現在の学校における『生成AI』の活用状況について
情報教育に関するさまざまな取り組みをされている望月陽一郎 先生に、2013年から教育現場の状況や先生のお考えについてインタビュー形式で伺っています。今回は望月先生が独自に調査された「生成AIの活用についてのアンケート」を踏まえ、「現在の学校における『生成AI』の活用状況について」をお聞きします。
【望月先生 プロフィール】
大分県立芸術文化短期大学非常勤講師。Forbes Japan電子版オフィシャルコラムニスト。公立中学校理科教諭(理科)・大分県教育センター指導主事(情報教育)などを経験されています。自作の「micro:bit『サンプルプログラミング集』」などをサイトにて公開されています。
望月陽一郎 個人サイト:http://mochizuki.net/
●現在の学校における『生成AI』の活用状況について
―昨年(2023年)夏、このシリーズで教育現場において生成AIがどの程度活用が進んでいるのかお伺いしました。昨年実施されたアンケートと、今回のアンケートを比較して、その後どのような状況になっているかお伺いしたいです。
【参考】
・【4週連続短期集中シリーズ 2】ChatGPT等、生成AIの学校における活用について(前編)https://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2023/08/chatgptai.html
・【4週連続短期集中シリーズ 3】ChatGPT等、生成AIの学校における活用について(後編)https://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2023/09/chatgptai_1.html
―昨年の記事で紹介した「学校における生成AIの活用に関するアンケート(集計結果)」では「授業で生成AIを使っているか」という質問に対して、
・「先生・子どもたちともに授業で使っている」・・・ 5.0%
・「先生のみが授業で使っている」 ・・・ 7.5%
・「使っていない」 ・・・87.5%
という回答でした。
「授業で生成AI活用状況」(2023年7月)n=120
今回のアンケートでは、校務と授業について質問されていますが、「校務・授業で活用している」が22.4%、「校務のみ活用している」が29.6%、「授業のみ活用している」が3.2%となっており、授業で生成AIを使用しているという先生方の回答が約2倍に増加していますね。
「学校での生成AI活用状況」(2024年6月)n=125
また、校務も含めて何らかの形で生成AIを活用している先生方は合わせて55.2%となっています。昨年よりも生成AIの精度が増し、周りで見ても一般の活用が進んでいるように思うのですが、教育現場においても同様の傾向であると感じました。
望月先生:そうですね。今回のアンケートでは、授業だけでなく校務でどのくらい使っているか質問してみたわけですが、校務のみの使用も含めて、回答者の半数以上が活用しているというのは、少し意外でした。
―「活用していない。活用予定がない」と回答された先生方に「なぜ活用していないのか」も質問されていますが、「研修がまだ実施されていない」が約6割、「活用に不安がある」が約3割となっていました。先生方は生成AIがどのようなものかわからない不安をお抱えのようにお見受けします。
「学校では『生成AIについての研修』を実施したか」という質問に対しては、
・実施した・・・・・・20.8%
・実施していない・・・79.2%
ということでした。
また、「実施していない」と回答した先生方への追加質問で、今後研修を実施する予定があるかについては、
・実施する予定がない・・・82.7%
となっていています。この影響はあるのでしょうか。
望月先生:回答から見ると、
・研修がまだ実施されていないから・・・活用できない、まだ活用しない。
という様子が思い浮かびます。
生成AIについては、著作権を侵害してしまうのではないかという不安や、子どもたちに使わせないほうがよいのではないかなど、知らないものへの不安感が大きいのではないでしょうか。
―昨年のインタビューでは、「文部科学省のガイドライン」ができていることをお話しくださいましたが、一般の先生方にはガイドライン等の情報が伝わったのでしょうか。
【参考】初等中等教育段階における 生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン
https://www.mext.go.jp/content/20230718-mtx_syoto02-000031167_011.pdf
望月先生:昨年の夏休み前に学校まで通知されたはずですが、一般の先生方にまで伝わったのでしょうか?いまだ、生成AIに関する研修が一度も行われていないなど、伝わっていない学校も多いのかもしれませんね。
