リブート第6回「教材やコンテンツを制作する際、実際に許諾を取った例~望月陽一郎先生のお話より~」
現役の先生に教育現場のICT活用について伺いました(2014/04/12初公開分をリブート)
リブートシリーズ・・・2013年から不定期で掲載してきた「教育・授業・ICTに関するインタビューシリーズ」を、今に合わせて「再構成」していく企画です。
中学校で教諭をされておられる望月陽一郎先生に教育とICTを学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺っています。
【望月陽一郎先生・略歴】
大分市中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター情報教育推進担当主事、指導主事、大分県主幹等を経て、現職。
前回は「教材を作る際、著作権および著作権法についてどのようなことに注意すると良いのか」をテーマにして、お話を伺いました。
【前回の概要】
- 「著作物の複製」について
例:引用など - 著作権法の第35条に「学校における例外規定」について
例:放課後の補習は著作権法の第35条に「学校における例外規定」を適用できるのか?
例:反転授業は、第35条の適用外になってしまうのか?
など。
今回(リブート第6回目)は授業で使う教材を制作した際に「音楽や地図など、実際に望月先生が許諾を取られた事例」を取材しました。
教材やコンテンツを制作する際、実際に許諾を取った例について
-前回(リブート第5回目)の「教材を作る際、著作権についてどのようなことに注意しているか」は、今まで(2014年当時)のインタビューの中で特に反響が大きかったです。そこで今回は「教材やコンテンツを制作する際、実際に許諾を取った例」についてお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。
望月先生 片岡さんは、著作物に関する許諾を実際にとったことはありますか?
-数回あります。文部科学省や出版社に。出版社の場合はまず電話をかけて、著作権に関する担当部署を教えていただきました。それから担当者様の指示に従って申請手続きをしました。
「文部科学省の「ちょっと待って!ケータイ&スマホ」リーフレット(平成24年度)の紹介」を書いた際は、事前に文部科学省へメールで一報を入れました。文部科学省のサイトに以下の事柄が記載されていたからです。
■ リーフレットの利用について
リーフレットはA4版で配布できる構成になっています。
A4用紙に両面印刷して御利用ください。(1)ダウンロードして使用する(目的、配布対象、枚数)
(2)リンクを張る(リンクを張るURL)
(3)講習会、研修会等で使用する
(4)A3版の印刷を希望する
以上の場合、担当係までメールにて御一報いただければ幸いです。出典:文部科学省(http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/taisaku/1225103.htm)
文部科学省の担当者様宛にメールを出した際は、大変緊張しました。記事を歓迎してくださるご返信をいただけたので、うれしかったです。きちんと確認して良かったと思った体験でした。
望月先生 私が最初に著作物に関する許諾をとったのは、大分市視聴覚センター(現 大分市情報学習センター)の事業でデジタル教材の作成を依頼され、教材の一部にMicrosoft百科事典の中にある図を使いたいと考えた時です。そのデジタル教材はセンターHPに公開される(現在は削除され公開されていない)というので、これは確認した方がよいと思いMicrosoftにメールを送ったところ回答をもらいました。
送ったメールの中では、
- 教材作成の目的
- どのようなデジタル教材なのか
- どのHPで公開するのか
などについて書いておきました。
すると、法務部(作成当時)という名称だったか、の部署から、「デジタル教材への表示のしかた」の説明を添えた許可をいただきました。もう20年くらい前になりますね。
-私もいくつかの会社に問い合わせたことがありますが、中にはいくら待っても何も返事が来ない場合もありました。その回答は丁寧ですね。
▼マイクロソフトの著作物の使用について
http://www.microsoft.com/ja-jp/mscorp/legal/permission/default.aspx
望月先生 他には、私が若いころからずっと取り組んでいる「地域コンテンツ」に、古い地図の画像を使いたいと考えたことがありました。
-その古い地図の許諾はどこからとられたのですか?
望月先生 その地図は、購入した「地質図」解説に載っていたものなので、発行元にメールで尋ねました。ところが、発行元からは地図自体の所有元にきいてくださいと言われたのです。
-「さらに別なところに問い合わせをする必要がある」となると大変ですね。
望月先生 地図の所有元に尋ねたところ、それは国土地理院にきいてくださいと回答がありました。そこで仕方なく次に国土地理院に問い合わせました。
国土地理院からは、「地図を許諾なく使用できる場合」について詳しい説明がありました。はっきり示されているので、紀要などの刊行物にも条件内なら申請不要で使えます。
▼国土地理院 承認申請 Q&A(8.を参照)
http://www.gsi.go.jp/LAW/2930-qa.html#02
-そうでしたか。許諾をとるのが難しかった事例もありましたか?
