既存SIビジネスの前提を塗り替えるAIの3つの視点
DXとAIがもたらす変革
DXが叫ばれ始めた当初は、DXを「ITの導入による業務効率化」程度に捉える人たちも少なくありませんでした。しかし今では、デジタル時代に適応するために社会や企業を丸ごと新しい形へ作り変えることを意味する概念として受け止められています。
特にいま、AIの発展がめざましく、日常の一部となりつつあります。こうしたトレンドが進むと、ITベンダー/SI事業者は「人月ベースの請負」からIT前提での「事業開発」や「事業変革」を支援するコンサルティングや技術提供、さらには「AIを中核としたアプリケーションやプラットフォームを主宰し、データやビジネス連携のハブになる」モデルへとシフトを迫られます。
AIもたらす変化については、次の3つの視点で捉えてみると、その影響の大きさが見えてきます。
AI前提のビジネス
インターネットやスマートフォンなどの普及とともに、「ネットへの常時接続」は、私たちの日常となりました。私たちは、ネットの答えを参考に意志決定を下すのはもはや当たり前です。しかし、これまでは、必要な情報を探す、調べる、手に入れるには、膨大にある情報源から、検索や口コミを参考に、自分で絞り込んで、たどり着く必要があり、これには手間もノウハウも必要でした。
そんな状況を一変させたのが、ChatGPTです。こんなことを知りたい、こんなことを解決したいと、日常の言葉で「相談」すれば、必要な情報を調べ、最適な答えを見つけて、それを文章にして教えてくれます。また、これまでの個々人の相談内容を記憶できるようになり、パーソナライズされた回答も出せるようになりました。
ChatGPTの登場をきっかけに、生成AIは急速に機能や性能を高め、その用途を広めています。さらに、「目的を伝えれば、人間の関与無しに自律的に目的を達成」してくれるAIエージェントが登場し、AIの利便性はますます高まっています。
このような心地よい体験をオンライン販売、コールセンター、日常の事務処理、自動車の運転、ゲームや音楽・映画の配信といったエンターテイメントサービスなどに組み込めば、ビジネスを差別化し競争力を高めることができます。
つまり、「AI前提」であるかどうかが、ビジネスの魅力、すなわち競争力を左右する時代になったのです。
AI前提のDX
DXとは、「デジタル前提の社会に適応するために社会や会社を新しく作り変えること」です。
デジタル技術を使うことが目的ではなく、デジタルが当たり前の世の中にうまく適応できるように、人々の考え方や行動を変化させ、競争力を高め、維持し続けることが目的です。そのためには、ビジネス・モデルや業務の仕組み、働き方や雇用制度、企業の文化や風土、事業目的やパーパスにまで踏み込んだ変革が必要になります。
急速なAIの技術発展は、AIにできることを一気に拡大させ、人間とAIの役割分担も、大きく変えつつあります。これは、上記で述べた「デジタル前提」が「AI前提」を包括することを意味しています。つまり、DXもまたAI前提で取り組まなくてはならないのです。
AI前提のITビジネス
ChatGPTを始めとした生成AIツールは、膨大なテキストデータを使って、流暢で筋の通った文章を生成するように作られています。これは、曖昧さや冗長性を含む自然言語(英語や日本語のような日常的に生活で使われる言語)を処理する技術として登場しました。
そんな自然言語を処理できるのであれば、文法や適用範囲が厳格に決められている人工言語(JavaやPythonなどのプログラム言語)であれば、きれいな文章、すなわち、バグのないきれいなプログラムを作ることはもっと得意なはずです。そんなこともあって、生成AIツールは、「プログラムコードの生成」にも早い段階から使われ始めました。
その後、この機能が、ソフトウェア開発のプラットフォームとして広く使われているGitHubに搭載されたり、コード生成支援機能を搭載したコードエディタCursorが登場したりと、システム開発の現場での利用が急速に拡大しています。
これらツールは、人間がコードを入力すると、次に入力すべき最適なコードを予測してくれるものであり、プログラムを丸ごと書いてくれるわけではありません。そのためシステム開発の生産性の向上も限定的なものに留まっています。