―その一方で積極的に生成AIを活用している先生方もいらっしゃいます。今回、「小学校で授業で活用している」という回答者の中で、どのように活用しているかという質問では、「教材や資料の制作支援」「教員の評価やサポート」「調べ学習やアイデアの提示」が多いようですね。
「『授業で活用している』と回答された方は、どのような活用をしているか(複数回答)(小学校)」(2024年6月)n=15
「教材や資料の制作支援」「教員の評価やサポート」「調べ学習やアイデアの提示」の具体例について望月先生がご回答できる範囲で構いませんので、教えていただけますか。
望月先生:小学校で使うことができる生成AIは限られています。例えば、Google GeminiやChatGPTは、小学生は年齢制限で授業での使用ができません。
「教材や資料の制作支援」「教員の評価やサポート」「調べ学習やアイデアの提示」などは、先生が授業の準備や事後の評価に生成AIを使っているということではないでしょうか。授業中ではなく。
―中学校でも「教材や資料の制作支援」「探究活動や考察のサポート」「課題解決や問題作成の支援」「調べ学習やアイデアの提示」の活用が多いようで、小学校の回答と重なる部分が多いように思いました。
一方で高等学校では「教材や資料の制作支援」が多いのですが、「課題解決や問題作成の支援」「トピックに関する最新情報の取得」という回答があり、生徒がつかっているのではないかと思います。これは年齢の関係ですかね。
望月先生:そうですね。年齢が上がるに従って、使うことができる生成AIが増えるので、授業で使わせる活用が増えていくのでしょう。
―その「トピックに関する最新情報の取得」については、有料版の生成AIを使用していれば可能かもしれませんが、検索したほうが最新版の情報を得られるのではないでしょうか。望月先生のご見解を伺えますか。
望月先生:生成AIという言葉通り、複数の最新情報から得られたことを組み合わせて回答がでてくるので、単に検索しただけでは得られない回答をしてくれる可能性が高いと思います。
ただし、その根拠を問われたときには、生成AIがどの情報をもとにしているかまで調べなければなりません。もしかしたら間違いもあるかもしれません。そういったことまで理解して使うことができるか今後必要とされる力になっていくでしょうね。
―「校務で活用している」と回答された先生方で多いのは、「文書作成支援」や「アイデアの提供」でした。
「『校務で活用している』と回答された方のみ、どのような活用をしているか(複数回答)」(2024年6月)n=64
だれでも文章を投稿できるWebサービス「Note」でもサポートツールとして生成AIが使用されています。また、校正や文章の要約などで生成AIを活用するという話はよく耳にします。一方で学校の校務での「アイデアの提供」についてはよくわからなかったので、活用の具体例を差し支えない範囲で教えていただけますか。
望月先生:私はほとんどしたことがないのですが、生成AIに企画のアイデアやメールの文例を考えてもらい、出てきた回答に対して追加質問を繰り返すことで、アイデアをねっていく、「壁打ち(テニスの壁打ちから?)」という使い方をしている先生もいるようです。私の場合は、一から考えさせずに、自分で考えたアイデアをブラッシュアップする際に使うことはあります。
―確かに一から考えてもらうと、自分の考えかどうかわからなくなりますね。アンケートでも、活用に不安がある理由に「癖になりそう。考えなくなりそう」という回答がありました。
いきなり生成AIに質問しても、回答(文章作成・絵の生成等も含む)してもらえると、自分で考えなくなる子どもたちが出てしまう危険性があると思います。そのようなリスクを軽減するために、望月先生ならばどのような工夫をされますか。
望月先生:一般的に生成AIの回答は、誰が見ても「そうだよね」というものなんです。つまりその人なりの個性があまり見られなくなります。よく考えるとわかりますが、10人が10人同じ質問をしてしまったら、同じ回答(文章)が出てくる可能性は高いですよね。そのままコピーアンドペーストしたら、同じものができあがります。
そこまで子どもたちに理解させているなら、他と違う質問のしかたをしたり出てきた回答に自分の考えを追加したりすると思います。それが個性ですよね。
―「活用していない。活用予定がない」理由を「活用に不安がある」と回答された先生のご意見として、「活用事例の提供が少ない」というものが印象に残りました。
望月先生:授業での活用事例はまだこれから(ガイドライン以前に先生方の研修も行われていない)。校務での活用事例を研修で学んでいくことが今必要なことではないでしょうか。
―今回は、アンケートによる調査結果をもとに、色々なお話をしてくださり大変ありがとうございました。望月先生のお話がこの記事を読んでくださった皆様の参考になることを願っています。
>>「学校における著作権」につづく(2024年10月 公開予定)