望月先生 一度だけ断念したことがあります。それは地元の新聞に載っていた写真でした。新聞社に問い合わせたら、使用料を示されました。Webページに数カ月載せるだけで数千円の使用料だったと思います。これは載せ続けるとなると相当な金額になるのであきらめました。市報に載っていた写真を使いたいと、市に問い合わせたときはすぐに許可をくれたのですけどね。
「子どもたちが合唱している音声・動画」を学校Webページに載せる場合も、作詞者・作曲者の許可が必要
-音楽の歌詞をWebサイトに載せる場合と同じくらいの金額ですね。
望月先生 音楽の歌詞といえば、学校の校歌の歌詞も許可なく載せられません。
-校歌が、ですか。それは知りませんでした。
望月先生 著作権法に示されている例外規定は、「授業」に限定されますからね。学校のWebページは例外規定があてはまらないので、作者の許諾が必要です。
▼JASRAC 学校など教育機関での音楽利用
http://www.jasrac.or.jp/info/school/
-前回示していただいた資料にも、「授業」であるかどうかと書かれていましたね。
▼学校その他の教育機関における著作物の複製に関する著作権法第35条ガイドライン 平成16年3月
http://jbpa.or.jp/pdf/guideline/act_article35_guideline.pdf
望月先生 子どもたちが合唱している音声・動画を学校Webページに載せる場合も、作詞者・作曲者の許可が必要です。
-許可を取る先はJASRAC(日本音楽著作権協会)なのでしょうか?それとも別なところなのでしょうか?
望月先生 許可を取るのは、
- 著作権者
- 著作権者がすでに亡くなられている場合は遺族
となります。
著作権の保護期間は、著作権者の死後50年であって、作品の公開後50年でないことは注意が必要です。20歳で作った作品で、その方が70歳で亡くなったとしたら、作品が作られてから100年たたないといけません。
-100年もたったら、ご遺族の連絡先さえわからなくなるでしょうね。今時の作曲家は所属事務所やご本人の公式Webサイトがあるから連絡をとりやすいでしょうが。これが戦前の作曲家の方になってしまうと、ご遺族の連絡先を探せない可能性の方が高そうですね。
望月先生 でも、著作権法には連絡先がわからない場合の手続きが書いてありますよ。第67条に書かれています。
▼(著作権者不明等の場合における著作物の利用)第六十七条 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO048.html#1000000000002000000008000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
-第67条には以下のように書かれていますね。
2 前項の裁定を受けようとする者は、著作物の利用方法その他政令で定める事項を記載した申請書に、著作権者と連絡することができないことを疎明する資料その他政令で定める資料を添えて、これを文化庁長官に提出しなければならない。
3 第一項の規定により作成した著作物の複製物には、同項の裁定に係る複製物である旨及びその裁定のあつた年月日を表示しなければならない。
望月先生 この手続きをとれば合法ですし、勝手に載せれば違法行為ということになってしまいますね。校歌を学校のHPに載せる際許可が必要なことは、ずいぶん前に学校宛に通知がされているので、HP管理の先生なら知っていることではあります。
-ちなみに先生は第67条にのっとった申請をされたことはありますか?
望月先生 申請手続き(添付資料作成など)が大変なのでさすがにありません(よって許諾がとれない場合校歌は掲載せず)が、JASRACに許可をとって掲載した学校ホームページの例は何校か見たことがあります。著作権者がJASRAC会員の場合、手続きをして使用料を払えば許諾番号が発行されます。それを学校ホームページに明示(番号を添えたマーク)することで許可を取っていることを示すわけです。
▼JASRAC 学校など教育機関での音楽利用
http://www.jasrac.or.jp/info/school/
-確かに学校ホームページでも、そのようなマークを見たことがあります。
望月先生 特に校歌については、JASRACが、当面の間手続きのみで使用料をとらないとしています。私も教職員研修で、先生方にこうした話をよくしてきました。
-作者がJASRAC会員でない場合は許可をとるのが大変そうですね?
望月先生 そう思います。著作権のあり方もこれから少しずつ変わっていくと思います(2014年当時)が、まず法を遵守してそのうえで工夫していくことが大事ですね。
-確かにその通りですね! 2回にわたって(リブート第5~6回目)、
- 望月先生が実際に許諾をとった際の体験談
- 著作権法に関する事例
をうかがえて大変良かったです。
今回もわかりやすくまとめていただき、ありがとうございました。このインタビューが教育現場の皆さまのご参考になることを願っています。
>>リブート第7回「教育現場のICT活用能力の向上のために ~望月陽一郎先生のお話より~」(11月1日公開予定)に続く
Reboot Produced by Yoichiro Mochizuki
参考記事
先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の45の取組みが紹介されています。