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あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

全員トレーナー制、あるいは教わるより教える方が勉強になるという話

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★トレーニングはほぼ自前

会社ってそれぞれ違うけど、転職しないかぎりは、よそでやっていることはあまり分からない。自分の会社では当たり前だと思っていることも、他ではやっていない奇習であることは良くある。

ウチの会社だと「全社員がトレーナーになる」というのはそれにあたるかもしれない。特になんとも思ってなかったけれども、なんかのきっかけで話すと驚かれる。
確かに、僕が出入りしているお客さんのところで、それに近いことをやっている会社は皆無だ。


コンサルティング会社は知識や知恵が売り物だから、人材育成には格別の労力を注いでいる。トレーニングはその労力の1/4程度でしかないけれども、普通の会社に比べれば、かなり熱心なほうだろう。100人弱の会社だが、月に5コマくらいはトレーニングが開催されている。
その9割が、自前のトレーニングだ。社員が自分で内容を考え、トレーナーを担当する。資料作りも演習も全部やる。

正直、外部から買ってくるほうが、自前でトレーニングを作るよりはずっと安い。自前だと準備にかなりの時間がかかるから、どうしてもコスト高になる。
でも、ウチの社員が身に付けるべき能力を外から買ってくることはできない。ノウハウのほとんどは「どういう文脈でやるか」が大事だから、実際にお客さんとやったプロジェクトの事例をふんだんに織り込む。これも外部トレーニングでは無理だ。
売ってないんだから、自分たちで作るしかない。面倒くさいけど。



★メソドロジー≒トレーニング

そもそも、ウチはメソドロジー(仕事を成功させるための方法論)をかなり大事にしている会社だ。コンサルティング会社の中でも、ウチほど大事にしている会社はあまりないと思う。
そしてメソドロジーの実態は、トレーニングの形で形式知化されている。
15年くらい前は、「バイブルみたいなメソドロジーを記述した英語の資料」があった。しかしそれを床の間に飾っていても、メソドロジーは身につかないし、実戦で使えるようにならない。
やはり、事例や演習を取り混ぜたトレーニング形式が一番、社員に広げやすい。


だから、僕らにとって、
「メソドロジーをブラッシュアップすること」

「トレーニングコースを作り、講師をやり、他の社員を鍛えること」
になる。

「この仕事、自分なりのノウハウが確立されてきたけれども、まだどこにも言語化されてないな~」と思えば、それをトレーニングの形で形式知にする。
そうすれば、自分以外の人も出来るようになるから、自分は楽ができる。
ほら、仕事って面倒くさいから、なるべく他の人にやってもらいたいじゃないですか。


★誰でもがトレーナーになる

で、ここからが今日の本題です。
トレーニングを作ったり、講師をつとめるのは、ベテランコンサルタントだけではない

定番トレーニングの講師を担当することは、入社数年で求められる。その頃になれば、プロジェクトでの実戦経験を積んでいるから、単にトレーニング資料に書いてあることを棒読みするのではなく、自分の体験を披露したり、受講者と議論することができるからだ。

一人前のプロジェクトマネージャーになると、自分で新しいコンテンツを作る人も出てくる。

僕ももちろん、年に1つ2つは、新しいトレーニングコースを作る。
参考までにここ数年で作ったコースは、
・ファシリテーション型の提案活動のやりかた(新規)
・施策アイディアの出し方(新規)
・メソドロジーについてのトレーニング(改良)
・集中討議(合宿)のやり方(新規)
・経営にとってのIT(新規)⇒その後、本を出版
などなど。


そして、入社してから1,2年しかたっていない社員でも、自分で新しいトレーニングコースを作って講師をやる人も出てくる。
例えば、「議事録の取り方」というトレーニングコースは今までなかったのだが、去年の新卒新人たちが、今年の新人のために作った(らしい。受けてないからよく知らないけど)。
議事録の様な、ちょっとしたことでも、暗黙知のままよりは、形式知化されていたほうが早く学べるし、仕事の品質も高くなる。


他にも、こんなケースもある。

このトレーニングコースは、
かつてパッケージ選定作業で大ハマリした際、
「この悔しい経験をなんとか昇華させたい」と思い、
PMの力を借りながら作ったものです。

これはあるトレーニングの紹介文だ。

パッケージ選定作業の中でも「評価基準」にフォーカスを当てたトレーニング。範囲は狭いが、必要としている人にはとてもありがたい指針になる。

他にも、「超難しいプロジェクトで、キャリアが浅い人がちょっとでも貢献するためのコツ」みたいな、当事者じゃないと作れない、生々しいヤツもある。
業務で情けないほど悪戦苦闘したら、トレーニングや勉強会を企画する。
そうすれば、ノウハウが言語化され、とことん自分のモノにできる。


★トレーナーが一番成長する

ウチの会社も、最初から「全社員がトレーナーになるべし」と言っていた訳ではない。
僕が入社した16年前は、アメリカ本社からトレーナーを招いていた。彼らが帰ったあと、日本人が見よう見まねで再演をした。
そのうち、元々のメソドロジーにはなかった要素、日本の実情に合っていない要素を少しずつ足すようになった。
新しいサービスをやるようになったら、他の人も真似ができるようにトレーニングを作っていく。

そうしているうちに、気づいたのだ。
「トレーニングの講師をやる社員、特に自分でトレーニングを企画し、作る社員が、最も成長する」という事実に。

よく考えれば当たり前かも知れない。トレーニングを企画するということは、
・失敗が許される社内で、チャレンジする経験
・モヤモヤしたノウハウを抽象化・言語化する訓練
・企画の訓練(何が必要とされていて、誰に届けるか?)
・プレゼンの訓練(どういう切り口で伝えたら理解されるか?)
・ファシリテーションの訓練
・社内マーケティングの訓練
など、実に多様な能力を鍛えられる。

しかも、イマイチなトレーニングをやると、すぐに厳しいフィードバックをもらうし、何より参加者がつまらなそうにするから、自分でもモロに感じる。

仕事の総合力をものすごく鍛えられるのだ。


全員がトレーナーであるべし。
全ての会社ですぐにできるとは思わないけれども、オススメです。
「わたしが実践してる営業手法」を部内に教えるミニ勉強会とか、最初はささやかでもいいので、初めてみるのがいいと思う。別に社内で一番の凄腕営業マンじゃなくても、やればいい。凄腕さんがトレーニングをしてくれないならば。

※追記

この話をすると、「どうすれば、全員がトレーニングをやるようになるんですか?」と聞かれることがある。

一番効くのは、「いくら現場で実績をあげていても、メソドロジー化、ノウハウ化が苦手なビジネスパーソンは2流」という価値観を作ってしまうことだと思う。だって、その人だけが成績を上げるより、周りの人に影響を与える人の方が会社にとって価値がある人材なのは明らかでしょう。

それを幹部が日常的に口に出したり、人事考課の時に反映させたりする。ちょっとした手当とかで釣るより、「カッコいい」みたいな価値観が大事です。




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大型本屋さんの経営戦略コーナーでは、たいてい平積みしてくれています。
日本で一番ビジネス書が売れる、丸の内オアゾの丸善では、かなり目立つ所にドドーンと8面くらいで置いてくれたみたいです(僕は見ていないのですが)。
本当にありがたいことです。

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