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Armを知っている人は手を上げてください

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Armを知っている人は手を上げてください。」

大手、SI事業者の4年次営業職のための「最新のITトレンドとビジネス戦略」研修でこんな質問を投げかけた。残念ながら、30名ほどの受講者がいるのに手を上げる人は皆無だった。コンテナ、サーバーレス、ゼロトラストといった言葉についても尋ねてみたが、手を上げる人は、ほとんどいない。ちなみにこの会社のホームページの事業内容には、「クラウド化支援」や「ネットワーク構築」という言葉が並んでいる。

私は、大人の学びには3つの段階があると考えている。

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まずは、「素人」の段階だ。仕事をどのようにこなせばいいか分からない段階であり、新入社員や3年未満の若手の多くはここに居る。

仕事の現場の8割はルーティンワークだ。企業の収益は、このルーティンワークで基本的なところは確保されている。まずは、これができるようになることだ。これができないと仕事にはならないので、まわりからもプレッシャーがかかる。自分もまずいと思うので、なんとか必死で知識やスキルを身につけようとする。

ルーティンワークができるようになるまでは自分のやっていることを「意識」しなくてはならない。オペレーションのひとつひとつを「このやりかたで間違ってはいないだろうか?」と確かめながら、自分の判断や行動を修正し、うまくゆくやり方を見つけてゆく。その段階が終われば、「無意識」にルーティンワークはこなせるようになる。そうなってはじめて、新しい仕事に関わる意識の余裕が生まれる。

「意識する」とは、自分の「できない」や「未熟」を率直に受け入れ、学ぼうという態度を生みだす。できる人に訊ね、本を読み、情報を収集し、対処の方法を考え、行動に変えてゆく。そうやって、ひとは自分の能力を磨いてゆく。1つのことができるようになれば、もはや意識しなくてもよくなるから、つぎの新しいことを意識する余裕が生まれ、新たな学びの機会を増やしてゆく。

そんな期間を23年も過ごせば、「一人前」として、まわりが認めてくれるようになる。

一通りのルーティンワークをこなせるようになると、その応用も無理なくこなせるようになる。そして、場数を増やしてゆくことで、幅広くいろいろな仕事をこなせるようになる。

ただ、残念なことに、多くの人たちは、基本とその応用の範囲で熟練することに留まっている。「素人」からルーティンワークをこなせる段階、つまり「一人前」の称号が与えられると、これで満足してしまい、その範囲を超えて、新たな学びを意識することをやめてしまう。それでも、給与分の働きができているので、とりあえずは問題にはならない。また、応用も意識することなくこなせるので、仕事の要領もいい。そうやって、ルーティンワークとその応用を確実にこなせるだけの「一人前」のまま歳を重ねてゆく人もいる。

そういう人は、従来からの仕事をしてもらうには重宝であり任せて安心な存在だが、新しいことや例外的なことに対処する能力は乏しく、それを任せることができない。また、新たな学びを怠っているので、古いやり方で何とかこなそうとするので、時にお荷物になってしまう。

「一人前」は、働いた期間が長いほどに会社への貢献は大きいから、それはそれで評価される。しかし、そのことが若い人たちがモノを申せない理由となり、変革を求められると抵抗勢力となってしまうことがある。これがやっかいだ。なぜそうなってしまうかというと、新しいコトに抵抗しなければ、自分のできることがなくなってしまう、自分の存在意義がなくなってしまう、それが怖いし、辛いのだ。

「一人前」の先にあるのが「プロ」の段階だ。

「プロ」の人たちは、例え「一人前」になっても、つねに自分の不足や未熟を見つけ出し、「意識」して学び続ける人たちだ。学び続けることで、世の中の常識や変化を知り、常に自分の不足や未熟を意識しつづけようとしている。

こういう人たちは、会社や自分に対して批判的である。だからといって、評論家然として会社の悪口を言ったりはしない。「プロ」は、批判的に状況を捉え、見つけ出した課題を自分の与えられた職責の範囲で、あるいはそれを拡張して解決しようと試みる。そうやって、企業や組織の改革を推し進めてゆく。例え文句は言っても行動が伴っている。だからそういう文句は人の心を動かす。

また、人のつながりが豊富な人が多い。社内に留まらず、社外に人的なネットワークを広く持っている。こういうつながりが、その人に広い視野を与え、自分を冷静に評価できる目線を与える。それが、不足感や未熟感を常に生みだし学ぶことへのモチベーションを生みだし続けている。そんな他人は自分とは違う常識や知恵を与えてくれる。時にして助けてくれる。それもまたその人の能力として評価される。

「一人前」を自覚した人の中には「自分をもっと成長させたい」、「いまの自分の殻を破り新しいことに挑戦したい」、「自分の可能性を確かめたい」などの想いで転職しようとする人たちがいる。その志は評価に値する。しかし、「一人前」だから他でも通用するだろうと考えるのは甘い。「プロ」としての行動パターンを会得できていない人が職場を変えても、自動的に自分の思いを達成できるわけではない。

他の会社に入れば、まずは「素人」の段階からはじめなくてはならない。もちろん新入社員と違い基本的な仕事の常識はわきまえているので、「一人前」の段階に到達するのにさほど時間はかからないだろう。しかし、そこでもし「仕事ができるようになった」と満足してしまい、新しいことを学ぶことを怠れば、そこでも「一人前」止まりである。

