Stockholm、人口238万人)では現時点で2055人で、100万人あたりでは863人となり、最も死者率が高いと紹介されているベルギーの816人を上回っています

スウェーデンを見習うべきだという人は、日本で数万人規模で死者が出ても「経済を思えば、割り切れる人数」と主張するのでしょうか。スウェーデンでは、延命治療もせず、自力で食事できない人は介護も打ち切られるほど"割り切った"国です。その分、少子化もしておらず、高齢者の比率は日本に比べてずっと低いのですが、そういう国のマネが日本にできるでしょうか。そもそも、その人たちはスウェーデンの死者数が何人くらいに収まると思っているのでしょうか。

付け加えるなら、集団免疫策が有効なのは抗体を獲得した後の免疫力が続く間だけです。その免疫力が数年、あるいは数か月で切れてしまうなら、その後で、ふたたび感染が広まることになります。獲得した免疫がどれくらい維持されるのか、たしかなことは分かっていません。集団免疫策は、本当に有効な対策なのでしょうか

■感染者の推移
集団免疫を獲得しつつあるなら、感染者の増加は低いレベルに収まっているはずです。スウェーデンの感染者の増加を1週間単位でグラフにしてみます。(日別だと曜日によって報告数にムラがあるため)

sweden1a.png

たしかに4月半ばに比べれば多少減っているかもしれませんが、それほど落ちているようには見えません。人口一千万の国で今なお1日あたり500人近くの感染者が増えているということは日本の人口ならば1日6000人ずつ感染者が増えていることに相当します。それこそが死者数が多い理由でもありますが、もしそんな状態が日本で続いていたら、間違いなく国民の反発を浴びるでしょう。
現代ビジネスの記事にあったヨーロッパの他の国(ベルギー、スペイン、イタリア、イギリス、フランス、オランダ)とも比較してみます。ここは人口100万人当たりの週ごとの感染者数です。当然のこととはいえ、他国が感染を抑え込んだため、このところはトップになっています。

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さて、ストックホルムが集団免疫を獲得しつつあるのに、スウェーデン全体の増加ペースがあまり落ちないのはなぜでしょうか。まず、ストックホルムだけの感染者をグラフにします。

sweden2a.png

4月半ばがピークで、以後は下がっています。ただ、最近は横ばいのようで、ストックホルムだけで毎日100人以上(東京の人口に換算すれば1日約600人)も感染者が増えています。そもそも集団免疫を獲得する程度に感染が広がっているなら、検査が全然追いついておらず、実際の感染者数はもっと多いでしょう。死者数/感染者数が11.8%と高いことからも推察できます(日本は5.3%)。一方、今月22日にはストックホルムでの抗体保有率が7.3%という報道がありました。ほんとうに集団免疫を獲得しつつあるのでしょうか。

さらに気になるのは他の地域です。

sweden3a.png

スウェーデン第2の都市・ヴェストラ・イェータランド(Västra Götaland、人口173万人)は今月半ばがピークだったようですし、第3の都市・スコーネ(Skåne、人口134万人)はこれから感染者が増えそうです。これが、スウェーデン全体でなかなか感染者の増加ペースが落ちない理由でもあるでしょう。早くから首都で感染が広まっていたのが、これから地方に広まろうとしているということです。

■田舎は感染者が増えにくい
少し望みのある話もしましょう。スウェーデンは日本よりも国土が低いのに人口は10分の1以下ということです。人口密度が低いということは、もとから接触機会が少ない(可能性が高い)ということでもあります。

新型コロナの深刻な影響を受けているアメリカでも、すべての州で外出禁止令が出されたわけではありません。惨状といってもよいニューヨーク州では、休校や集会禁止、外出禁止、ほとんどの業種を閉鎖といった厳しい措置にもかかわらず、人口100万人あたり1533人が死亡しています。

