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「『稚児今参り物語』成立私考 -和歌受容の側面から-」 冒頭部分の本文を公開

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学術データベースSUCRAにて拙論のPDFを無料公開

昨年末、十数年ぶりに日本文学の論文を発表しました。

参考:研究と資料の会『研究と資料』第七十輯に論文を掲載していただきました

Ks70

「IT業界の人間として、可能な論文はオープンソースの精神で無料公開したい」と、かねてから考えていました。このたび、学術データベースSUCRAにて拙論のPDFを無料公開しました。

  1. 『稚児今参り物語』成立私考 : 和歌受容の側面から
    http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/detail.php?id=A3000361
  2. 【研究ノート】『稚児今参り物語』における『木幡の時雨』受容補考
    http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/detail.php?id=A3000362

ITmediaオルタナティブ・ブログには、冒頭部分の本文を公開します。※拙論では「稚児今参り物語」と表記しましたが、「稚児いま参り物語」「ちごいま」「稚児今参物語絵巻」等の表記もあります。

『稚児今参り物語』成立私考 : 和歌受容の側面から 冒頭部分の本文を公開

『稚児今参り物語』成立私考-和歌受容の側面から- 片岡麻実

一、『稚児今参り物語』研究史概括

 『稚児今参り物語』は室町後期に成立した物語で、比叡山の稚児が垣間見した内大臣の姫君に懸想し、女装をして姫君の女房になるという稚児物として珍しい趣向の物語である。

 かつて市古貞次が古典文庫に翻刻して以来(市古貞次『未刊中世小説一』古典文庫、一九五四年)、鈴木弘道が「とりかへばや物語の影響作品」(『平安末期物語についての研究』赤尾照文堂、一九七一年)で奈良絵本『ちごいま』の趣向・文章等についてふれた。だが二〇〇五年に染谷裕子の「絵巻における本文と画中詞比較の試み-『稚児今参り物語』の場合」が発表されるまで、「稚児今参り物語」単独の研究論文はなかった(1)


 染谷は美濃部重克による『稚児今参り物語』絵巻についての指摘(2)を踏まえ、国語学者の立場から、画中詞と絵巻本文の会話文に見られる表現の違い、例えば「侍り」と「候」の使い分け等について考察している。

 中世王朝物語(擬古物語)は王朝物語、特に『源氏物語』の影響を受けて、さらにその流れからお伽草子が発生したとされている。そのため主人公の稚児が女装する『稚児今参り物語』は「擬古物語、特に『とりかへばや物語』を模倣した作品」とする鈴木弘道の評価は正しい。

 『お伽草子辞典』の「稚児いま参り」の項で、濱中修が『とりかへばや物語』「秋の夜長物語」からの影響に加えて、「花世の姫」などの姥皮型モチーフとの関連、「貴船の本地」「御曹子島渡」との類似を指摘している(3)。同辞典「天狗草紙」の項では、徳田和夫がお伽草子「是害坊絵巻」「稚児今参り」「天狗の内裏」等における天狗説話を背景から、「天狗草紙」の重要性を挙げている(4)

 岩瀬文庫蔵・奈良絵本『ちごいま』が『室町時代物語大成第九』に翻刻が収録され、『稚児今参り絵巻』は『御伽草子絵巻』に翻刻と絵が掲載された。二〇一一年三月には(翻刻・注釈)阿部泰郎監修、末松美咲編「『ちごいま』物語絵巻・絵本研究資料集」、二〇一二年には(翻刻・注釈)阿部泰郎監修・末松美咲編「『ちごいま』全注釈」が名古屋大学文学研究科比較人文学研究室から発表された(5)。近年では『稚児今参り物語』(ちごいま)の講演・口頭発表等も行われるようになった(6)

 しかし「稚児今参り物語」の先行研究は、絵巻の画中詞と本文の関係について述べられる事が主であった。さらに奈良絵本『ちごいま』の構想・比較・成立論に関しての先行研究は少数であった。その要因として鈴木前掲書において、『とりかへばや物語』や『秋の夜長物語』の趣向を模倣した作品と紹介された事が影響を与えた可能性がある。第二に『稚児今参り物語』に注釈が付けられたのは、阿部前掲書まで待たねばならなかったからという事情が考えられる。

 このような状況のためか、『稚児今参り物語』の構想・成立に関する本格的な論考は他のお伽草子に比べるとなされてこなかった。そこで小論では、和歌受容という観点から作品成立の事情・背景を考えてみたい。

>>学術データベースSUCRA「『稚児今参り物語』成立私考 : 和歌受容の側面から」につづく

編集履歴:2014.9.16 23:11 題名を「片岡麻実『稚児今参り物語』成立私考 : 和歌受容の側面から 冒頭部分の本文を公開」から改めました。

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