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「iTunes Match とカラオケ法理」に関するお詫び

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とある経緯を見つつ、間違いに気づいても謝れないような人にはなりたくないものだ、と思っていたのですが、こんなに早くその機会が訪れるとは思っていませんでした。「iTunes Match でカラオケ法理は障害になるのか?」では、私は“iTunes Match”の機能を誤認しておりました。iTunes Match は iTS の対象楽曲をマッチングさせて、個々に楽曲データをアップロードする代わりにサーバーが持っている楽曲データを使わせるものだと思っていましたが、マッチしない場合に楽曲データをアップロードして利用する機能も含まれるようです(それは iCloud の別の機能だと思っていました)。契約したレーベル以外の楽曲を対象にしているなら、カラオケ法理が“関係ない”とは言い切れません。基本的な機能の誤認についてお詫びします。

以下、少し悪あがき(というわけでもないのですが)してみます。

Comics29_lo■誰が訴えるか

たまたまツイッターの私のタイムラインで MYUTA の読み方が取り上げられていたのですが(「ミュータ」または「マイウタ」)、この裁判は JASRAC から著作権侵害を指摘された運営者のイメージシティが「違法ではない」と裁判を起こしたものです。判決文にもあるとおり、イメージシティが原告です。そして、カラオケ法理が成立する要件である「管理性」と「利益目的」の両方を満たすため、イメージシティ側が敗訴しました。

iTunes Match の場合、運営者の Apple は JASRAC と、iTunes Store に楽曲を提供しているレーベルと契約しているはずです。(非係争条項があるかどうかはともかく)彼らが訴訟を起こす可能性は低いでしょう。また、iTunes Match の記事には、追記として「iTunesとの契約が更新される際、iTunesPlusの扱いも含めた新しい条件が提示され、そこで契約を更新しなかったレーベル・アーティストについては、配信が行われない」という記述もあるので、iTunes から離脱したレーベルや楽曲もありそうです。非契約のレーベルや楽曲については、Apple は楽曲データを持たないので、ユーザーがクラウドを利用したいのであれば、楽曲データごとアップロードすることになり、ここで許諾のない楽曲データの管理性が生じます。

では、非契約のレーベルが Apple を訴えてサービスをやめさせるかというと、それはそれで微妙だと思います。音楽配信において数%しか持たない iTunes Store ですが、いわゆる“ガラケー”からスマートフォンへの移行が進みつつある中、将来を考えたら「裁判を起こして Apple を敵に回すことは得策でない」と考えても不思議はありません。そもそも、楽曲を保存するだけの“ストレージサービス”ということであれば、他にもあります。たとえば、DropboxSkyDrive に楽曲データを入れておき、他のパソコンで聴くことはできます。

■MYUTA は何をしたか

(ストレージサービスにたまたま音楽データも入れるというだけでなく)音楽や動画などのコンテンツを入れるためのストレージサービスに類するものとしてドコモの「ポケットU」があります。実は、新規受付は終了しており、既存ユーザー向けのサービスも明日(2/29)で終了します。今日の時点でも公式サイトでポケットUの仕組みを確認できますが、自宅に保存したパソコンに入れた音楽や動画などのコンテンツを携帯からいつでもアクセスできる(その仲介役をする)というものです。携帯で CD からリッピングした音楽を聴きたいという人は、パソコンやインターネット回線を持っているでしょう。パソコンを常時接続させておくというハードルはありますが、月額315円(税込)で「携帯にコンテンツデータを入れておかなくても済む」というサービスはあったわけです。

「ポケットU」の仕組みは“クラウド”とは程遠く(コンテンツはあくまでユーザーの所有する機器にある)、だからこそ法的な問題はないという判断はありえます。実のところ、ポケットUを通じて提供される楽曲は「携帯で聴く」ことができるだけです。これは iTunes Match でも同じでしょう。リッピングした楽曲をデバイスに同期させる手間が省かれるだけで、あまり目くじらを立てるようなものでもありません。

MYUTA は違います。MYUTA は、リッピングした楽曲を「着うた形式に加工して」携帯から利用できるようにしていました。「パソコンでリッピングした楽曲を携帯に転送して聴く」だけではありません。日本の音楽配信市場は“着信音として使える”着うたとともに成長してきたといっても過言ではありませんから、その市場を守ろうとして JASRAC が著作権の問題を指摘したのでしょう。判決文でも次のように記述されており(p.18とp.28)、この点が MYUTA を複製の主体として認定した理由とされています。

本件サービスは,ユーザにおける音源データや携帯電話等の技術的側面の理解にかかわらず,本件サーバを経由する仕組みを通じて,携帯電話での音楽再生を容易に実現することに意味がある。
……
携帯電話にダウンロードが可能な形のサイト(本件サーバのストレージ)に音源データをアップロードし,本件サーバでこれを蔵置する複製行為は,本件サービスにおいて,極めて重要なプロセスと位置付けられる。

つまり、たんにユーザーが複製するだけでなく、携帯で聴くための“重要な処理”を MYUTA が行っているからこそ、その複製行為の主体が MYUTA だと認定されたということのようです。当時は「ネット上にデータを保存するサービスはすべて著作権侵害で違法です」(GIGAZINE)のような煽った記事も見かけられましたが、通常のストレージサービスが違法扱いされているという実態はありません

もっとも、「ポケットU」のような仕組みで“着うた化”することも技術的には可能なはずです。つまり、楽曲データの加工などを“自前のパソコン”で処理してしまい、その仲介役サイトを用意してもよいでしょう。自分の手元で処理する限りは私的複製ですから、法的には「ポケットU」と変わらないはずです。リッピングした楽曲を簡単に着うた化できたら人気が出そうですが、誰かやってみてはどうでしょう(棒読み)。

■余談

元の記事には、もうひとつ「Ringtone(着信音)配信」という新しいサービスを1曲250円で販売するということが書かれていました。通常の iTunes Store の楽曲より高い値付けのようです。iPhone は着信音を独自に設定できないのかと思いましたが、そうでもないようです。30秒程度で100円とか、フル楽曲で400円といった着うたの値付けで「日本の音楽配信は高い」と言われることもあります。Ringtone がどんなものかはわからないのですが、この値付けには興味があります。

もちろん、日本版としてリリースされる iTunes Match の仕様が米国版とは変わる可能性もあります。その場合には、まさに「カラオケ法理の影響が出た」ことになるでしょう。逆に、同仕様でリリースされたら「やはり問題なかった」ことにもなります。実際にどちらのサービスになるかについて、もう安易な予断はしないでおきます。もっとも「ポケットU」が終了してしまうことを思うと、フルサービスの iTunes Match が開始されたとしても、iTunes の人気が急上昇すると考えるのは難しいように思います。

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