デジタルとは何か? 3/4
デジタル・ビジネス、デジタル戦略、デジタル・トランスフォーメーションなど、「デジタル」という言葉を目にしない日はありません。しかし、「デジタル」とはいったい何でしょうか。そもそも、デジタルであることに、どんな価値があるのでしょうか。なぜこれほどまでに、デジタルという言葉が注目されているのでしょうか。
デジタルとは何かをテーマに4回に分けて解説します。今日はその第3回目として、「イノベーションとデジタル」です。
イノベーションとデジタル
イノベーション(innovation)に「新機軸を打ち出す」、「新しい活用法を創造する」という意味が与えられたのは、20世紀前半に活躍した経済学者シュンペーターです。彼は1912年に著した『経済発展の理論』の中で、イノベーションを「新結合」であると説明し、次の5つに分類しています。
- 新しい財貨の生産:プロダクト・イノベーション
- 新しい生産方法の導入:プロセス・イノベーション
- 新しい販売先の開拓:マーケティング・イノベーション
- 新しい仕入先の獲得:サプライチェーン・イノベーション
- 新しい組織の実現:組織のイノベーション
いまの時代を考えれば、「新しい体験の創出:感性のイノベーション」も付け加えたいところです。例えば、iPadやiPhoneのような魅力的なユーザー・インターフェイス(UI)やIoT、モバイルなどのきめ細かなデータの取得によって、ユーザー・エクスペリエンス(UX)が大きく向上し、それが新たな経済的価値を生み出す時代になりました。体験価値が購買行動に大きな影響を与え、新しいライフスタイルを生み出す現象です。そう考えると感性もまたイノベーションのひとつの類型に入れてもいいように思います。
また、「イノベーションは創造的破壊をもたらす」とも語り、その典型として、産業革命期の「鉄道」を取り上げ次のようなたとえで説明しています。
「馬車を何台つなげても汽車にはならない」
つまり、「鉄道」がもたらしたイノベーションとは、馬車の馬力をより強力な蒸気機関に置き換え多数の貨車や客車をつなぐという「新結合」がもたらしたものだというのです。これによって、古い駅馬車による交通網は破壊され新しい鉄道網に置き換わってゆきました。
使われた技術要素のひとつひとつは新しいものではありませんでした。例えば、貨車や客車は馬車から受け継がれたもので、蒸気機関も鉄道が生まれる40年前には発明されていました。つまり、イノベーションとは発明すること(invention)ではなく、これまでになかった新しい「新結合」であるというのです。
しかし、全ての「新結合」が、新しい価値を生みだすわけではありません。試行錯誤を高速に繰り返し現場のフィトーバック直ちに反映して改善を繰り返すことで、イノベーションに巡り会えるのです。
デジタルは、そんな組合せやその組合せの変更を容易に行うことができます。つまりイノベーションを加速する基盤と言えるのです。
これは、ソフトウエアとして実装されるネットのサービスだけではありません。モノづくりにおいても、デジタルはイノベーションを加速します。
製造業における製品開発の手法に、「モデルベース開発:Model-Based Design/MBD」があります。これは、これから作るモノを数値モデル化し、実際にモノを作る前にコンピューター上で実現し、そこで試行錯誤を繰り返して、最適なモノの形状や機能を見つけようというものです。
例えば、自動車の開発であれば、コンピューター上でエンジンを動かすことも、ハンドルを切ることもできます。機構の干渉や性能試験もできます。
実際にモノを作るわけではありませんから、コストは安く手間も時間もかかりません。その結果、高速に試行錯誤を繰り返すことができるようになります。これによって、設計開発のスピードは早まりコストを削減できます。また、イノベーションを加速することにも役立つのです。
*** 明日に続く