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オーナーシップ≠仕事を自力でやること、あるいはうちの会社が最初に叩き込むこと

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★新入社員は誰も分かっていない
僕がつとめる会社(ケンブリッジ)での「オーナーシップ」という考え方は、どうやら一種独特らしい。新入社員が入ってきて、プロジェクトで仕事を始めると、ほぼ必ず戸惑いがあるようだ。

どうせ僕ら流の「オーナーシップ」が身に付いていないのだから、まずは分かっていないんだ、と実感してもらう所からOJTをスタートさせることにした。
具体的には、OJTとして配属されたプロジェクトで、仕事を丸ごと任せるのだ。もちろん、お客さんに迷惑をかけないように、新人が失敗しても他のメンバーが尻拭い出来るような、小さめの仕事を切り出して渡す。

そうするとほとんどの新人はオーナーシップを発揮できない。だから失敗する。そうして、自分にオーナーシップが不足していると痛感するところから、うちの会社でのキャリアがスタートするのだ。

★真のオーナーシップとは何か
真のオーナーシップとは何かを説明するために、逆説的に「何ではないのか」を書いてみよう。

1) 全部仕事を自力でやることではない
もし仕事を全部自力でやるのだとしたら、その人は「自分でやりきれる程度の大きさの仕事」しか担当出来ないことになる。
個人事業主ならそれで良いのかもしれないが、組織に属している以上、人の力を借りる必要は常にある。

2) 力の限り頑張ることではない。
「力の限り頑張る」というのはアマチュアの世界では美徳なのかもしれない。でもプロフェッショナルの世界ではそうではない。力を超えて頑張らなければならない。
自分の力の限り頑張るだけだと、自分の能力の上限が、できる仕事の難易度の上限になってしまう。あなたの「力の限り」が「求められるレベル」に達していなかったら、どうするつもり?

求められるレベルに達していなくても「僕は精一杯頑張ったんです」と言えば許されるのはお子さまだけだ。
仕事は難しく、自分の能力は低い。だから、そんなことは許されない。

3) 責任をとることではない
僕自身が新人の時に教わったのだが、時計の針を戻せない以上、この世に責任をとれる人はいない。仕事がうまくいかなかった時、オーナーシップを持っている人が辞任したって何も解決しない。

責任とはただ「感じる」ものなのだ。
そしてオーナーシップとは、仕事がキチンと遂行されることに対して、責任を感じることである。
「提案書作成のオーナーになる」とは、提案書が良いものになる事が自分の責任だと感じること。「○○会議のオーナーになる」とは、会議が生産的な場になることは他の誰のせいでもなく、自分に責任があると感じること。

★オーナーシップがある人の行動パターン
ある仕事の成功に責任を感じれば、当然ベストを尽くして仕事にあたることになるが、その尽くし方が問題だ。

求められるのは
「ありとあらゆる手を使い、なんとしてでも求められる品質や納期に達すること」
ということ。

うちの会社で「ねえ、この件、オーナーになって」と言われたら、それは
「ありとあらゆる手を使い、なんとしてでも求められる品質や納期に達することに、一番に責任を感じる人になって」
と言われるのと同じである。もちろんめんどくさいからいつもは単に「オーナーシップ持って」とだけ言うけど。

プロジェクトは難しい。だから、プロジェクト中に任せられる仕事はほとんど常に、自分の能力よりも量が多いか、品質レベルが高い。
それでもオーナーになった以上、なんとかそれに追いつこうとする(追いつこうとしないと、バカと怒られる)。
でも自力では出来ない。うーん、勝ち目のない戦いに見える。なんて理不尽なんだ。

この無茶を乗り越える方法は、分かってしまえば簡単で、他人の力をうまく使えばいいのである。それに気づいた人の、必然的な行動パターンをいくつか挙げてみよう。

1) 要求レベルを自ら確認して回る
自分の能力以上の仕事なのだから、「どこまでやればOKなのか」がそもそも分からない。分からなければ、分かっている人に確認するしかない。
お客さんに聞くのは王道だし、前に書いたように「そこ、そんなに品質あげなくて良いよ」と上司に言ってもらう様に相談をするのも大事なことだ。

2) 自分より能力の高い人をアレンジする
上司や先輩を、自分の仕事をうまくやるためのパーツとして使え、という事ですね。
例えば「これをお客さんに説得するのは、先輩の口から言った方が説得力があるので、先輩から言ってください」とか。
「向こうも事業部長が出てくださるので、社長、お願いします! 事前資料は全部こちらで用意しますので」とか。
「資料の納期が水曜なので、火曜午前にレビューしてもらうための時間を下さい」とか。

他の会社の営業さんでも、優秀だなぁと思う人ほど上司をアゴで使うのがうまい。上司の方も喜んで使われている。こういう会社は強い。

3)無理そうな時にはYellow Flagを上げて助けを求める
Yellow Flag(自分でヤバイと表明すること)については前にも書いた。
元々、自分の能力以上の仕事を任せられているんだから、手に負えなくなる時はたまに来る。
「何でも自力でやりきること」よりも「誰の手を借りても良いから、この仕事をなんとかやり遂げること」が大事なのだから、ピンチの時はそれを表明して、誰かに助けてもらえばいい。

★真のオーナーシップを持っている人だけで作る組織は強い
何もかも自分でやりきれるほど能力が高くなくても、こういう行動がとれる人であれば、つまりオーナーシップを持てる人であれば、周りは仕事を任せられる。
自分で状況を壊す前にヤバイときは相談してくれる、という安心感があるから、しょっちゅう「大丈夫?」「困ってない?」と世話を焼いてあげる必要がなくなる。楽なのだ。
そして、誰もが自分の能力以上の仕事を担当出来るのだから、当然強い組織でもある。

そして、最初は他人の力を借りないと仕事を遂行出来なかったひとも、その仕事にオーナーシップを持っているうちに、だんだんと自力で出来るようになっていく。Yellow Flagをあげる頻度も少なくなる。
そしてそれは、次の「他人の力を借りないと出来ないような、難しい仕事」にチャレンジする合図なのだ。

今日書いた「真のオーナーシップ」の延長線上に、マネージメントやプロジェクトファシリテーションもあるのだと思う。が、それはまた別の話。

まとめ
オーナーシップを持つからこそ、他人の力を借りよう。そして今の実力では出来ない仕事をやり遂げよう。自分と周りの人のために。
今日はここまで。

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