オルタナティブ・ブログ > 顧客創造の核心 >

多様な企業でのコンサルティングで得た知見をお伝えします。

おもてなしを経営資源とした顧客サービスの本質

»

最近では、顧客を個客として意識できるお付き合いをしていくことが大切だと多くの書物に書かれていますが、なぜでしょうか?

それは、店やサービスを提供する側と顧客との間に気持ちが通じる関係性を創り上げていくためには、「顧客」ではなく「個客」であることが必要だからです。どういうことかというと、店に顧客が来店した時だけが顧客なのではなく、店を離れている圧倒的に長い時間においても、あるいは来店していない生活シーンやビジネスシーンを想って、常に顧客として意識できるお付き合いをしていくことが、人の心を動かす、顧客サービスの本質だからです。顧客は十羽ひとからげではなく、相互の関係性は全て個別具体であるからこそ「個客」である必要がある訳です。

私が好きなブランドの販売員Aさんは、様々なたわいもない会話をする術を身に着けています。たわいもない会話の中から私個人としての生活スタイルやファッションスタイリングの好みをかぎつけてくれています。

「前回ご来店になったときでしたっけ?こんなお話をしましたよね。それであの後考えたのですが」と言いながら、何気なくシーンに応じたスタイリングの啓蒙や提案をしてくれます。「お持ちのジャケットとこう組み合わせるんです。そうすると全体の雰囲気がパッと明るくなります。こういう着回しは、真似ができません。必ず決まると思います」とか「これなら落ち着いた雰囲気を出せますから安心できます」といった具合です。

前回の会話でこんなことがあるとかあんなことがあったといった会話を起点に、いつかは分かりませんが私のことを考えていてくれて、知らなかった知識を渡してくれます。プロの知識はありがたいですし、疑問点はその場で聞けます。更に、実践方式だから確実に身につきます。また、発想するヒントもくれますし、関連した提案もしてくれます。これらは、全て個別具体な事柄であり、オリジナルです。このオリジナルというところに十羽ひとからげではない特別なリレーションが構築され、プライベート感のあるリレーションにこそ信頼ができる高い価値が宿ります。

買い手としてみれば、心がつながっている感や、そんなことまで考えてくれているのか、という「売る」を「買う」から考える意識が心を動かされますし、話の内容が「個」であることがこころを引き付ける重要なコンポーネントになっています。

このことは何もファッションブランドだけの話ではありません。身の回りを考えてみれば、商店街にあるクリーニング店でのたわいもない会話からも同じような「個」から発生したリレーションが構築されています。クリーニングの品質はどこの店でもそうたいした違いはないでしょう。しかし、短時間のちょっとした会話から、こうして欲しいということを覚えていてくれることが、他店へ浮気をしないロイヤルティーを生みます。ロイヤルティーの源泉は「個」にある訳です。

一方、私たちを取り巻くサービスはどれだけ「個」ができているでしょうか?大方の店やサービスは、店を離れた状態の人に「あなたのことをお客様だと思っていますよ」という気持ちを示すコミュニケーションはほとんどないといっても過言ではありません。

例えば、毎日山のように届くメールは、どれひとつとして親密さを感じさせるものはありません。ダウンロードしたアパレルのアプリでさえ、毎回ログインするとまずはあなたの探したい商品はメンズなのかレディスなのかを選択するところから始まります。これでは親密さどころか逆に「他人宣告」されているようで逆効果です。

これまでは客数が正義でした。入店客を増やすことが売上増につながるのだから、チラシをばらまいて、新聞広告を打つことが施策でした。しかし、生産人口が減少する時代にあって客数増をいまだに追いかけてばかりでいいものかという疑問がわきます。

新しい顧客を増やすことは一般に既存顧客をリテンションする5倍のコストがかかると言われています。ということは、売上を上げるためには、見えない顧客である新規顧客をむやみに追いかけるよりは、一人でも多くのご贔屓いただける上得意客を増やすことのほうが的を得ています。そのためにも、このご贔屓いただける上得意客がWTPWilling to pay/喜んでお金を支払う)と言う気持ちになる店を作ることの方が、優先順位が高いということになります。

お客様をおもてなしする精神を経営資源にして、ビジョンを描き、具体的な施策を実践しながら顧客とこころを通わせるコミュニケーションにより親交を深めていくことこそが求められています。

「Digitization」と「Digitalization」

デジタル化を示す言葉に、「Digitization」と「Digitalization」があります。両社の綴り上の違いは、後者には途中に「al」が入っていることです。意味の違いは、前者は印刷物やプリントされた写真などアナログな書類をコンピューターで処理できるようにデジタルデータに変換する「デジタル化」です。

一方、ガートナー社は後者を次のように定義しています。

Digitalization is the use of digital technologies to change a business model and provide new revenue and value-producing opportunities; it is the process of moving to a digital business.

