非対面でおもてなしをする ~今更聞けない、デジタル広告の超基礎~
お客様をもてなすのは、何も対面だけではありません。今やバーチャルの世界(Webの世界)では、顧客或いは今後顧客になりそうな人が、興味ある分野なのに知らなかったことに気づきを提供することや、パーソナライズされた「あなただけ」のもてなしを提供することが当たり前になりつつあります。
デジタライゼーションという意味では、マーケティングや広告の領域が先んじてデジタル化して進化しています。実際にテレビやラジオ、新聞や雑誌などの既存のメディアへの広告出稿は数年前から減少傾向にあり、個々人のニーズをとらえて訴求ができるデジタルマーケティングが増加傾向にあるのはご存知の通りです。Googleは先端的IT企業のようなイメージを持たれていますが、実際にはデジタルをふんだんに活用した広告企業です。Facebookも同様に広告が主な収益源であり、デジタルを活用したプラットフォーマーとして巨大化していきました。
このようにマーケティングのデジタル化は私たちの生活やビジネスに密着に関係しており、いまやビジネスパースンとして知らないでは済まされない世の中になってきています。なぜ、見も知らない人のニーズをとらえて広告を提供することが出来るのでしょうか。その仕組みを簡単に説明します。
あなたが興味あることを何故かプッシュしてくるデジタル広告の仕組み
私たちがWebを閲覧すると、ブラウザーに格納されているCookieの番号を知らず知らずのうちにWebサイト側に引き渡しています。それは、「問い合わせ」「資料請求」「会員登録」「商品購入」といったECサイトのページごとにタグを埋め込むことで、それぞれでCookie番号が収集されます。こうすることで、Cookie番号ごとにどのページを閲覧したか、どこで離脱したかが分かるような仕組みになっています。
Web広告の世界では、例えばある車のWebサイトを見に行った瞬間、広告枠を売る側と広告を出す側とがビッティングを行い、一番高価格で入札をした広告主が広告を出すという仕組みが出来上がっています。
例えば、あなたが何度もその車のサイトをご覧になって、デザインや性能だけではなく、シートの素材やカラーの選択画面や価格シミュレーションをするようになると、この人は買う気が高いと判断され、高値でも広告を落札したいと考えるようになり、ビッティングの入札価格をどんどん釣り上げていきます。そのため、あなたが車のページをご覧になると、候補の車の広告が現れることになります。
また、こんな経験はありませんでしょうか。大阪への出張があってご自分のスマホで宿泊するホテルをいろいろ探したとします。予定を変更して日帰りで大阪出張をこなして、既に昨晩自宅に帰ってきているというのに、今朝スマホでニュースを見ようとすると大阪のホテルをコマーシャルするトラベル会社の広告がしつこいほど現れます。これもCookieが残した足跡から、この人はこれから大阪に宿泊出張すると判断して広告が打たれているからに他なりません。ちなみに、踏んだタグによって、行動を推測され何度も広告が打たれることをリターゲティングと言います。
広告出稿の仕組みをプロセスで書くと図1のようになります。
図1 デジタル広告出稿の仕組み
但し、2018年5月に施行された「EU一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)」では、Cookieは個人情報とされ、取得にはユーザの許諾が必要になり、活用方法の明示も義務化されました。
デジタル広告のミソはパーソナライズ
私たちが検索して検索結果から企業のWebサイトに飛んだとします。実際には、企業サイトのランディングページ(LP)に飛ぶわけですが、このLPはパーソナライズすることができます。
パーソナライズの説明をする前に、ランディングページについて説明します。ランディングページとは、Web上の様々な広告やリンクからの飛び先となるページです。自然検索からは公式サイトへ飛ばし、広告からのリンクによる飛び先はランディングページとなっている場合が多くみられます。
生活者は興味もなければ知りもしない情報よりも、自分が知りたい情報や自分にとって気づきにつながる情報を選別し、接点を持とうとします。パーソナライズする目的は、パーソナライズすることで生活者が気持ちを寄せられるようにし、商品やサービスに共感しやすくすることです。実際にボストンコンサルティンググループの調査では、顧客体験のパーソナライズに取り組んだブランドは売上高が6~10%増加したとの結果が出ています。
では、パーソナライズとはどのようにするのでしょうか。いま流行りのコンベクションオーブンを例にとって説明します。
コンベクションオーブンというのは、コンベクション(対流)を使ったオーブンのことで熱と熱風による加熱が特徴です。これにより焼きムラや焦げ付きを回避し、パンや肉など表面はさっくり、中はしっとりと焼くことができます。
コンベクションオーブンに対するニーズをお使いになっている顧客の声を整理してみると、利用者の立場によってニーズが異なることが分かりました。
健康志向の人は、焼きながら油を落とすことが出来るため「ヘルシー」であることに魅力を感じ、共働きの世帯では家事の「時短ができる」ことに、お子さんを持つ主婦は「ケーキが上手に焼ける」、お料理好きな方は「フライが手軽に焼ける」ことに魅力を感じるといった具合です。
こういった異なるニーズに対して、コンベクションオーブンを売りたい企業が、Webサイトを訪問された生活者の共働きや子供がいると言った立場や健康志向や料理好きと言った嗜好性が分かり、それらに応じて異なるランディングページを出すことが出来れば、売上はかなり変わってくるということが容易に想像できます。
パーソナライズを実現するテクノロジーをDMP(Data Management Platform)といいます。DMPでは、個人別の商品お買上履歴だけではなく、お持ちのスマホとPCを同一人物と識別できるようにして、ECサイトでの購買やその企業のどのページを見たかといった行動履歴などを蓄積しています。
情報が蓄積されるにつれ、顧客を嗜好性やデモグラなどで分類し、ランディングページで出し分け、結果を見ながら機械学習をさせて、リコメンドの精度を上げていっています。
多くのユーザの嗜好情報を蓄積すれば、例えばAさんの好む商品Xがあったとして、商品Xを好む別の生活者Bさんは商品Yも好きだということが分かると、Aさんも商品Yが好きなのではないかという推論をコンピュータが自動実行します。これを協調フィルタリングと言います。
協調フィルタリングはAmazon.comでもおなじみですので、一度は経験したことがあると思います。DMP×機械学習のようにテクノロジーとテクノロジーが掛け合わさることで、より生活者にとって知りたい情報や有益な情報をパーソナライズしてお届けできるようになります。こういった精度の向上は、経験価値の向上をもたらし、イノベーションがおきます。実際にAmazonのおかげで日本の書店は8,000店舗減少したと言われています。
いまはどちらかと言うとネットは便利であるという価値がけん引して販売力を向上させていっていますが、今後、コンシェルジュのようにより個々人のニーズや本人が気付いてないウォンツに手が届くようになり、こういったネットの「もてなし経験価値」が、気持ち的にも自分に寄り添ってくれる安心できる存在と感じられるようになり、人々の購買行動を変化させていくものと推察されます。