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ITが無いと生きていけないのに、アナログな日々

穴にまつわる物語

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西牟田 靖さんの新著『ニッポンの穴紀行 近代史を彩る光と影』を読みました。西牟田さんとは、ブログのコメントやメールのやり取りをしたことはあるのですが、まだお会いしたことはありません。でも、なんだか昔から知っているような、ソーシャル・ネットワーク上での不思議なつながりを感じます。

ブログが縁で彼のことを知ってからは、彼の著作は全部読んでます。地球上には確かに存在していて、物理的には行くことができるのに、でも実際には行き難い、そんな場所への紀行文やルポルタージュが毎度毎度面白くてたまりません。

かつて日本だった場所、一見国境なんか無いと思われる日本の国境付近の旅に続き、今回彼が選んだ場所は、日本の「穴」です。

「穴」と言っても炭鉱跡のような本当の穴から、戦時中の塹壕、巨大図書館の地下などさまざまな「穴」にもぐります。

廃墟マニア(?)にとっては聖地とも言えるほど有名になった長崎の軍艦島。ここは、最近ツアーで上陸できるようになったそうですが、その外観といい、かつての繁栄の投げ捨てられ加減といい、時が止まったような不思議な場所です。今回のルポでは、滞在時間が短くちょっと残念でしたが、ここはいつか行ってみたいです。

大学での専攻が図書館・情報学だったので、国会図書館は、何度も行ったことあります。なので、私にとっては結構よく知っている場所でした。でも、巨大書庫の地下へは、もちろん降りたことがありません。大学の同窓生がここに就職したのですが、まだ働いているかなあ?

黒部ダムは、学生時代に黒部峡谷を縦走したことがあるので、こちらも懐かしかったです。あの険しい峡谷の下に巨大な発電施設があるんですからすごいです。

ぶったまげたのは、佐賀県の日韓トンネル。これ、全く知りませんでした。こんな国家プロジェクト級な話を知らなかったなんて・・・(笑)。実際に調査目的に掘っているというからさらに驚きでした。今後どうなるんでしょう。

吉見百穴と巌窟ホテルも面白かったです。子供の頃、行った記憶がありますが、また行ってみたくなりました。

沖縄の戦時中の塹壕は、見学できるものをいくつか見たことがあります。初めて沖縄に行った時は、海に行く前にまず南部戦跡を見て回りました。悲しい歴史とそこで命を落とした人たちのことを思うと胸が痛くなります。

今回、たくさんの「穴」が紹介されているので、それぞれもっと知りたいというのもありましたが、日本の近代史も垣間見え、興味深く拝読しました。

次は、どこに行かれるのですか、西牟田さん。

ニッポンの穴紀行 近代史を彩る光と影 ニッポンの穴紀行 近代史を彩る光と影
西牟田 靖

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もう一つ、「穴」に関するルポを紹介しましょう。こちらは、すべて「穴」ではないのですが、ナショナル ジオグラフィック誌に掲載された傑作ノンフィクションを10篇集めた『冬のライオン』です。この中にも「穴」に関するものがありました。

ナチス統治時代のウクライナで洞窟の暗闇の中に2年間隠れ続けたある家族の物語。ナチス関連のエピソードは、映画になったりして結構たくさん観ていましたが、これは全く知りませんでした。
人が容易に入って行けない洞窟の奥の奥へ隠れ家を作り、空気穴や逃げ道を用意し、かつその過酷な環境の中でも生きるために料理をして煙を出さねばならないのです。
また、男たちは、夜な夜な洞窟の外へ出て、廃品回収などをして闇市で食材を手に入れねばなりません。洞窟に隠れているとはいえ、毎晩危険な街へ行かねばならないのです。では、女性は、安全かというとなんと2年間も陽の光り浴びれないという、これも過酷なものです。
もちろん彼らだけの力では生きて行けず、生活物資を応援してくれる人の協力があったのですが、一方でやはり密告する人もいて、洞窟の家族は何度も危機に遭います。見つかって連行されてしまった人もいました。
奇跡的に生き延びた家族のインタビューから構成されたこの実話に驚きながらも、人間の生への執着の凄まじさを感じました。

ナショナル ジオグラフィック ノンフィクション傑作選 冬のライオン (ナショナルジオグラフィックノンフィクション傑作選) ナショナル ジオグラフィック ノンフィクション傑作選 冬のライオン (ナショナルジオグラフィックノンフィクション傑作選)
セバスチャン・ユンガー他 尾澤 和幸

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