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あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

組織的に引き継ぎを仕掛ける方法、あるいはベンダーロックオンを防ぐために

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★プロジェクトにおける組織的な引き継ぎ
前回、引き継ぎをちゃんとやらないヤツはダメダメだ、と書いた。
さらに言えば、引き継ぎをきちんと計画しない会社はもっとダメダメなので、お付き合いしない方がいい。


大規模なプロジェクトでは、一時的に社内にはないノウハウや大きなマンパワーが必要となるので、ITベンダーやコンサルタントを雇う事が多い。それ自体はいいのだが、プロジェクトが終わって平常運行になった後も、彼ら傭兵部隊への依存から抜け出せないことが多い。

かつてマキアヴェッリは「君主論」で傭兵についてこう言った。

「もしも傭兵軍の上に築かれた政体を持つ者は、決して堅固でも安全でもないだろう」

かつて僕のお客さんは、僕らについてこう言った。

「酒と、タバコと、ケンブリッジにはご用心。依存症にならないように」

プロジェクトは臨戦体制で臨む。平常時に戻れば体制を縮小してコストダウンし、プロジェクト成果を刈り取らなければならない。当たり前のことだ。
だが、プロジェクトをやっていくうちに「いないと仕事が回らない」になってしまうケースは多い。ベンダーやコンサルティング会社の方で、意図的にその形に「ハメる」場合ももちろんある。

でも、それだと、おかしいよね。
結局コスト高になるのであれば、なんのためにプロジェクトをやったのか分からない。
引き継ぎをきちんとやらずに去るのも論外。仕事がうまく回らなくなり、折角プロジェクトで何かを良くしても、逆戻りしてしまうからだ。

つまり、プロジェクト終盤できちんとした組織的な引き継ぎをしない傭兵部隊は、決して雇ってはいけないのだ。



★組織的に引き継ぐためには
プロジェクトが成功すれば、その後には退却戦が待っている。一時期、僕は退却戦ばかり3プロジェクト担当していたこともある(退却戦は細く長くやるので)。

くどいようだが、ここできちんとした仕事をするかどうかで、プロジェクトの成果を刈り取れるかが決まる。下世話な話をするならば、僕らコンサルタントへの評価(顧客満足度)やリピートオーダーにも直結する。重要な仕事なのだ。
退却戦(組織的な引き継ぎ期間)で僕が注意している事を以下に書いておく。



a)co-work
前回、引き継ぎを完璧に出来る人はスーパーマン、と書いた。引き継ぎがそれほど難しいのであれば、引き継ぎを極小化すればいい。
つまり、プロジェクト終了後を最初から睨み、プロジェクト中から一緒に働くのだ。たいてい引き継ぎ相手は別のお仕事も持っているから、100%プロジェクトにどっぷり入るのは無理。でも重要な意思決定に参加したり、プロジェクトのタスクをいくらか受け持ってもらったりするだけで、主体性と理解度が大きく違ってくる。

100%の参加ではないために作業効率はあまり良くないのだが、別途改めて引き継ぐ事を考えれば、トータルでの効率は良くなる。
僕らケンブリッジが「なんでも丸投げして下さい」というスタイルではなく、お客さんと一緒にプロジェクトをやることにこだわるのは、このためでもある。


b)マニュアルや手順書は引き継ぎ相手が書く
引き継ぎというと、分厚いドキュメントを渡される、というイメージがある。
だが、プロジェクト後に仕事を引き継ぐことが分かっているのであれば、マニュアルの類は、引き継がれる人が作った方がいい。
もちろん、ドキュメントを書ける様になるまで、丁寧に教える必要はある。
逆に言えば、ドキュメントを自分で書けるくらいまで分かっていないと、引き継ぎ完了とは言えないはずだ。


c)「もうあなたがやるんだよ。そばにいるけど」
前回、引き継ぎをきちんとやるためには想像力が必要、と書いたけれど、裏を返せば、想像力はおしなべて不足しているし、引き継ぎ不足は日常的に起こる。
引き継ぐ側だけでなく、引き継がれる側も「自分1人で仕事をすることになったら、何を理解していないとマズイのか?」を事前に想像するのは難しい。だからどうしても説明を他人事として聞いてしまうのだ。

これを逆手にとった作戦が、
「さっさと仕事のオーナーシップを切り替えてしまう。そのかわり、いつでも前担当者に質問できる状態を保つ」
である。経験上、こういう並走状態が長ければ長いほど、ノウハウがきちんと引き継がれる。
いざ自分1人でやって見る。当然うまくできない。困る。前任者に泣きつく。そこで初めて、仕事を深く理解出来る。

他人事として説明を聞いている時は切実ではない。人は切実な状況にならないと本当には学べないのかもしれない。



以上、a)、b)、c)はいずれも、引き継ぐ人が個人で工夫する範囲を超えている。プロジェクト全体として、計画に織り込んでいかなければならない。だから本当に引き継ぎがうまくなるためには「構想力」が必要になってくるのだ。

引き継ぎについて2回に渡って書いたが、まだ書き足らないくらい難しいし、僕も思い入れがある。だから「別に、引き継ぐことなんでないっす」とかいう人に、瞬間的に殺意を抱いても許して欲しい。
引き継ぐ仕事と、引き継ぐ相手に愛情を。

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