【書評】藤崎実・徳力基彦『顧客視点の企業戦略』
高度経済成長期以降、企業はTVでCMを大量に流したり、雑誌等の広告で情報発信をしたりするマス・マーケティングを行うことで、新規顧客を獲得してきました。そしてSNSの発展により、かつてのように企業が一方向で大量の情報発信を行うだけでなく、個人が発信する情報・クチコミによる双方向のコミュニケーションも大事にする必要が出てきました。
企業および企業関係者がマーケティングを考える際には、お客様は商品・サービスをどのように使っているのか、どう感じているのか、にも向き合う必要が出てきたのです。
そのような状況にどう向き合えば良いのかについて、藤崎実さんと徳力基彦さんが「顧客視点の企業戦略 -アンバサダープログラム的思考-」で解説をされています。
この本を読むと、「企業がファンと一緒になって課題を解決したり、マーケティングを行ったりする方法論や事例(前掲書より引用)」を学ぶことができます。
参照書籍:
藤崎実、徳力基彦『顧客視点の企業戦略 -アンバサダープログラム的思考-』
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本書で紹介されている事例
【目次】
はじめに 「新たなる現実」を受け入れて、次へ向かう指標としての顧客視点
第1章 顧客視点がないと「マーケティング」ではない
第2章 マーケティングを顧客視点で組み替える
第3章 企業の目的は「顧客を創造する顧客」の創造である
第4章 顧客と一緒にマーケティングする
実践レポート アンバサダーの体験設計(寄稿:上田怜志)
第5章 アンバサダーが企業にもたらす変化
第6章 顧客視点経営がビジネスを変える
本書の概要
マス・マーケティングで大量の情報を顧客に発信し、新規顧客の獲得に成功してきました。しかし、その方法だけでは物やサービスが売れにくい状況になりつつあります。
SNSなどを活用して、実際に使ってみた人のクチコミを広げていくにはどうしたらよいのか という視点でのマーケティング手法について、
- 理論
- 手法
- 実践例(ネスレ・アンバサダーなど)
知ることができます。
この本を読んで身につけられることは、
- 企業の商品・サービスを心から良いと思ってくれるファンを増やす方法がわかる
- 企業(担当者)がファンと共に問題解決する方法がわかる
- ファンが無償でクチコミしたくなる仕組み作りがわかる
- 顧客視点とは何かがわかる
- 顧客と一緒にマーケティングする方法がわかる
という点が挙げられます。
「企業とファンがともにサービスを作り上げ、クチコミが広がっていく」わけです。これからはマス・マーケティングだけでなく、企業がファンとともにサービスを作り上げ、クチコミするサイクルが生まれるアンバサダーマーケティングの実践が大事だと再認識しました。
- 江戸時代は富山の薬売りのように三方良しの商売、お客様の間でのクチコミが重視されてきた。
- マス・マーケティングは戦後の高度経済成長期にアメリカのやり方が取り入れられて発展。
- 現在のアンバサダーマーケティングは、江戸時代のクチコミによる商売に回帰しているような状態
という大きな流れが見えてきました。
まとめ
江戸時代は近江商人の三方良しや知り合いのクチコミが大事にされていました。しかし、第二次世界大戦後はマス・マーケティングが日本で主流の広告手段となりました。「大量」がキーワードだったのです。
高度経済成長期以降にマス・マーケティングが重視されてきたのは、自社のシェアを如何にして広げるかが目標とされてきたからでした。今はソーシャルメディアの発展もあり、ファンによるクチコミがメインになってきて、「近江商人の三方良し」の方向性に回帰しているのが興味深かったです。
著者の藤崎さんは「これからの企業発展には顧客との関係を深めることが必要」とおっしゃっています。一方で、前掲書には以下のようにも書かれています。
「高度経済成長期のマス・マーケティングの成功体験と顧客視点を重視する価値観という二つの世界観のギャップは、多くの企業担当者を「板挟みの状態」に追いやります。(No.451/3554)
マス・マーケティングでは新規顧客の獲得を重視していますが、ソーシャルメディアを活用したアプローチでは、既存顧客を重視しているというギャップが生じるわけです。
そして、紹介事例「じゃがり校」は、お菓子の「じゃがりこ」のファンが試験を受けて合格すると入校でき、ファンが企業とともに新商品を作り上げていく様子が面白かったです。企業担当者の板挟み状態を打開するヒントになる事例ではないかと私見ですが思いました。
マーケティングに関心がある皆様のご参考になれば幸いです。
補足:アンバサダーマーケティングとは何か?
アンバサダー(Ambassador) の意味は一般的に「大使」と翻訳され、日本では著名人や芸能人などがブランド大使として任命される時に使われることが多いようです。
従来のマス・マーケティングは大量の広告を流すなど、一方通行のコミュニケーションでした。しかし、これからは既存顧客(なじみの客)を非常に大事にする「アンバサダープログラム的思考」がこれからは必要となるということのようです。皆様のご参考になりましたら幸いです。
参照書籍
参考:藤崎実、徳力基彦『顧客視点の企業戦略 -アンバサダープログラム的思考-』
※上記書籍のリンクURLはAmazonアソシエイトのリンクを使用しています。
編集履歴:2023年12月1日 19:36 補足の部分を改稿しました。同日20:07 本文の最後の段落から一文を削除しました。