社会やビジネス環境の変化は加速度的だ。過去のやり方があっという間に変わってしまう。だから過去の実績だけで評価されることはない。

  • 激しい業界の変化のメカニズムを理解し将来に対して明確な展望を持っている。
  • 時代の変化に合わせて自らのスキルを変え続けている。
  • 社外に広い人的なネットワークを持っている。

すなわち「未来」への可能性を持っている人こそが評価される。

いまの自分は、どの段階にいるのだろうか。「一人前」に満足して「学び止め」はしていないか。時代の変化は加速度を増している。過去の経験や実績が、いまどれだけ通用するのか。そんなことを問いかけてみてはどうだろう。

問いかけるとは、ただ考えることではない。考えたことを行動に移してみることだ。頭の中で考えているだけで、具体的なアウトプットがなければ、客観的に自分を「見える化」はできないから事実を冷静に評価できない。

フランスの小説家・ポール・ブールジェ (Paul Bourget)は次のような言葉を書き残している。

「自分の考えたとおりに生きなければならない。そうでないと、自分が生きたとおりに考えてしまう」

日々の雑事に流され気がつけばそこにそんな自分がいる。それを自分の人生であると受け入れるしかなくなってしまう。それでいいのだろうか。学び、考え、行動する生き方をしなければ、いくら考えても考えたとおりの生き方などできないということだ。

100年人生の時代を迎え、テクノロジーの進化は過去の常識をどんどんと上書きしている。そんな時代に学び、考え、行動することの大切さは、これまでにも増して高まっている。AIの時代になっても、意志を持ってそんなことができるのは人間ならではのことだ。そういう人が求められ、それが「自分の考えたとおりの生き方」を自分で創ってゆくことになる。

冒頭に紹介した4年次営業の研修の最後に、次のような話をした。

もはや皆さんは一人前です。一通りの仕事がこなせるようになり、忙しい中にも充実感を感じていると思います。しかし、その現実に満足し、学ぶことを辞めてしまったようですね。ITの業界で仕事をしていながら、Armも知らなければ、自分たちの直接の仕事に関わるコンテナ、サーバーレス、ゼロトラストといった言葉さえ知らないのが、その証拠です。それがいまの皆さんの現実です。

新入社員の時の志や貪欲さを思い出してください。何も知らない、このままではマズイという自覚が、学ぶことへの意欲を生みだしていたはずです。

会社の基準で自分を評価しないでください。世の中の基準で自分を見てください。何も知らない、このままではマズイという気持ちを起こさせてくれるはずです。

この研修が、そんなきっかけになってくることを願っています。

【募集開始】第35期 ITソリューション塾

オンライン(ライブと録画)でもご参加いただけます。

ITソリューション塾・第35期(10月7日開講)の募集を開始しました。

新型コロナ・ウイルスは、肺に感染するよりも多くの人の意識に感染し、私たちの考え方や行動を変えつつあります。パンデミックが終息しても、元には戻ることはありません。私たちの日常は大きく変わり、働き方もビジネスも変わってしまうでしょう。これまでの正解は、これからの正解と同じではありません。ならば、事業戦略も求められるスキルも変わらざるを得えません。

本塾では、そんな「これから」のITやビジネスのトレンドを考え、分かりやすく整理してゆこうと思います。

特別講師

この塾では、知識だけではなく実践ノウハウについても学んで頂くために、現場の実践者である下記の特別講師をお招きしています。

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  • アジャイル開発とDevOpsの実践
    • 戦略スタッフ・サービス 代表取締役 戸田孝一郎 氏
  • 日本のIT産業のマーケティングの現状と"近"未来
    • シンフォニーマーケティング 代表取締役 庭山一郎 氏
  • ゼロトラスト・ネットワーク・セキュリティとビジネス戦略
    • 日本マイクロソフト CSO  河野省二

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  • 日程 初回・2020年10月7日(水)~最終回・12月16日(水)
  • 毎週18:30~20:30
  • 回数 全10回+特別補講
  • 定員 100名
  • 会場 オンライン(ライブと録画)および、会場(東京・市ヶ谷)
  • 料金 ¥90,000- (税込み¥99,000)
    • PCやスマホからオンラインでライブ&動画にて、ご参加頂けます。
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詳しくは、こちらをご覧下さい。

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【8月度のコンテンツを更新しました】
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新規プレゼンテーション・パッケージを充実させました!
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>これからのビジネス戦略
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ビジネス戦略編
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【改訂】イノベーションとインベンションの違い p.10
【新規】DXを支えるテクノロジー p.18
【改訂】DXはどんな世界を目指すのか p.19
【新規】「モノのサービス化」の構造 p.46
【改訂】ビジネス価値の比較
【新規】ビジネス価値のシフト p.48
【新規】自動車/移動ビジネスの3つの戦略 p.49
【新規】ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用 p.137
【新規】ナレッジワーカーの本質は創造的な仕事と主体性 p.138
【新規】コンテクスト文化から考えるリモートワーク p.139
【新規】リモートワーク成功の3要件 p.140

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クラウド・コンピューティング編
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