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店の主張が顧客を惹きつける

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ポジショニングを変えることで事業を拡大する

今回ご紹介する事例は、店側が生活スタイルやファッションスタイルを主張し、それに共感する顧客が惹きつけられる仕組みをつくっていった百貨店の事例です。

彼らは自分たちの顧客層はこういう顧客層であって欲しいと願い、その顧客層を対象に生活スタイルやファッションスタイルを提案し支持を受けていきたいとの思いを実現していきました。その原点には、縮小していく顧客層にとらわれ続けるのではなく、拡大する顧客層を取り込むことで、事業を拡大していくという経営者の意思がありました。既存の顧客層からターゲットを少しずらして新たな拡大しているターゲット層を取り込んでいきたいということです。

マーケティングの基本にSTPSSegmentationTTargetingPPositioning)がありますが、ターゲットを少しずらすということは、自らのポジショニングも変えていき、新たな拡大セグメントを取り込んでいくということになります。


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彼らは、拡大する客層はどういったお客様たちなのかを定義しようとしましたが、スタート時点では、なかなか定性的には分かっても定量的には把握ができません。定性的な定義ですら、表現が曖昧でるため人によりイメージが異なっていました。商品コード体系も商品軸での体系であり、顧客軸での体系ではないので、数字の把握は、より困難なものでした。

そこで、ファッションブランドはそれぞれ主張があるということと、お客様は、ご自身の好みに応じて類似のテイストのブランドを買いまわることに着目し、分析をしていくことにしました。その際、ファッション雑誌は主張するファッションのテイストをはっきりさせているという特徴があるので活用していくことにしました。それぞれのブランドはどのファッション雑誌に掲載されているのかを調べ上げて、ポジショニングマップをつくりました。

感性に根拠を付ける

従来からMDマップと言って類似のテイストのブランドをグルーピングして整理したマップはありました。しかし、従来のブランドポジショニングマップは人の感性だけを頼りにしてつくられていたということもあり、どうも正しいのかどうかに疑問が付くということと、疑問が付くが故にあまり使われてはいませんでした。


今回、雑誌情報とお客様の実際の買い回り実績を加味することでかなり客観性のあるブランドポジショニングマップができましたので、このブランドポジショニングマップを根拠にして、取り込みたいと思っている拡大する客層を定義して、現状を可視化していきました。すると今までは見落としていた気づきがいくつも出てきました。


その代表例が縦ゾーニング視点の欠如です。縦ゾーニング視点の欠如というのは、例えば、あるテイストのファッションをお好みになる顧客層は、婦人服やバッグは買いまわっているのに、靴を購入されるお客様は少ないことが発見されたというものです。フロアが違えば商品群が違い、ひいては部門が異なるということもあり、部門を超えて顧客視点でお買い物しやすいマーチャンダイジング(品そろえ)が出来ていませんでした。お客様は、本来であれば同店で靴も買いたいのに、自分が気に入る品そろえが出来ていないので、泣く泣くわざわざ他店まで足を運んでご購入されていたのだと思います。


縦ゾーニングで整合性ができると、お客様にとってはお店の魅力が高まることになりロイヤルティも育成されます。従来、売る側からすると、フロア毎や商品群でMDを構成していくということはありました。しかし、買う側からするとむしろフロアをまたいだ縦の軸で品そろえをして欲しいと思うに違いなく、縦軸でのマーチャンダイジングの改善は大きなテーマになりました。


更に、買い回りを詳細に見てみると、ブランド間で買い回りにタイムラグがある事も分かりました。類似のテイストのブランドでも同じアイテムの商材の売れる時期にズレがあるということです。


それは、類似のテイストのブランド間でも主張が尖がっているブランドと、主張が柔らかいブランドがあり、シーズンのはじめは主張の尖がっているブランドの商品が売れます。その後、それを見た生活者が「これいいな」と思いつつも「私はそこまで先鋭的な商品に挑戦するのは気が引けるから雰囲気が伝わる程度がいい」とお感じになる、マジョリティである顧客層が主張が柔らかいブランドでお求めになるからです。


ということは、主張の尖がっているブランドで支持を集めた商品が把握できれば、たいていの場合は販売員さんが把握していましたが、その特徴を持った主張の柔らかいテイストのブランドの商品の取り揃えを厚くすることにより、欠品が起きず売上を伸ばすことが出来ます。


このことを私たちは後出しジャンケンマーチャンダイジングと呼んでいました。
今回の事例を「目的」と「事情」のギャップを表すフレームワークに落としてみると下の図のようになります。


売れる時間のズレをうまく活用することで、百貨店サイドの持つ「人気商品が把握しにくいので商品確保が難しい」という「事情」と、顧客の「せっかく百貨店まで行くんだから気に入った商品を見つけたい」という「事情」のギャップが埋まります。そのことが、顧客の目的である「自分らしいスタイリングを楽しみたい」という目的が達成されやすい品そろえができるようになって行きました。



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百貨店は従来、お取引先にお任せ型の事業運営スタイルであることが問題視されていました。消化取引(店に商品が並んだ時点では百貨店は仕入計上せず、商品が売れた時点で仕入計上と売上計上を同時に行う取引形態。これにより百貨店は在庫コストを抑えることが出来る)により品そろえをお取引先にお任せすることで、自分たちでオペレーションをしなくなります。

このことは、顧客が欲しがっている商品はどういった商品なのかとか、今売れている商品はどれなのかと言ったことが分からなくなり、ひいてはどのような提案をすべきか分からなくなるという本質的な問題を内包しています。


また、どの百貨店をとってもブランド揃えはほとんど同じに見えてしまうことが、自分のお店の独自性、他の店舗との違いが分かりにくくなっていることにつながり、生活者にとって百貨店は価格が高いだけで魅力を感じられなくなっていく原因でした。その結果、ここ20年で業界全体の売上は10兆円から6兆円へと大幅に減少してしまいました。


オープン・クローズド戦略では、共創などによりオープンにする領域と自社の競争力確保のためにクローズにしておく領域を、戦略的に分けないとすぐに真似られてしまい、マネタイズは難しいということを示しています。百貨店はクローズにすべきところをオープン(人任せ)にしてしまいました。意思をもって事業を行うことの重要性を改めて考えさせられる事例ではないでしょうか。

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