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【書評】吉澤準特『外資系コンサルのビジネス文書作成術』(PR)

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終身雇用制度や年功序列が崩壊し、キャリア形成は流動的になってきました。社会のグローバル化が加速し、雇用情勢が流動的になっている現在、誰が読んでもわかりやすい"文書作成スキル"が求められているのではないかと思います。

「特定の相手しか読まないのだから」という意識でドキュメント作成していると、伝えたい内容が相手に伝わらず、ビジネスの機会損失を生みかねません。「具体的にはどのように作成すればよいのか? 」という私の疑問に答えてくれたのが、吉澤準特さんの『外資系コンサルのビジネス文書作成術」(東洋経済新報社)でした。

【参考】吉澤 準特『外資系コンサルのビジネス文書作成術

著者の吉澤さんは、「『資料』ではなく『文書』の作成術を知る(前掲書 p.30)」必要性を指摘しています。

「資料」は議論をサポートするためのものです。(中略) 一方、「文書」はそれ自体が成果物であり、月日と共に更新されることを前提に作成されるものです。(中略)ボリュームが多くなりがちな文書は、ページ送りや校正機能に秀でたWordで作った方が、メンテナンス性に優れます(前掲書 p.30)。

社会状況の変化に合わせて、「わかりやすい文章作成術」と「Wordを活用したビジネス文書作成のスキル」の両方が求められるようになりました。

本書を読むと

  • ロジカルシンキングと文章術によるワード文書の作り方
  • 「外資系コンサルタントが実践しているビジネス『文書』作成のルール(前掲書 p.30)」

を知ることができます。

本書で紹介されている事例

外資系コンサルのビジネス文書作成術』で身につけられるスキルは、以下の3点です。

  1. Word文書作成メソッド
  2. 伝わる文書を書くロジック
  3. 効率よく作成するWord機能の使い方
    ※前掲書 はじめに p.1を参照

【目次】

  • 序章  スキル診断
    Test  あなたのビジネス文書作成力を診断する
  • 第1章 ストラクチャー ~論理構造を組み立てる~
    Introduction ロジックの比重が大きいWord文書
  • 第2章 スタイル ~体裁を整える~
    Introduction Word文書は「スタイル」の良し悪しで第一印象が決まる
  • 第3章 センテンス ~文章を整理する~
    Introduction Word文書は「センテンス」で読みやすさが決まる
  • 第4章 スキーマ ~図表を活用する~
    Introduction Word文書は「スキーマ」で複雑な情報をシンプルにする
  • 巻末付録 議事録の作成

【補足】

わかりやすいビジネス文書は4つのSの観点で構成されている、と著者は指摘しています。

【Word文書に必要な4つのS】

  • S1.ストラクチャー (Structure)←論理構造のこと
  • S2.スタイル (Style) ←Word文書の書式を定義するかたまりのこと
  • S3.センテンス (Sentence) ←文章の組み方と用語の使い方のこと
  • S4.スキーマ (Schema) ←概念や事実を図解したもの

本書を読むと、4S(「論理構造」「スタイルの活用」「日本語の適切な使い方」「図表の活用」)を習得できます。

特に役立った部分

私にとって「特に役立った部分」を紹介しますね。

  • 主語と述語を近づける ←主語と述語が遠いと、複数の解釈ができてしまう
  • カタカナ語句を多用しない ←例:アグリー(Agree 同意)、オミット(Omit 除外)など
  • 「~性」「~的」「~化」の熟語をあえて使わない ←参考例:優先的推進
  • 漢字率を下げると読みやすくなる ←一般的には30%、ビジネス文書なら40%以下
  • 似て非なる漢字を使い分ける ←例:超えると越える
  • 人によって捉え方が異なる表現はトラブルのもと ←例:と聞いている、かもしれない
  • 動詞をシンプルにする:「名詞+行う」→「する」
  • 動詞をシンプルにする:「名詞+可能だ」→「~できる」
  • トートロジーを削る:同語反復 ←例:白い白馬
  • トートロジーを削る:同義循環 ←理由と結論が繰り返されている

その他、知っておきたい点

文書を作り始める前に、最優先で行いたいこと

場面・状況によってWord文書の作り方は変わります。そのため、以下の三点の明確化を最優先にやるのが良い、と吉澤さんは指摘しています。

【最優先で行いたいこと】

  1. 文書を見せる相手を明確化すること ← (WHO)誰のために文書を作成するのか
  2. 「ねらい」を定義すること ← (WHAT)何のために文書を作成するのか
  3. 「相手」と文書作成の「ねらい」の組み合わせは妥当か ← (WHY)理由は妥当なのか

