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グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

教員のための仕事効率化 ー授業・アンケート編ー

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シリーズとして、中学校で教諭(理科担当)をされてきた望月陽一郎 先生に「教員のための仕事効率化」についてお話を伺っています。最終回の第6回目は「授業(理科)における時短術」を中心にお聴きしたいと思います。

【望月陽一郎先生・略歴】

大分県立芸術文化短期大学 非常勤講師。Forbes Japan 電子版オフィシャルコラムニスト。元公立中学校教諭(理科)。大分県教育センター情報教育推進担当主事・指導主事・大分県主幹等を経験されています。自作の「micro:bit『サンプルプログラミング集』2.0版」が2019年の第35回 学習デジタル教材コンクールにて「学情研賞」を受賞されました。

望月陽一郎 個人サイト:http://mochizuki.net/

アンケートの結果について

-望月先生は、昨年末ICT利活用のアンケート調査(小学校中学校で使用する学習者端末についてのWeb アンケート)をされたそうですね。

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【アンケートの概要】
小学校中学校における 1 1 台(学習者)端末の整備が話題となっている。学校における学習者端末の整備実の現状を知り、望ましい学習者端末とはどういうものかを考えるためのアンケートを実施。
期間 2019/12/20-2019/12/26 有効回答数 107
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アンケートの結果はいかがでしたか。

望月先生:1人1台学習者端末に関するWebアンケート結果では、現在はコンピューター室に40台だけ、あるいはコンピューター室40+教室で使う端末が数クラス分程度ある、という回答が多く、合わせて70%近くでした。

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-コンピューター室には1クラス分の端末が整備されていて、コンピューター室のみでの利用が多い、ということでしょうか。グラフを見ると「学習者に一人一台」という回答は14%しかありませんね。教室で子どもたちが授業で活用するにはまだまだ台数が十分ではないということでしょうか。

望月先生:一昨年(2018年)示された文部科学省の5カ年整備計画では、「3クラスに1クラス分程度」ということでしたが、その基準までも到達していない学校・自治体がまだまだ多いということになりますね。

〇学校におけるICT環境整備について(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/04/12/1402839_1_1.pdf

小規模な学校ならともかく中規模・大規模校となると、コンピューター室を使うために順番待ちということになってしまいます。

-学習端末は授業でどれくらい利用されているのでしょうか。

望月先生:Webアンケート結果から見ると「1日に1時間使っている」というのが一番多く23%なので、整備状況から見ると意外に活用されていると思います。しかし、次に多いのが「月に数時間」15%となっており、
・毎日使っている子どもたち
・月に数回使っている子どもたち
二極化しているのではないかと思われます。とても残念なことですね。

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しかし、1人1台の学習者端末が導入されたらどのくらい使わせたいか、質問してみたところ、「1日に数時間」「ほぼ毎時間」「1日に1時間」という回答が多く、合わせて91%にもなります。

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-アンケートに答えてくださった先生方からは学習用端末を毎日活用させたいという声が多いのですね。

もうひとつ気になったのは、希望する接続の仕方についてで、「無線LAN のみ」を希望しているのが36%と、意外に少ないと感じました。

「有線LAN と無線 LAN の併用」が50%なのは、コンピューター室での利用がまだ多いということなのでしょうか。

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「無線LANの整備」など、ネットワーク環境が授業に与える影響はありますか。もしあれば教えてください。

望月先生:ネットワークに関しては、1人1台端末を導入するためには避けられない問題を抱えています。

昨年春の全国学力テスト「外国語」話すことに関する調査で、学校のネットワーク環境(インターネットに接続する回線)が細いため、クラウド接続できずに、端末ごとに話した音声データを保存し先生方がUSBメモリに集めて提出した話は話題になりました。

また、ScratchなどWeb接続して使うタイプのプログラミングツールを40台同時に使えない(止まってしまったり接続ができなかったり)ので、交代で使っているという話もよく聞きます。今の状態で端末だけ子どもたち全員分をいきなり入れてしまうと、おそらく全然インターネットにつながらなくなる学校が出てくるかもしれません。

無線LANもスムーズに接続できないのではないか、という不安から、「併用」「確実な有線接続」という回答が多いのではないでしょうか。「授業の際につながらない」ことが一番困ることですからね。