そこに登場したのが、DevinやBoltなどのAIエージェントです。これらは、「コードの生成を支援する」ことに留まらず、システム開発全般に関わる作業を自律的にこなしてくれます。例えば、「以下のことができるプログラムを作って欲しい。具体的にできることとは・・・」というように、やって欲しいことを自然言語で入力すれば、何をすればいいのかを解釈し、やるべき作業を洗い出し、計画を立て、コードを生成し、テストし、問題を確認し、これを修正し、言われたとおりに機能するプログラムが完成するまで、人間の手を借りることなく、自律的に作業をこなしてくれます。
AIエージェントは、まだ発展途上の技術であり、品質やセキュリティの面で懸念もあり、直ちにシステム開発の全てを任せられるという状況ではありませんが、急速に改善が進んでいます。また、システムの運用管理を、AIを使って自動で行い、改善も自律的に行うAIOps(AIと運用[Ops]を掛け合わせた用語)も登場し始めています。
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これまで、ITベンダーやSI事業者は、人手をかけてやっていたシスムの開発や運用の仕事を「人月ビジネス」として提供し、収益を生みだしていたわけですが、その前提が崩れようとしています。
いまはまだAIエージェントにできることは限定的であり、システム開発における企画や要件定義、設計などの上流工程は、当面は人間が関わる必要がありそうです。しかし、決められた要件に従ってコードを生成したり、テストしたり、ドキュメントを書くなどの「知的力仕事」は、AIに置き換わるのにそんな時間はかからないでしょう。
システム開発に関わるビジネスもまた、AI前提で変革を進めていかなければならない状況にあります。
既存SIビジネスの前提を塗り替えるAI
AIは、これまでの人手に頼るシステム開発の手法をAI駆動開発へと変えつつあります。加えて、AIOpsの普及も進み、システム開発・運用の広範なプロセスにわたり、AIがサポート・自動化する動きが始まっています。これにより、次のような変革が一気に進行する可能性があります。
- 開発工程の大部分がAI前提で効率化される
- 運用保守がAIOpsによって予防保守・自動修復へシフトし、人間のオペレーション負荷が大きく下がる
- 上記が進めば、ITシステムの内製は容易になり、システムの開発や運用に伴う工数を外注に頼る必要がなくなる
これらはいずれも、ITベンダーやSI事業者の収益の源泉である「人月ビジネス」の需要をなくしてしまいます。
この現実に真摯に目を向け、人月を前提としたビジネスモデルの転換を図らなければ、収益を得ることはできません。また、感度の良い優秀な若手が「もっと先進的な環境」を求めて流出する事態にも陥りかねません。
このようなことは、2022年、ChatGPTが登場した当初から話題にはされていましたが、社会実装が進まない段階では、漠然としたもので、それほど真剣には受け止められませんでした。それが、この 3年ほどで社会実装が進み、技術進展の速度が見えるようになり、さらには莫大な資金がAI関連事業に投資されるようになったことで、一気に現実感のあるものとして受け止められるようになりました。
これまでの流れをふり返れば、これから何がどうなるかが、かなりはっきりと見えてきます。そこから言えることは、ITベンダーやSI事業者が、変革への取り組みを先送りすればするほど、厳しい状況に追い込まれること、そして、まさに黎明期の今であればこそ、すこし先を走ることで、優位性を生み出せるということです。一方で、このタイミングを逃すことは、致命的な状況を自ら招き入れると言うことでもあります。
GoogleでAIの開発をリードし、AIの技術発展が「シンギュラリティ」をもたらすと説いたレイ・カーツワイルは、新著「シンギュラリティはより近く: 人類がAIと融合するとき・NHK出版 (2024/11/25)」の中で、「収穫加速の法則」について触れています。
「収穫加速の法則」とは、重要な発明は他の発明と結び付き、次の重要な発明の登場までの期間を短縮し、イノベーションの速度を加速することにより、指数関数的に進歩するという経験則のことです。「生成AIの周辺」に起きていることは、まさにこの法則に一致します。
見方を変えれば、ひとつの変化に乗り遅れることは、次の変化に対処することもまた、指数関数的に難しくなるということでもあります。システム開発や運用もまた、この「生成AIの周辺」に組み込まれています。この現実から、私たちは逃れることはできません。SI事業者やITベンダーにとっては、「今が最後のチャンス」ではないでしょうか。
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