DXを支えるテクノロジー・トライアングル
昨日のブログで解説したCPS、すなわち、「高速で現場を見える化」し、「高速で判断」し、「高速に行動」するというサイクルを実現するための鍵を握るのがデータです。このデータを生みだし、活用するためのテクノロジーが、IoT、 AI、クラウドです。そして、それらをつなげる仕組みとして、5G(第5世代通信システム)が通信の基盤となります。
IoT:デジタル・ツインを生み出し自律制御を実現する
IoTは、モノに組み込まれたセンサーで、現実世界のアナログな「ものごと」や「できごと」をデジタル・データに変換して、ネットに送り出す仕組みのことです。現実世界のデジタル・コピーである「デジタル・ツイン」を作る仕組みということができます。
機器の自律制御もまた、IoTに位置付けられる機能です。その仕組みについては、次節で解説します。
AI:未来を予測し最適解を見つけ出す
デジタル・ツインを解析し、これから起こることの予測や最適解を見つけるのが、AIの技術の人である機械学習の役割です。
また、この技術を応用することで、自分で周囲の状況を捉え、どうすべきかを判断して行動する仕組みへと進化します。これを「自律化(Autonomy)」と呼びます。つまり、人間が事細かに指示を与えなくても、自らが状況を判断し、最適な行動を選択することができるのです。この機能をモノに組み込むことで、モノの自律制御も実現します。
そんなAIが実現しようとしているのは、「人間にしかできなかった」ことを代替し人間の作業を効率化すること、そして「人間にはできなかった」ことを実現し人間の能力を拡張することです。
一方で、これまで人間にしかできなかった仕事を奪ってしまうのではないかとの懸念もありますが、過去にも工場の自動化で製造工程での人間の仕事は減りましたが、納期の短縮や製品のコストの削減が実現し、人間は管理やサービスといった仕事に役割を転じてきました。このようにテクノロジーが新たな価値がもたらし、人間の役割が変わってきたわけで、これは今も昔も変わりません。人間は道具とともに進化してきたわけですが、AIもまた、そんな人間の進化の延長線上に、捉えるべきかも知れません。
特に少子高齢化がすすむ我が国では、働き手が少なくなってゆきます。不足する労働力を補い経済や生活の質を維持してゆくためには、AIやロボットをうまく使いこなしてゆく必要があります。また、過疎化・高齢化が進む地方の交通手段や輸送手段として自動運転車は地元の足となり、輸送手段として欠かすことができないものとなってゆくでしょう。また、「機械の操作が難しくて使いにくい」というこれまでの常識が、人に話しかけるように指示するだけでできるようになれば、高齢者や身体に障がいを持つ人たちにも大きな恩恵を与えます。
クラウド:必要な時に必要な機能や性能を提供する
AIで導かれた最適解を使いビジネスを動かすのは、計算能力やデータの保管容量に制約がなく、必要な機能や性能を俊敏に調達できるクラウド・コンピューティングクラウド(以下、クラウド)です。
クラウドとは、「コンピュータの機能や性能を共同利用するための仕組み」です。例えば、大手クラウド事業者各社は、それぞれ数百万台ものサーバー・コンピュータ(複数ユーザーで共同利用するコンピュータ)を所有し、世界の各所に設置しています。
機器や設備を大量に購入することで購入単価は下がり、運用管理は高度に自動化されています。このように、「規模の経済」をうまく活かして、利用者は安い料金でコンピュータを利用できるようになりました。
クラウドがなかった時代は、コンピュータを利用するためには、ハードウェアやソフトウェアを自分たちの資産として購入し、自ら運用管理しなければならならなかったのですが、クラウドの登場によりサービスとして使えるようになったのです。利用者は初期投資を必要とせず、使った分だけ利用料金を払えばすぐにでも利用できるようになりました。このようにクラウドは、コンピュータの使い方の常識を根本的に変えてしまいました。
また、オフィス・ツールや電子メール、ファイル共有などの独自性を求められることの少ないシステムに加え、安心、安全が高度に求められる基幹業務システムや銀行システムといったミッション・クリティカル(24時間365日、障害や誤作動などで止まることが許されない)なシステムにも使われるようになっています。
さらには、IoTやAIなどの先端テクノロジーに関わるサービスもクラウドが先行して提供し、ITの高度な利用を牽引しています。
2018年、日本政府は政府機関の情報システムはクラウド・サービスの採用を優先するとの方針(クラウド・バイ・デフォルト原則)を決定しています。また米国では、CIA(中央情報局)やDOD(国防総省)も使っています。高度な機密性や可用性、信頼性が要求される政府機関もクラウドを利用する時代になりました。
ビジネスの不確実性が高まり、資産を持つことが経営リスクとして認識されるようになったいま、変化に俊敏に対応することが経営課題として強く意識されるようになりました。そのためにはITを積極的に活用しなければなりません。
一方で、セキュリティに関わる脅威の高度化や多様化に対処することが、企業にとっては大きな負担となっています。
この状況に対処するには、自らは資産を持つことなくコンピューティング資源を必要な時に必要なだけ経費として使用でき、運用管理やセキュリティ対策を高度な専門家集団に任せられるクラウドを利用しようとの気運が高まっています。
5G:テクノロジー・トライアングルをつなぎCPSを実現する
これらを効率よくつなぎ、お互いを連携させる役割を担うのが5Gです。
「第5世代移動通信システム」すなわち5Gは、4Gに続く次世代のモバイル通信です。そんな5Gは「高速・大容量データ通信」、「大量端末の接続」、「超低遅延・超高信頼性」を実現しようとしています。
「高速・大容量データ通信」とは、現在の4Gの20倍の高速化・大容量化したデータ通信で、10G~20Gbpsといった超高速なピークレートの実現を目指しています。これは2時間の映画を3秒でダウンロードできる速さです。
「超低遅延・超高信頼性」とは、如何なる場合でも低遅延で通信できることを目指しています。遅延時間は4Gの10分の1である1m秒です。例えば通信が遅れることで事故につながりかねない自動運転や緊急時の確実な通信が求められる災害対応などでの使用が想定されています。また、利用者がタイムラグを意識することなく、リアルタイムに遠隔地のロボットを操作することなどです。
「大量端末の接続」とは、現在の10倍といった接続端末数や省電力性能の実現をめざしています。4Gでも1平方キロメートル当たり約6万台の端末を接続できますが、IoTが普及すれば足りません。5Gでは1平方キロメートル当たり100万台の端末を同時接続できることを目指します。スマホやPCだけではなく、身の回りの様々な機器がネットに接続される時代を迎えようとしています。
DXは、こんなテクノロジー・トライアングルに支えられているのです。
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