(デジタライゼーションとは、デジタル技術を活用してビジネスモデルを変え、新たな利益や価値を生み出す機会をもたらすこと。 デジタル事業への移行プロセス)

世の中はまだまだ「Digitization」ばかりのようです。だからこそ「Digitalization」が求められています。ということは、多くのチャンスがあるということです。もてなしの精神を経営資源とした、人による親交と「Digitalization」による「個客」サービスに今こそ取り組むときではないでしょうか。

顧客を分類してみる

顧客情報分析のプロジェクトを担当すると、クライアントのID-POSから顧客別の売上データを抜いてきて、縦軸にお買上額、横軸に年間お買上順位で並べてみて、どういったカーブを描くのかを確認します。通常はパレートの法則通り、ロングテールなグラフが描かれます。

次に上位のロイヤルカスタマーが経年でどう変化していったかを調査します。通常、ロイヤルカスタマーが増えれば全体の売上が増加し、減少すれば全体の売上も減少します。ロイヤルカスタマーの増減が可視化で来たら、例えば年額100万円以上お買い上げくださっているロイヤルカスタマーゾーンに新規に入ってこられた人数、変わらずロイヤルカスタマーでいる人数、退出する人数を調査します。次に、出入りの要因で考えられることとその原因をリストアップしてひとつひとつ検証をしていきます。原因が分かったら、施策仮説を立てていきます。

この調査をしていつも面白いと思うのは、売上が前年から伸びもせず減りもしない場合、ロイヤルカスタマーの人数はあまり変わりませんが、必ず一定の割合で出入りがあります。もちろん、引っ越したとかお亡くなりになったという方もおられます。しかし、ロイヤルカスタマーゾーンの中から出ていった人数分と同じくらいの人数のお客様のお買上額があがり、ロイヤルカスタマーゾーンに入ってきます。これを説明するために、まずは考え方の基礎となる顧客を満足度とロイヤルティーで分類した4象限をご紹介します。

22顧客をCSとロイヤルティーで分類してみる.png

図にも記載しましたが、ロイヤルティーと満足度で分類した4種類の顧客はそれぞれ特徴があります。

企業はいかに伝道師を増やし、テロリストを減らすかが重要ですが、通常、伝道師は傭兵ゾーンからやってきます。また、伝道師から傭兵へとダウンしていく顧客も多いのです。それを理解するために、上の図を少し加工してみます。

22デジタルの力を借りて無関心ゾーンを個客化する.png

競争の激しい業界では、ロイヤルティーと満足度の関係性は図の実線のような曲線を描きます。満足度がある程度高い顧客でも同じ商品が安く提供されていればそちらに流れていきます。意外と無関心ゾーンは広く、悪意ゾーンにおいては、ロイヤルティーが低い顧客は、知人や友人がテロリストにいるとテロリストの言動に共感してしまうし、ツイッターのつぶやきにすら影響を受けてしまいます。

収益に大きく影響するのは、ファンゾーンの顧客のリテンション(顧客の離反を防ぐこと)と無関心ゾーンからファンゾーンにアップグレードしそうな顧客を選び出し、満足度を上げてファンゾーンへと送り込むことです。

しかし、店頭では、非常に多くの顧客の中からアップグレードしそうな顧客を選び出すことは無理がありますし、リアルで顧客接点を持たない製造業やサービス業では至難の業です。そこで、デジタルの出番がやってきます。

メール会員であれば、顧客のCookieが分かります。会員になるときに貴社のホームページにアクセスし、メールアドレスや氏名などの個人情報を申し込み時に入力するはずです。その時に申し込みページにタグを仕込んでおけば、DMPData Management platform)に個人情報とCookieが紐つけられて保存されています。貴社ホームページの中で様々なページにタグを仕込んでおけば、このCookie番号の方はどのページをご覧になったのかがすぐにわかるようになっています。

ID-POSのデータ(多くは自社クレジットのお買上情報)とメールアドレスとCookieを紐つけておきます。お客様が貴社のホームページの中で何度も見るページがあれば、興味があると判断できるので、ご覧になった後で、興味のありそうなページと類似のテーマをメールで送って差し上げれば良いのです。これは他のページでも同じことが言えるのでその都度メール文章を書くのではなく、事前に書いておけば、MAツールで配信は自動化できます。

Comment(0)