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カネカの件と僕の23年前の採用活動。あるいは会社が誠実であるということ

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少し前にカネカが炎上していた件は、このブログを読むような人であれば全員知っていますよね?他にも、会社と社員との揉め事がインターネット上で社外の人の目に触れたことをきっかけとした炎上は、定期的に起きている。
揉め事のテーマ(今回の場合は育休取得とその後の転勤命令)は色々バリエーションがあっても、毎回ほとんど同じようなストーリーをたどる。

・会社が個人(社員、取引先、採用候補者・・)に対して少し理不尽な対応を取る
・会社としては、それが問題行動という認識は薄い
・個人の側がインターネットに経緯をアップ(しばしば証拠付きで)
・拡散(ボヤ状態)
・会社の初動が遅れたり、火に油を注ぐ対応をしてしまう
・さらなる炎上


この現象を少し抽象的に書くと、
a)会社にとっては合理的かつこれまで当然とされてきたことなので、会社としては問題意識が薄い
b)だが、その内輪の論理/習慣が組織外の目に触れると、炎上する
c)そもそも問題だとあまり思っていないので、対応も誤る(ごまかそうとしたり防衛しようとしたり)
ということになる。

一連の流れをネットの記事などで読んでいて、大昔のことを思い出した。23年前、1996年のことだ。
当時、僕は新卒1年目の冬から2年目の夏にかけての時期で、採用活動をしていた(もちろん、転職する前の会社で)。人事部というよりは、テンポラリーな採用プロジェクトへの配属だった。

よく「日本で本格的にインターネットが普及したのは1995年のWindows95から」などと言われるが、96年の就活はインターネット就活元年とも言える年だった。
(採用プロジェクトの後に配属されたプロジェクトで、ワールドカップ最終予選の話をした記憶があるので、97年だったかも)

採用する側の僕らとしては、当初そんなことはほとんど意識せず、普通にグループ面談や面接や内定者と飲み会をしていたのだが、学生の側はネットの掲示板でバンバン情報交換を始めていた。
・A社では大学名による足切りをやっているらしい
・B社のテストではこんな問題が出た
・最終面接ではこんなこと聞かれた
・もう内々定が出始めたらしい
・あの会社、感じが良い/悪い
・採用担当の○○というやつがムカつく
・・・・などなど。

掲示板に匿名で書き込む、という文化も始まったばかりだったので、「そんなことまで書いちゃうの?」という新鮮な驚きがまず先にたった。すべてがあけすけだったし、悪口も容赦なかった。「こんな問題が出た」を暴露することは自分に不利だと思うが、そんな損得を気にしないある種のおおらかさも感じた。

ちなみに、そういった掲示板を覗くことを仕事の一環とはまだ考えていなかった。業務後、怖いもの見たさで見ていただけだ。怪しげな掲示板で見たことを仕事に特に活かすなんて、考えつかなかった。インターネット就活元年はインターネット採用元年でもあったので、すべてがウブだったのだ。


ただ眺めていただけではあったが、強烈に実感したことがある。
それは、「もう会社が個人に対して隠し事をできる世の中ではなくなった」ということだ。

今でも覚えているが、当時、採用チームのリーダーと軽く言い争ったことがある。
採用プロセスで「グループ面談」という、社員1人と学生5人が会社のことを話す場があった。どんな仕事をしているかとか、Q&Aとか、まあありきたりのプロセスだ。
「あくまで面談であって、選考ではないのでリラックスして臨んでくださいね」と学生には伝えていたが、実は、裏ではバッチリ選考の材料にしていた。その後にやる筆記テストと面談での印象の合わせ技で合否を決めていたのだ。

それに対して、当時まっすぐな新入社員だった僕が「これって学生に対して誠実ではないのでは?」と言い出して口論になった。でもリーダーは「こんなことどこでもやっている」「採用は総合力を見る場であって、どんなステップのどんなふるまいも判断材料にするのは当然」と言って、僕の意見は却下された。
だがその後、掲示板を見ていて、「選考ではないと言いながら、グループ面談での振る舞いを見て合否を決めている」というのはおおよそバレているらしきことに気づいた。もちろん、それで怒っている人もいた。


これは、実に些細なエピソードである。だがそれまでの企業社会に比べて、インターネット普及後は、透明度がずっと高くなる。隠し事がしにくい社会になるのだ。
それは確実で、不可逆的な社会の変化であった。

これを直感した僕は、採用プロジェクトが終わったタイミングで振り返りレポートをしたためて、社長以下担当者に送付した。「もう、不誠実な採用をしていると学生から見限られる世の中になりました、多少コストがかかろうとも誠実であることでしか生き延びられないのです」と。

これは20年後の今から見ても、慧眼だったと言えるだろう(自画自賛)。会社が組織の影で不誠実なことをやっていても、学生や社員や消費者が互いに情報交換をして分かってしまう。そういう世の中が到来したのだ。


それから23年後のカネカの騒動で、カネカの社員に対する命令が不誠実だったのかは、意見が分かれるだろう。僕も中の人じゃないので、本当のところは分からない。だが、会社の一つ一つの行動が、多くの人の目に晒され、時に文脈を無視して批判される世の中になったのは確かだ。
企業としてできることは、一貫した方針で、誰に見られても恥ずかしくない行動を取ることしかない。そして何か言われたら、方針を誠実に説明する。(説明できることしか方針にできない)
ある意味外連味のない、まっとうな世の中だ。


僕のレポートは慧眼だったと思うのだが、実際にこの会社が不誠実な採用を改めることはなかった。実はこの会社にとって学生にバレて本当に困るのはグループ面談なんかではなく、実態より遥かに背伸びをした姿を学生に見せていたことだった。
「お客さんに対して業務改革をリードする」「お客さんを教育する」「風通しのいい会社」みたいなことを、僕も採用担当の立場で学生さんにたくさん話したが、それは会社のごくごく一部に過ぎなかった。実態は普通に客先に派遣されて2次請けの立場でSEをやっている社員がほとんどだった。
こちらの方の背伸びは、採用プロセス上の不誠実さよりもバレるのに少し時間がかかったが、3,4年後にはおおよそバレていたのではないか?採用プロジェクト終わってからあまり掲示板見なかったので正確には把握していないが、2チャンネルのブラック企業ランキングに、無名な会社ながら堂々ランクインしていたのは見た。
仕事とは言え、あまり実態を知らなかったとは言え、そうやって無垢な学生さんを大量に採用したことに、採用担当の僕自身も結構傷ついた。申し訳なくて、入社してきた学生さんたちとあまり面と向かって話せなかった(今思えばこれ自体も悪いことをした・・)。その後辞める一因にもなった。
その後色々あって、転職した会社の経営者になっているが、なるべく誠実な会社でありたいと思っている。そして実際に、僕以上にそう思っている社員が集う会社になっている。

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