デジタルとは何か? 4/4
2つのデジタル化:デジタイゼーションとデジタライゼション
「デジタル化」という日本語に対応する2つの言葉があります。ひとつは、「デジタイゼーション」です。デジタル技術を利用してビジネス・プロセスを変換し、効率化やコストの削減、あるいは付加価値を向上させる場合に使われます。例えば、アナログ放送をデジタル放送に変換すれば、少ない周波数帯域で、たくさんの放送が送出できるようになります。紙の書籍を電子書籍に変換すれば、いつでも好きなときに書籍を購入でき、かさばらず沢山の書籍を鞄に入れておくことができます。手作業で行っていたWeb画面からExcelへのコピペ作業をRPAに置き換えれば、作業工数の大幅な削減と人手不足の解消に役立ちます。
このように効率化や合理化のためにデジタル技術を使う場合に使われる言葉です。
もうひとつは、「デジタライゼーション」です。デジタル技術を利用してビジネス・モデルを変革し、新たな利益や価値を生みだす機会を生みだす場合に使われます。例えば、自動車をインターネットにつなぎ稼働状況を公開すれば、必要な時に空いている自動車をスマートフォンから選び利用できるカーシェアリングになります。それが自動運転のクルマであれば、クルマが自ら迎えに来てくれるので、自動車を所有する必要がなくなります。また、好きな曲を聴くためには、CDを購入する、ネットからダウンロードして購入する必要がありましたが、ストリーミングであれば、いつでも好きなときに、そしてどんな曲でも聞くことができ、月額定額(サブスクリプション)制で聴き放題にすれば、音楽や動画の楽しみ方が、大きく変わってしまいます。
このように、ビジネス・モデルを変革し、これまでに無い競争優位を実現して、新しい価値を生みだすためにデジタル技術を使う場合に使われる言葉です。
これら2つのデジタル化を、どちらが優れているかとか、どちらが先進的かなどで、比較すべきではありません。どちらも、必要な「デジタル化」です。しかし、目指すべきゴールが違うだけのことです。
ただ、これらを区別することなく、あるいは、両者を曖昧なままに、その取り組みを進めるべきではありません。前者は、既存の改善であり、企業活動の効率を高め、持続的な成長を支えるためのデジタル化です。一方後者は、既存の破壊であり、新たな顧客価値や破壊的競争力を創出するためのデジタル化です。
両者の違いを正しく理解し、適切な戦略や施策を実践しなくてはなりません。
デジタル化と変革
ところで「変革」とは、そもそも何をすることなのでしょう。
例えば、既存の仕事の手順をそのままに、ITを使って自動化すれば、仕事の効率を向上させることができます。これによって、コストの削減や納期の短縮は、実現できるかも知れません。しかし、これまでにはなかった新たな価値を生みだすことはできません。「変革」とは、これまでの仕事の手順、すなわちビジネス・プロセスを再定義し、これまでには無かった魅力的な顧客体験や圧倒的な利便性を生みだし、新しい顧客価値やビジネス・モデルを創出することです。そのことによって、これまでの業界の常識や競争原理を変えてしまうことでもありす。
言葉を換えれば、既存の常識を破壊することです。これまでのビジネス・プロセスやビジネス・モデル、顧客との関係を当然であるとか、それが正しいやり方だと考えるのではなく、デジタル技術の新しい常識や社会環境の変化を前提に、捉え直し、作り替えることを意味しています。
いまのやり方にこだわり、あるいは、引きずられて、現状の改良や改善を繰り返すだけでは、「変革」はできません。デジタルがもたらす新しい常識を前提に、仕事のやり方を根本的に作り変える、あるいは、新しい発想で、ビジネスを捉え直すといった取り組みが、「変革」であると言えるでしょう。
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