一方、ワシントン大学による推測グラフでノースダコタ州を見てみると、教育機関や外食など一部の産業は閉鎖しているようですが、集会や外出禁止、移動制限などはないようです。それでも、感染者は急増しているわけではなさそうですワイオミング州では教育機関や一部の産業に加えて、集会の規制はあるようですが、やはり外出禁止や移動制限はないようですが、こちらも感染者は落ち着いています

(私が"村"出身ということもありますが)そもそも田舎には外食店も、ライブハウスも、夜のお店も(あんまり)なく、ましてイベントの機会なんかありません「都会で接触機会を減らす」というのは、「田舎のように暮らせ」ということみたいなものであると思うと、田舎はそもそも感染が広まりにくいのです。ですから、ストックホルムがニューヨーク程度になる可能性はあっても、人口密度の低いスウェーデン全体が同じような状況にはならない可能性はあります。もっとも、感染を抑え込もうとしていない以上、ある程度の感染は継続するでしょう。

■スウェーデンの経済
さて、このように緩い自粛ですませてきたスウェーデンの経済は、強く規制した他の国に比べて明るい未来が待っているのでしょうか。Financial Times の "Sweden unlikely to feel economic benefit of no-lockdown approach"(スウェーデンの都市封鎖なしの手法は経済的利点を感じられそうにない)という記事から引用します。

"The Riksbank, the country's central bank, has an even gloomier outlook, estimating that GDP will contract by 7-10 per cent, with unemployment peaking at between 9 and 10.4 per cent. These are disastrous figures for the Scandinavian country."
「国の中央銀行であるリクスバンクは、GDPは7~10%縮小し、失業率は9~10.4%に達すると予測しており、さらに暗い見通しを示しています。これはスカンジナビア並の悲惨な数字です」

国際化が進んだ現代において、経済が世界と切り離せる先進国なんてありません。スウェーデンでも自動車産業ではリストラが相次いでいるそうです。欧米のジョブ型雇用と日本のメンバーシップ型雇用の違いが大きいとはいえ、規制を緩めたら経済の落ち込みを防げるというのは幻想でしょう。

"Sweden's death toll unnerves its Nordic neighbours"(スウェーデンの死者数は北欧の隣国を不安にさせる)こういう記事には、このようにも書かれています。

Denmark, Finland and Norway are debating whether to maintain travel restrictions on Sweden but ease them for other countries as they nervously eye their Nordic neighbour's higher coronavirus death toll.
「デンマーク、フィンランド、ノルウェーは、お互いの国どうしでの渡航制限を緩和するのに、北欧の隣国であるスウェーデンにおいてコロナウイルスの死者数が多いことに神経質になっており、渡航制限を維持することを議論しています」

せっかく自国が苦労して感染を抑え込んだのに、その苦労をしていない他国から感染者がやってくることで努力を無に帰すようなことになるのは避けたいと思うものでしょう。

感染が大きく広まる前から対策することで比較的少ない影響で済ませたギリシャは、来月から日本を含む29カ国の観光客受け入れを再開するようです。

対象国には、ドイツ、オーストリア、デンマーク、ノルウェー、スイスなど欧州の一部ほか、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなどが含まれる。

デンマークやノルウェーが含まれているのにスウェーデンは含まれていないのも、しかたがないでしょう。当のスウェーデンは、伝染病の恐怖による"差別"と戦うつもりだそうですが、果たしてうまくいくでしょうか。中国は、すでに韓国からのビジネス目的の入国を認めて正常化を進めようし、日本にも打診があったという報道がありました。日本が感染を抑え込んでいなかったら、そうした話も出てこなかったのではないでしょうか。

スウェーデンのような緩い自粛による集団免疫策は、本当に"経済的な成功"をもたらせるのでしょうか。ワクチンや特効薬など、事態を一変させるようなことがあれば別ですが、そうでなければとても私には信じられません。

※2020/6/2 最新情報に合わせてグラフを修正し、ゴミを除去し、若干大きくしました。

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