信頼しているからこそのカミングアウト work with Pride 2018 プレセッション東京レポート
お手伝いをさせていただいている任意団体「work with Pride」のプレセッションLGBT基礎編を東京で開催しました。(以下、社名への敬称は省略させていただきます。)
シスコシステムズ合同会社(以下、シスコシステムズ)に会場のご提供をいただき、主に企業・団体の人事担当者を中心に70名の参加がありました。 今回は、企業パネルディスカッションをメインにレポートします。ご登壇いただいたのは下記の方々です。
シスコシステムズ合同会社
テクニカルサービス
シニアカスタマーサポートエンジニア 大崎 秀行 氏
日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)
人事 ダイバーシティ企画
担当部長 梅田 恵 氏
東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)
人事部 業務革新・ダイバーシティ推進グループ
課長 尾上 さやか 氏
モデーレーター
認定NPO法人 グッド・エイジング・エールズ
渡辺 勇教 氏
日本IBMとJR東日本に共通しているのは、LGBT当事者のカミングアウトにより、人事部門が中心となり制度や施策を整えていったこと。 一方シスコシステムズは、当事者がいるという前提でコミュニティが人事部門へ制度や施策の提言を行なっているのがユニークでした。事実、今回のパネラーの中でシスコシステムズの大崎さんは人事部門の所属ではありません。
「カミングアウト」と「アウティング」
今回のセッションは、パネラー、参加者の質疑からも「カミングアウト」と「アウティング」が主要なテーマとして浮かび上がってきました。「カミングアウト」とは、当事者自らが自身の性的指向について公表することで、「アウティング」はそれを本人の了解なく第三者に開示してしまうことです。
ディスカッションは、企業として制度や施策をどうするか。会社としては、当事者がカミングアウトして申し出てくれるなら制度や施策を策定するが、そうでない場合はなかなか導入が難しい。また、制度や施策を策定したのに利用されないのであれば、企業として投資するべきかどうかが問われてしまうのが課題ということでした。これに対して、当事者の声は、すぐに利用するか分からないが、制度や施策があるという環境は、その企業で働くための安心感につながるというもの。経営層からの視点では、制度導入の利用率(どれだけカミングアウトして利用する社員が増えるかが)が問われてしまうが、実際にカミングアウトとなるとメリットよりもリスクの方が多くあると感じられ、企業には制度利用について長い目で見てほしいというのが多数を占めるというものでした。
前段の当事者によるパネルディスカッションでは、自身の部署でのみカミングアウトしたが、異動になった際、上司が良かれという思いで「今度そちらの部署にトランスジェンダーの社員が異動になるのでよくケアしてあげてくれ」とアウティングを行なってしまったというケースが紹介されました。上司としては、異動先で社員が悪い思いをしないようにという配慮だったのかもしれませんが、本人の知る由もないところで知らされてしまうと戸惑いもあり、これもアウティングなのです。
JR東日本では、「社員全員に『コンプライアンスハンドブック』を配布。さらに今後カミングアウトを受ける側の管理職向けの教育に注力していく」と尾上さんから紹介がありました。日本IBMとシスコシステムズでも全社員向けの研修が用意されており、カミングアウトを受けた際の対処についてもガイドがされています。日本IBMでは、管理職になった際に部下のパーソナルな話も聞くことになる立場上、自身のことも明かすべきだとカミングアウトした社員の事例が紹介されました。カミングアウトにはリスクも伴いますが、実施した社員の仕事における能力の発揮はより顕著になっているそうです。「幸せなカミングアウトができる企業風土が必要」と梅田さんは話されました。
会場からの質問に「更衣室やシャワー室(浴場)、トイレはどのようにしているか」との質問がありました。物理的な施設の設置ということで費用もかかり、また入居しているビルオーナーの了承も必要となり自由にできない場合があります。当事者としては、自身の思う性別での利用が一番だが、周囲にそれを良しとしない考えがあるのも理解できる、物理的な制約の中で例えば時間帯を区切って利用するなど考慮できないかと提案がありました。JR東日本では、更衣室内に衝立を立て周囲から見えないようにする配慮などを実施しているとのことです。
もう一つ会場からの質問で、部署のメンバーや人事へのカミングアウトの事例が紹介されてきたが、「一対一の環境でカミングアウトされたらどうすればいいか」というものがありました。これに対する返答で大崎さんのメッセージがとても印象的でした。「カミングアウトしてくれるということは、あなたのことを信頼しているからです。それを受けとめて、決してアウティングしないこと。それに尽きると思います。」
私もこの意見に賛同します。互いに信頼すること、これが最も必要なことだと思いました。