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AIインフラの隠れた主戦場。レーザー光源を巡る日米台のサプライチェーン攻防

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台湾の市場調査会社TrendForceは2025年12月8日、AIデータセンターの急激な拡大に伴い、高速光通信に不可欠なレーザー光源の供給が世界的に逼迫しているとする調査レポートを発表しました。

AI Data Centers Ignite a Laser Shortage Wave; Nvidia's Strategic Lock-In Reshapes the Global Laser Supply Chain, Says TrendForce

生成AIの計算能力を支える大規模GPUクラスターの構築競争が激化するなか、データ伝送の要となる光トランシーバーの需要が爆発的に増加しています。本レポートでは、2026年には800G以上の光トランシーバー出荷数が前年比2.6倍の約6,300万台に達すると予測されています。

ここで浮き彫りになった課題は、GPU市場の覇者であるエヌビディアが、戦略的に重要部材であるEML(電界吸収型変調器集積レーザー)の生産能力を先んじて確保したことです。これにより、供給リードタイムが2027年以降にまで長期化する事態が発生しています。この動きは、他のクラウド事業者(CSP)による代替技術へのシフトを促し、日本の三菱電機や住友電気工業を含むグローバルなサプライチェーンの再編を引き起こしています。

今回は、AIインフラの「神経網」ともいえる光通信デバイス市場の現状、エヌビディアの戦略的意図、そして代替技術として注目されるシリコンフォトニクスと日本企業の立ち位置について取り上げたいと思います。

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AIデータセンターの巨大化と「2026年の崖」

生成AIのモデルが巨大化するにつれ、データセンターは従来のサーバー単位から、数千、数万基のGPUを連結させた巨大なクラスターへと進化を遂げています。この計算リソースを最大限に稼働させるためには、チップ間およびサーバー間を高速かつ低遅延で結ぶ「光インターコネクト」の性能と規模が決定的に重要となります。TrendForceの試算によると、2025年には2,400万台規模であった800G以上の次世代光トランシーバーの出荷数は、翌2026年には一気に2.6倍の約6,300万台へと跳ね上がると想定されます。

この急激な需要増は、光通信部材のサプライチェーンにかつてない負荷をかけています。従来の通信インフラの増設ペースとは桁違いのスピードでAIインフラへの投資が進んでおり、部材メーカーの増産計画が追いつかない状況が生まれています。ボトルネックはもはや半導体チップそのものだけでなく、信号を光に変換して運ぶ「レーザー光源」の物理的な生産能力にまで及んでいます。

エヌビディアによるEML独占と戦略的意図

高速かつ長距離の伝送において、信号品質に優れるEML(電界吸収型変調器集積レーザー)は、現在の光通信ネットワークにおける最高峰のキーデバイスです。しかし、EMLは変調機能を単一チップに統合する構造の複雑さゆえに製造難易度が高く、量産できるサプライヤーは米国のLumentumやCoherent、そして日本の三菱電機や住友電気工業など、ごく一部に限られています。

エヌビディアは、自社のGPUクラスター拡張に必要な光モジュールの供給を盤石にするため、主要なEMLサプライヤーの生産能力を大規模に事前確保しました。これは自社エコシステムの安定性を担保する合理的な経営判断ですが、結果として市場全体のEML供給を枯渇させる要因となっています。レポートでは、この「ロックイン」により、他のプレーヤーにとってのEML調達リードタイムが2027年以降まで延びていると指摘されており、市場における「持てる者」と「持たざる者」の格差が鮮明になっているといいます。

代替技術「CWレーザー」へのシフトと新たな供給網

エヌビディアによるEMLの囲い込みを受け、マイクロソフトやGoogleといった他のCSP(クラウドサービスプロバイダー)は、代替技術への転換を急ピッチで進めています。その中心となるのが、CW(連続波)レーザーとシリコンフォトニクスを組み合わせたソリューションです。CWレーザーは変調機能を外部(シリコンフォトニクスチップ)に委ねるため、レーザー自体の構造はEMLよりもシンプルであり、より多くのサプライヤーが製造可能です。

ただ、この「逃げ道」にも課題が浮上しています。CWレーザーへの需要シフトが急激に進んだことで、今度はCWレーザーの生産工程においてもボトルネックが生じ始めているのです。製造装置の納期長期化に加え、厳格な信頼性基準を満たすためのテスト工程が労働集約的であることが足かせとなっています。このため、サプライヤー各社は生産能力の増強を急ぐと同時に、外部のファウンドリを活用した水平分業体制への移行を模索しています。

日本企業のプレゼンスと台湾ファウンドリの台頭

この激動するサプライチェーンの中で、日本企業の存在感は依然として大きな意味を持っています。提供された資料の「Supplier Landscape」を見ると、EMLおよびCWレーザーの主要サプライヤーとして、三菱電機、住友電気工業、古河電気工業といった日本メーカーが米国勢と並んで名を連ねています。高度な化合物半導体技術を要するレーザー光源は、一朝一夕に参入できる領域ではなく、長年の蓄積を持つ日本企業の技術力が必要とされています。

一方で、製造プロセスの「後工程」やエピタキシャル成長(結晶成長)の工程では、台湾企業の台頭が見られます。IntelliEPI(iET)やVPECといった台湾の専門ファウンドリが、レーザーおよび受光器(PD)の製造において重要な役割を担い始めています。米国企業が設計し、日本企業が高品質なデバイスを供給し、台湾企業が量産を支えるという、新たな国際分業体制が構築されつつある状況です。

出典:TrendForce

今後の展望

AIインフラへの投資競争は、半導体チップの性能争いから、光通信を含むインフラ全体の総合戦へと移行しています。エヌビディアによるサプライチェーンの垂直統合的な動きは、短期的には同社の優位性を固めるものですが、中長期的には業界全体が特定の技術やサプライヤーに依存しない「シリコンフォトニクス」のようなオープンな技術標準へと移行する起爆剤となると考えられます。

日本企業にとっては、この過渡期こそが好機となります。高品質なレーザー光源の供給能力は、AI時代の戦略物資としての価値を高めています。今後は、単に部材を供給するだけでなく、台湾のエコシステムとうまく連携し、急拡大するCWレーザーや次世代の受光デバイス(PD)市場において、いかにシェアを維持・拡大できるかが重要となります。GPUメーカーの動向だけでなく、その足元を支える「光のサプライチェーン」における日本企業の立ち位置と、新たなアライアンスの形成に注目する必要があるでしょう。

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Google Geminiにて作成

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