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『本で床は抜けるのか』、そのようです

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本で床が抜けレスキュー隊に救助された実話から始まる『本で床は抜けるのか』は、思わず「まさか」と声をあげたくなるノンフィクションだ。床が抜けないまでも、日々増える蔵書に居住スペースがなくなっていく、自分が死んだ後残された本はどうなる?、古本屋さんは引き取ってくれるの?、電子書籍は?、書物の自炊は?、などなど増え続ける本に関してさまざまな視点からその解決策に迫った快作である。

本で床は抜けるのか 本で床は抜けるのか
西牟田 靖

本の雑誌社 2015-03-05
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紹介されるているのは、著者自身の話にとどまらず、著名な作家や評論家の度肝抜くエピソードがてんこ盛りだ。本がありすぎて亡くなった日に発見ができなかった評論家の話も驚いたが、作家の井上ひさし宅にいたっては、とにかく井上が本を買ってくるので、本が書斎を飛び出し廊下を這い、次の部屋を侵食していくという、これはもうまるで生き物のよう。

本を置くために自宅とは別に家を借りる、亡くなった伴侶が残した蔵書の処分に悩む、膨大な書籍の自炊や電子化に挑む、吹抜けの螺旋階段の素晴らしい書庫を建てるなど、本が捨てられない人々の奮闘振りがこれでもかと綴られる。

ここに登場する人ほどではないが、僕も結構、本が多い。本はどうしても捨てられない。自分という人物の形成に少なからず影響しているからだ。引っ越してきてから10年以上開けてないダンボールが数箱ある。中身は本だ。10年手を付けてない、おそらく必要ないのだろう、でも捨てられない。開けたら、きっと思い出が蘇る。
部屋も本棚だらけだったし、床の上にも本や雑誌が山積みだ。しかし、この本の中でも紹介されているように2011年の震災後には、少し本を処分した。自宅は東京だが、湾岸の埋め立て地のマンションなので、3月11日の揺れは尋常ではなく、部屋の本棚のほとんどが倒れた。もし地震が夜で部屋で寝ていたら、もしかしたら降り注ぐ本の雪崩で怪我をしていたかもしれない。それくらい、本が散乱し、本棚も歪んで壊れてしまい、さすがに置いておけない量の本を処分した。

それ以来、電子書籍で買えるものは、極力電子版を買ったりしたが、どうも買っても読まなかったり、iPadだと重くて手が痛くなり途中で読むのやめてしまう。そこに本が物理的に無いとなかなか手にとって読もうという気が起きなかった。唯一、旅行ガイドは電子版が重宝している。何カ国も周遊する場合、複数冊持って行かなくていいし、現地で必要なのは一冊のうちの数ページだったりすると旅行鞄のかなりのスペースを削減できる。

本の自炊も紹介されていたが、著作権の問題や自分でやるにしても業者に頼むにしてもかなり時間と労力がかかる。増え続ける本に悩んでいる人は、たくさんいると思うので、この本がその解決の一助になるのでは?

後半、著者の西牟田さんが本を処分するにあたり、彼の家庭に起きた出来事に切なくなってしまうけど、増え続ける本にまつわるさまざまな人生が凝縮されたこの『本で床は抜けるのか』、ぜひ読んでほしい。

他にも彼の日本の国境をこちら側からではなくあちら側から見たルポ日本の穴という穴を調査した記録も面白い。

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