オンデマンド出版と在野研究
はじめに
私が在野で日本文学研究をはじめてから、14年が経ちました。かつては、大学院(修士課程)で中世王朝物語の研究をしていました。しかし、家庭の事情により博士課程への進学をあきらめ、IT業界に就職しました。
専門学校の職業訓練部門や大学の夏季講座などでITの講師をするかたわら、在野で文学研究の活動も続けてきました。本稿では、在野で研究論文を発表する場合の泥臭さと、オンデマンド出版による研究環境の改善について述べます。
在野研究の泥臭さ
国文学の研究書を文庫で自己出版した荒木優太さんが、こちらのメディアで「在野研究の仕方 しか(た)ない」を書かれていました。
参考:在野研究の仕方 しか(た)ない
http://www.dotbook.jp/magazine-k/2013/04/03/zaiya_kenkyu/
私が冒頭に「在野」と書いたのは、大学や研究機関に属していない研究者という意味です。荒木さんのタームの使い方と同じニュアンスです。
荒木さんが書かれたように、日本文学を研究した大学院生は、高校の国語の教員になるのが大多数のようです。
しかし、
- 私は教えることに適性がないと感じていたこと、
- 研究するスキルと教えるスキルは全く別
と考えていたため、民間企業に就職をしました。
アカデミックな所属がないと、学会で発表したり、論文を発表するのがかなり難しくなります。そこで、社会人になってから数年に一回、自費出版の学術誌に論文を公開して来ました。
この投稿誌は、掲載論文の印刷代を負担する代わりに、査読なしで論文を掲載します。ISSN番号を取得しているので、雑誌として認められているようです。
※カバーなし普通紙印刷。すべてモノクロ。流通にはのりません。大きさはB5です。
過去、三回投稿しましたが、一ページあたりの印刷代は5,000〜6,000円でした。聴いた話ですが、研究費の相場では、請求可能なギリギリの価格帯のようです。投稿誌の投稿募集には、一ページあたりの単価は平均3,000円と書いてありました。
しかし、私が昨年に投稿した時は、一ページあたり5,000円×20ページで10万円を請求されました。(私は原稿は原稿用紙58枚を掲載。)他の人が画像をたくさん使ったため、全員の印刷代が高騰したとの連絡でした。 印刷代は常に変動するそうです。
印刷代が高いのはオフセット印刷だったり、大学に所属していると、研究費を使い切る必要があったりするのかもしれませんね。
在野の私は研究費が出ませんので、すべて自腹です。見積もりより請求額が四万円多かったので、貯金を取り崩して支払いました。生活費との兼ね合いが難しいのが、在野の悩みです。
オンデマンド出版の衝撃
かつては、荒木さんのようにパブーやKindle出版で公開することを考えていました。しかし、紙の書籍で研究を発表しないと、学術データベースCiNii等に載らないようです。
参考:CiNii
http://ci.nii.ac.jp
「CiNiiについて」には、
「CiNii Articles - 日本の論文をさがす」では、学協会刊行物・大学研究紀要・国立国会図書館の雑誌記事索引データベースなどの学術論文情報を検索できます。(中略)
「CiNii Books - 大学図書館の本をさがす」では、全国の大学図書館等が所蔵する本(図書・雑誌)の情報を検索できます。
※http://ci.nii.ac.jp/info/ja/cinii_outline.htmlより引用
と記載されています。
しかし、10年以上、在野で研究を続けているうちに、オンデマンド出版で本を出版できる時代が来ました。紙の書籍の自費出版は、25〜30万円でも可能になりました。
※書店流通させるには+9〜10万円かかるようです。
大学図書館に献本すれば、研究成果を学術データベースに載せることができそうです。そこで、数ヶ月前からオンデマンド出版を検討していました。
荒木さんが実際に行われた例を踏まえると、書籍を自費出版した方が費用対効果が良い。したがって、学術誌に載せることにこだわらなければ、自費出版は有効だと判断しました。
参考:自費出版本をAmazonで69冊売ってみた
http://www.dotbook.jp/magazine-k/2014/03/04/69_copies_of_self_published_book_were_sold_on_amazon/参考:自費出版の費用がすぐにわかる自動見積り
http://www.otegarushuppan.com/mitsumori/
書店流通だけでなく、Amazon流通にしぼることも可能です。
参考:コシーナブックス
http://www.cocinabooks.jp/howto/saport.html
オンデマンド出版を利用すれば、在野でも論文を自由に発表することが可能になりました。 投稿誌への投稿に加えて、選択肢が増えるのはとても良いことですね。
おわりに
研究書は知り合い以外には売れにくいジャンルです。したがって、最低でも200〜300冊以上、印刷する必要があるオフセット印刷では不向きではないか、と考えていました。
しかし、少部数印刷が可能なオンデマンド出版ならば、必要な部数だけ出版することができます。私も今後は紙の書籍の自費出版を活用して、研究の場を広げることにしました。オンデマンド出版はアカデミックな世界にも、風穴を開けるのかもしれませんね。
関連書籍
荒木 優太 『小林多喜二と埴谷雄高』
※上記書籍のリンクURLはAmazonアソシエイトのリンクを使用しています。
編集履歴:2014.10.02 21:55 関連書籍を追加しました。2023.9.24 8:45 「してきました。そして、」を「するかたわら」に修正しました。