文書の冒頭で全体の構成を大まかにまとめ、ロジカル / ラテラル / クリティカルシンキングを使うと、相手の疑問に答えるコンテンツ構成になります。

PREP法について

PREP法を用いて文書作成すると、「なぜこうした方が良いのか」という説得力を増すことができます。※PREP法は、以下の4つの流れを表した言葉です。

【PREP法】

  • Point(主張)
  • Reason(理由)
  • Example(事例)
  • Point(まとめ)(前掲書 p.51を参照)。

Reason(理由)の部分がしっかり練られていないと、読んでいて違和感を覚えます。PREP法を用いて文書作成すると、「相手の「なぜ? 」に耐える理由(R)」を示しやすくなります。

最初から主張が対立している相手とのやりとり

そして、「最初から主張が対立している相手には変化球を使う(前掲書 p.61)も興味深かったです。意見の隔たりが大きい相手から納得を引き出したいときは、

  1. まず相手の主張はすべて正しいと仮定した上で、
  2. 「相手のロジックをPREPで構造化(前掲書 p.61)」し、
  3. 「問題点をあぶりだして(前掲書 p.61)」」、
  4. 「相手の主張に是正すべき点があること(前掲書 p.61)」を示す

と良いそうです。

いきなり意見を反対されるのと違って、「あなたのおっしゃることは正しい」と伝えてから、「前提が正しいことを確かめる中で問題点をあぶりだす(前掲書 p.61)」と、相手も納得しやすいだろうと感じました。

一文の文字数はどれぐらいが良いのか?

「わかりやすい文章」に共通した文章の組み方と用語の使い方についても参考になりました。「一文の文字数は100字、それ以上は分割する」は特に参考になりました。

以前は「~が、・・・・・・」という文のパターンを頻繁に使用していたので(100文字以上)反省して短文になるように改めたのですが、「長文を避けて短文を多用しても読みにくい」というご指摘がありました。Wordの文字数カウントなどを利用して、改善しようと思いました。

棒引きについて

ソフトウェア会社に入社した2000年当時の話ですが、「サーバー(内閣告示に従った表記)」は「サーバ(JIS規格に従った表記)」、「ユーザー(内閣告示に従った表記)」は「ユーザ(JIS規格に従った表記)」と表記するように新人研修で指導を受けました。

私が社会人になった2000年当時は、IT業界では音引きがない表記を使うのが一般的だったようです。

しかし、現在はIT業界でも音引きがある表記を使うように変わっていたようです。

「Microsoft社は、2008年には、これまでJIS規格に沿っていた同社製品上の表記を内閣告示へ切り替えることを発表しました。この結果に他社も追随し、今では皆さんが使っているPCやスマートホンなどで、「ユーザ」のようなJIS規格表記は非常に少なくなりました(前掲書 p.153)

吉澤さんがご指摘したように「カタカナ語句の音引きは省かない」ように文書作成していくことにしました。

その他、Wordのスタイル機能の活用方法や図表(チャート、グラフなど)を作るときの注意点、議事録の作成方法なども紹介されています。ビジネス文書を作成する際、ぜひ本書をご参照いただければと思います。

おわりに

IT系の講師業をはじめてから悩んだことの一つは、「わかりやすい説明」がうまくできない点でした。

一生懸命、生徒さんに伝えようとすればするほど説明や文章がくどくなり、伝えたいことがうまく伝わりません。WordやExcelなど、ソフトウェアの操作を生徒さん達に説明する(インストラクション)のはマシでしたが、教材作成や操作マニュアルなどのドキュメント作成は苦手意識があります。

そこで講師の先輩方の授業を拝見し、自分のものと比較検討した結果として、「わかりやすいドキュメント / 文書作成(文章を書く)」の共通点は、

  • ロジカルに構造化されている
  • シンプルである
  • 見やすい

ではないか、と思い当たりました。

本書を読むと、

  1. ビジネス文書作成のコツ
  2. Wordの活用方法
  3. ロジカルシンキング / ラテラルシンキング / クリティカルシンキング

を学ぶことができます。

著者の吉澤さんから献本していただいたおかげで、「なぜわかりにくい文書を作成してしまったのか」「どうすれば改めていけるのか」の方法がだんだん見えてきました。とても実用的な本ですので、多くの皆さまに読んでいただけましたら大変うれしいです。

参照書籍

吉澤 準特『外資系コンサルのビジネス文書作成術

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