理科の授業でのICT利活用

-アンケートに答えてくださった先生方から、「学習用端末を毎日利用させたい」という声が多いようでしたので、授業での利活用についてもお話を伺いたいです。

望月先生は中学校の理科を教えていらっしゃいました。先生は理科の授業でどのようにICTを活用していたか、事例を教えていただけますか。

望月先生:理科の授業でよく出てくる例が、「動画教材を見せると、理解が進み授業が効率よく進むようになる」というものです。私はそういう教材を使ってきませんでしたし、先生方にもあまりすすめませんでした。なぜなら、

  • すぐに消える動画の画面をみんなで一斉に見ても、記憶に残りにくく、ふりかえって見ることができない。
  • 一般化された動画では、実際に使わない器具を使っていたり、特別な実験の例が多かったりして、実際に理科室で行う実験の参考にするのは難しい

などデメリットが多くメリットが少ないからです。また、見ただけで「分かった気になる」場合もあるのでそれも注意が必要です。

子供たちの理解につながらなかったなら、かえって復習などに時間がとられ、トータルではよけいに時間がかかることにもなってしまいます。(授業が進めばよい、教材準備が楽であるという観点だけから見るのであれば話は別です)

かけたほうがよいところには時間をかけることで、子供たちの理解が進み理科的なものの見方・考え方がついてくると、授業も効率よく進んでいくものです。

-なるほど。理科的なものの見方・考え方が身につくように授業を行うのは大切ですね。それでは、先生が取り組んできた授業例を教えていただけますか。

望月先生:教科書や理科室にある器具を十分に活用するよう心がけていました。

・教科書を十分に活用するため、タブレットのカメラで拡大提示。
 ・・・教科書に書いてあることは、先生の板書を写すなどしなくてよい。
 ・・・拡大アプリで書き込みしていく過程で、自分の教科書にチェックできる。
 ・・・実験や観察の説明も教科書で確認することができる。
こうすることで子どもたちの手元(教科書)にそれらチェックも残ります。先生が板書する時間・子供たちがノートに写す時間も短くなり、また子どもたちがより教科書に集中していくようになります。

・その場にある実験道具をタブレットのカメラで映しながら説明。
 ・・・今から実験で使う道具の使い方がわかる。
 ・・・使い方や手順もすぐそばで操作しているのを見ることができる。
 ・・・動画として保存されていれば、何度も見ることができる。
理科室にある実験器具を使うことで、動画やスライドなどの準備も特に必要がありません。子供たちの実験をへの理解度が増すと、実験や観察の際の安全度が増します。

-なるほど。では先生が考える、1人1台学習者端末を使うことで得られるメリットとは何でしょうか。

望月先生:もし1人1台の学習者端末が入ってきたとしたら、

  • 教科書やノートへの記録がさらに簡単になる。
  • 先生側から動画や説明も配信できる。個人ごとに見直すことが簡単になる。
  • 自分の活動を記録することで、リフレクション(振り返り)が進む。

など、デジタル化のメリットをこれまでより受けるので、授業がスムーズに進むようになると思います。

また、それだけでなく、先生と子どもたちの対話・子供同士の対話である「相互のデータのやりとり」が簡単にできるようになるため、先生と子どもたちが向かい合っている、今の教室の座り方も変わってくるのではないでしょうか。

子供たちに、「ツール」としてどううまく活用させるか工夫・アイデアを出していくことが、これからの先生方が求められる「授業づくり」になっていくと思います。これまでよりさらに発想の転換が求められていくでしょうね。

-ご教示ありがとうございます。端末が整備されたら学習者端末を主役(授業の軸)にしてしまう実践が多くなりそうですが、あくまでも子供たちが授業を進めるための「ツール」であることを忘れてはいけないですよね。

学校における効率化についての連載は今回が最後となります。望月先生のご厚意と読者の皆様に支えられての連載でした。望月先生、今まで読んでくださった皆様、大変ありがとうございました。当連載が少しでも皆様のお役に立つことを願っています。

また次回のシリーズでもよろしくお願いします。

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望月先生がmicro:bit を活用したプログラミング教育について、当ブログで連載した記事のまとめは以下の記事からご覧いただけます。

▼【連載まとめ】micro:bit プログラミングとこれからのプログラミング教育https://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2019/02/microbit.html

※連載まとめは、望月先生の連載(5回分)を片岡が再構成してまとめたものです。

 望月先生は、全国各地で依頼によりプログラミング教育やmicro:bitに関する講演やセミナーをしていらっしゃいます。春からプログラミング教育が必修化される小学校の先生方も参加されてみてください。

編集履歴:2020年2月3日 16:30 グラフを差し替えました。無線LANの値を36%に修正し、「、「有線LANのみ」が21%」を本文から削除しました。

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