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あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

他社にノコノコ話を聞きに行くこと、あるいは引っ込み思案がもたらす致命的な損害について

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ウチの会社のWebサイトの事例紹介コーナーに、三井製糖さんでのプロジェクト事例が載った。社名より「赤いスプーン印のお砂糖の袋」を思い出してもらったほうが早いかもしれない。日本一のお砂糖屋さんである。
今回紹介している事例は、販売から会計、人事に至るまでの非常に幅広い領域で、業務を全面的に見直し、システムもゼロから作りなおしたプロジェクト。
生々しいプロジェクトの現実が分かるので、是非読んで欲しい。
 
 
僕自身はこのプロジェクトに全く参加していないのだが、この記事を書くためのインタビューには同席させてもらった。当事者の方々がプロジェクトを振り返るお話って単純に面白いし(今だからこそ言えますが・・的な意味で)、もちろんとても勉強になる。本を書くときのネタにもなるし。
 
 
今回も色々と面白い話が聞けたのだが、僕の心に一番残ったのは、お客さんのリーダーがプロジェクトを立ち上げる際に、他の会社に事例を聞きに行った話だ。
 
 
記事では、
過去に基幹システムを刷新された企業7社に対して、どのようにプロジェクトを進めたのか、ERPを導入した結果どうだったのか、ユーザー側で考慮すべき点などを中心にヒアリングさせていただきました。各社から貴重な意見をいただくことができました。
と比較的あっさり書かれているが、当時の様子を聞くと、実際にはそうとう苦労されたようだ。ヒアリング先の7社に元々ツテがあったわけではないから、知り合いの知り合いをたどったり、Webサイトに載っている大代表に電話してケンモホロロだったり。
「少しでも参考になる話を聞ける会社はないか」
「自分たちが目指すプロジェクトと近いことを経験した先輩はいないか」
と、凄い執念でアタックされたようだ。
 
 
だが、やっとのことでたどり着いた、プロジェクト経験者から聞けた話は、苦労が充分報われるものだった。
 
 
例えば、「プロジェクトを立ち上げる際には、ゴールを明確にせよ」とは、どの教科書にも書いてある。それを読めば「ふーん、そうだね」と思う。
だが、実際にプロジェクトで苦労した方の話をナマで聞くと、迫力が全然違う。
三井製糖さんでも「システムが現状に合わなくなったので、再構築をするのがプロジェクトゴール」などと考えていたところに、「ERPパッケージの導入、基幹システムの再構築ってそんなに甘いもんじゃないですよ。再構築したい、という程度の目的意識なら、手を出さないほうがいいんじゃないですか?」と言われ、ガツンと来るものがあったそうだ。
その時を新たなスタートラインと捉え、「なぜプロジェクトをやるのか」「今、この会社に何が必要なのか?」を考え直した。僕らケンブリッジのコンサルタントとも議論を重ね、最終的には会計基準の見直しや、組織をまたいだ仕事のやり方を見直すような、総合的なプロジェクトになっていった。
 
 
 
もう少し具体的なメリットも沢山ある。
例えば、パッケージであれ、それを導入してくれるベンダーさんであれ、その会社の営業さんに話を聞くだけでは、もちろん良いことしか分からない。
でも、過去にそれらを使ったことがある会社に話を聞ければ、ずっと深い話を聞ける。少し不思議な話なのだが、こういう時、聞かれた側は本当に正直に話をしてくださる。良いことも悪いことも。
「あのパッケージは、バージョンアップが出来ますとセールストークでは言ってますけど、ウチはもう諦めてます。なんでかというと・・」
「製品は間違いなくいいんだけど、保守サービスがねぇ・・」という具合に。
たぶん、会社は違えども、「プロジェクトという困難に向き合っている同志」という意識があるのだと思う。
 
 
 
三井製糖さんに限らず、大成功したプロジェクトでは、他社の話を貪欲に聞きまくっている。
例えば「プロジェクトファシリテーション」で描いた古河電工さんでのプロジェクトでは、プロジェクトの立ちあげ時点やシステム構想を練る時など、節目節目で10社以上から話を聞いている。
そして自分たちがプロジェクトを成功させた後は、
「多くの会社から事例を聞いて成功させたプロジェクト。今度は私達がお返しする番です」
と、積極的に他社のプロジェクト担当者にアドバイスされている。
本当に素晴らしいことだと思う。
 
 
僕は仕事柄、プロジェクトを立ち上げようとしている方の相談にのることが多い。
「ケンブリッジの様なコンサルタントに相談するのもいいですが、プロジェクトをやり遂げた他社さんに話を聞きに行ったほうがいいですよ。なんなら、ご紹介しますよ」とアドバイスすることが多いのだが、実際に聞きに行く方は半分以下だと思う。
忙しいのか、恥ずかしがり屋さんなのか、理由はそれぞれだろう。
でもさ、立ちあげ時点でのこの程度の手間を惜しむ様なら、たぶんプロジェクトの困難さを乗り越えるのは難しいんじゃないだろうか。
決めつけて申し訳無いけれども。

経験者を探すのは苦労をするだろうが、プロジェクトが大変な状況になってからの苦労よりは、ずっと楽ちんで前向きな苦労なのだから。
 
 
 
今まで成し遂げた事がないことにチャレンジするのがプロジェクト。
でも、他社にいけば「似た体験」を聞く機会はある。
迷ったら書を捨てて、街に出よう。
そして先輩に話を聞こう。
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