営業は売り込みもお願いも必要ない 2/2
コロナ禍にあって、営業の役割が改めて問われている。営業とは、どのような仕事なのかを、2回に分けて考えてみようと思う。
第2回(本日)
- 営業は売り込みもお願いも必要ない
- 新しい技術と蓄積されたノウハウの融合が求められている
営業は売り込みもお願いも必要ない
「社長からIoTでプロジェクトを立ち上げるように指示されたのですが、何から手をつけていいのか、ほとほと困っています。」
こんな相談を持ちかけられたら、あなたはどう応えるだろう。彼らは何をしていいのか分からないままに、まずはIoTについてのネットの記事や書籍を探り、研修に参加し講演を聞き、「調査」と称する時間を費やしているかも知れない。
デジタル推進室やデジタル・ビジネス開発室などの組織を作り、その取り組みを加速しようとしている企業もある。覚悟を社内外に示すというのは、意味のあることだが、早々に成果をあげることが期待され、「何をどうすればいいんだ?」と、こちらもまた調査と検討に時間を費やしているところも少なくないようだ。
このような状況に陥っている人たちに共通しているのは、事業課題を明らかにすることなくテクノロジーを使うことが目的となってしまっていることだ。テクノロジーがもたらす社会やビジネスへのインパクト、これに対処するための課題の明確化、さらには時代に即した新しいビジネスの創出などを検討し、これからの事業のあるべき姿を描くべきであるが、そのような議論に至ることなく、既存の業務に当てはめて、その範囲で使えるところを探すことに終始していることも多い。
一歩進めて、既存の業務で使えそうなところを見つけて使ってはみたものの、特定の工程には効果はあったが、全体から見れば、現状とたいして変わらないという結論に達し、「使ってみた」という成果だけが残ることもある。これでは、事業の成果に結びつくことはない。では、どのように取り組めばいいのだろう。
まずは、お客様と何を解決したいのか、何を実現したいのかをしっかり議論することだ。例えば、この課題が解決できれば、競合他社に対して圧倒的な優位に立てる。あるいは、この工程をなくすことができれば、原価を3割削減できる。そうすれば、利益を大幅に改善し、市場のシェアも1割は伸びるだろう。「なんとしてもそうしたい」、あるいは「そうしなければならない」を現場の意志として明確にすることだ。これを実現することが顧客価値である。
「IoTで何かできないのか?」をそのまま実行してはいけない。「IoTで何かできないのか?」という問いかけを、いま抱える事業課題の解決や将来起こりうる事態への対処、新たな競争優位の創出と結びつけ、それを解決あるいは実現する手段のひとつとしてIoTを捉えることからはじめることだろう。つまり、「IoTで何かできないのか?」を次のように読み替えてみることだ。
- 事業の存続や成長にとっていま何が課題なのか、これから何が課題になるのか
- この課題を解消するためにすべきことは何か
- 有効な手段は何か、IoTはその有効な手段になり得るか
例えば、人材の不足、競争の激化、変化の速さといった直面する課題を解決しようとしたとき、過去の経験や方法論にとらわれず、「いまできるベストなやり方は何か」を追求した結果、「IoT」が最適解であるとすれば、それがIoTで取り組むテーマとなる。しかし、他の手段が有効であるとすれば、なにもむりやりIoTで取り組む必要はない。
IoTかどうかはどうでもいい。大切なことは、事業の成果に結びつくかどうかであり、IoTを使うことではない。そこが入れ替わってしまうと不幸な結末を招くことになる。営業はこのような議論をリードできなくてはならない。
では、次のようなケースでは、どう対応すればいいだろう。
「セキュリティが心配なので○○を禁止する。」
そんな「セキュリティ対策(?)」が、当たり前に行われている。「セキュリティ対策」とは本来、テクノロジーの価値は、それを使うことによって実現する利便性や効率を最大限に引き出すための安全対策であり、その安全を確実に維持するためのルールの運営や教育などの安心対策でなくてはならないはずだ。そんなテクノロジーの価値を毀損する「セキュリティ対策」に何の意味があるのだろうか。
何が起こるか分からない、不安だから、心配だからと、セキュリティ対策の本来の目的を棚上げし、「対策すること」を目的とするとこんな発想になってしまう。
そもそも何を守るのか。どの程度の安心や安全を担保すればいいのか。対象や基準を定めぬままに、対策だけを考えている。本来対策など必要のないことまで含めて、漠然と「心配だから、不安だから」と、一律全てに対策(らしきこと)をしていることもある。例えば、PPAP(暗号化+zip圧縮+パスワード別送)である。送信者も受信者も手間がかかるだけではなく、ウイルス検知を迂回させ、セキュリティリスクを拡散させる。それがセキュリティ・リスクを高めることなど、普通に考えれば分かる話だ。
本質に向きあうことなく思考停止し、セキュアであることよりもセキュリティ対策(?)を行うという形式が大切であると考える人たち、それに文句は言いつつも改善を働きかけない人たちの結果としての暗黙の了解が、テクノロジーの価値を毀損し、ビジネスへの貢献を阻んでいる。
ものごとの本質を問い、本質的価値を最大限に引き出すために、何をすべきかを考え、それにふさわしい手段を提供することが、ITに関わるビジネスの「あるべき姿」だろう。しかし、その本質を問わないままに、手段を提供すること、あるいは手段の価値(=儲け)を最大化することが目的とはなってしまっては、やがてはお客様の信頼を失ってしまうだろう。
ここに紹介したセキュリティ対策(?)以外にも、似たような話はいくらである。本質を棚上げし思考停止し、過去の形式だけをただ無批判に繰り返すことが、いかに無益であり、むしろ事業や社会の発展を停滞させる実害でしかないことを、お客様に気付かせなくてはならない。そのためには、常に本質を問い、「正しいこと」を、責任を持って伝えることを心がけるべきだろう。営業はそんな役割も担っている。
これができれば、売り込む必要もなければ、お願いする必要もない。お客様が「本質」を理解すれば、自分たちの課題は何かに気付くだろう。そうすれば、これを解決したい、これを実現したいとの思いを持つ。それが実現した後の状態、つまり「あるべき姿」についてのイメージを描くことができれば、その実現に向けて行動に移す決心をするだろう。そういう行為が、結果として案件を創り出す。
新しい技術と蓄積されたノウハウの融合が求められている
このような営業としての役割を果たすためには、自分の分野を狭めてはいけない。事業や経営、テクノロジーの全般に渡って、広い知見を持つことだ。もちろん、自分たちの得意や専門分野が不要になるわけではない。ただ、自社の製品やサービスについての知識だけではなく、経営や事業について、そしてテクノロジーのもたらす価値について、クロスオーバーに相談できる存在にならなければ、提案の入口は作れない。
お客様に寄り添い、お客様の目線で物事を捉えることだ。そして、何が一番正しいことかをお客様と一緒に探し出すことだ。そして、自分たちにできるかできないかではなく、お客様が何をすべきかを明らかにすることだ。
それらを全て自分たちだけでまかなうことなどできない。だから、オープンに広く緩い連係を維持し、いざとなれば必要なスキルを外部に求める必要がある。だから、広く人脈を持つことも大きな助けになる。
もちろん、新しい技術だけでは、お客様の求める価値を提供できない。これまでに培った技術やノウハウをも組み合わせ、「バイモーダルIT」にも貢献できてこそ、お客様の期待に応えることができる。
お客様はシステムを作ってもらうことや製品を導入してくれることを期待しているのではなく、ビジネスの成果に貢献してもらうことを期待している。営業は、その期待に応えなくてはならない。
それにもかかわらず、自分たちの抱える製品や得意とするテクノロジーだけを語り、あるいは旧態依然とした知識や方法論を前提にテクノロジーの未来を語れないとすれば、お客様は相談しようなんて思わない。自分たちのビジネスの未来とそこに至る物語を語れない相手に何を相談すればいいのだろう。
そんなお客様の期待に応える心構えと備えはできているだろうか。デジタル・トランスフォーメーション(DX)という言葉がはやり、その定義や何をすればいいのかと、気をもんでいる人も多いだろう。そんなことは、どうでもいい。テクノロジーのいまの常識を持ち、お客様の現実に真摯に向き合うべきだ。そうすれば、自ずとお客様のDX実現に貢献することになる。
完 ***
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