デジタル・トランスフォーメーションとこれからの営業 5/5(最終回)
今週のブログで「営業がいらない時代」になることを解説したが、このブログでは、その背景を「デジタル・トランスフォーメーション」という視点から、5回の連載で掘り下げてみようと思う。その4回目。
【連載】
バイモーダルITの時代がやってくる
多くの企業がAmazonになることはできないが、クラウドの普及やAI活用の利便性が高まれば、「第2フェーズまでのIT」つまり「本業を支援するIT」だけから、「第3フェーズ以降のIT」つまり「本業と一体化するIT」を取り込み、両者が併存することになるだろう。
『キャズム』の著者、Geoffrey A. Mooreは、2011年に出版したホワイト・ペーパー『Systems of Engagement and The Future of Enterprise IT』の中で、「Systems of Engagement(SoE)」という言葉を使っている。彼はこの中でSoEを次のように説明している。
「様々なソーシャル・ウエブが人間や文化に強い影響を及ぼし、人間関係はデジタル化した。」
人間関係がデジタル化した世界で、企業だけがそれと無関係ではいられない。社内にサイロ化して閉じたシステムと、そこに記録されたデータだけでやっていけるわけがない。
ビジネスの成否は「Moment of Engagement(人と人がつながる瞬間)」に関われるかどうかで決まる。
System of Record(SoR)とSystem of Engagement(SoE)
第2フェーズまでの情報システムは、顧客へリーチし、その気にさせる役割はアナログな人間関係が担ってきた。そして顧客が製品やサービスを"買ってから"その手続きを処理し、結果のデータを格納するSystem of Record(SoR)に関心を持ってきた。ERP、SCM、販売管理などのシステムがこれに該当する。
しかし、人間関係がデジタル化すれば、顧客接点もデジタル化する。そうなれば、顧客に製品やサービスを"いかに買ってもらうか"をデジタル化しなくてはならない。System of Engagement(SoE)とは、そのためのシステムであり、その重要性が増していると言うのだ。CRM、マーケティング・オートメーション、オンライン・ショップなどがこれに当たる。
先に紹介したAmazonは、この両者を巧みに組み合わせ、人間の関わりも一体化させること、「即応力」と「破壊力」を手に入れたと言えるだろう。
モード1とモード2
ガートナーは、SoRに相当する情報システムを「モード1」、SoEに相当するものを「モード2」と呼んでいる。そして、それぞれには次のような特徴があると述べている。
モード1:変化が少なく、確実性、安定性を重視する領域のシステム
モード1のシステムは、効率化によるコスト削減を目指す場合が多く、人事や会計、生産管理などの社内ユーザーを前提とした業務が中心となる。そして、次の要件を満たすことが求められる。
- 高品質・安定稼働
- 着実・正確
- 高いコスト/価格
- 手厚いサポート
- 高い満足(安全・安心)
モード2:開発・改善のスピードや「使いやすさ」などを重視するシステム
モード2は、差別化による競争力強化と収益の拡大を目指す場合が多く、ITと一体化したデジタル・ビジネスや顧客とのコミュニケーションが必要なサービスが中心となる。そして、次の要件を満たすことが求められる。
- そこそこ(Good Enough)
- 速い・俊敏
- 低いコスト/価格
- 便利で迅速なサポート
- 高い満足(わかりやすい、できる、楽しい)
2つのモードの違いを理解して取り組むことの必要性
この両者は併存し、お互いに連携することになるので、どちらか一方だけがあればいいということにはならない。その際に注意すべきは、従来のモード1のやり方が、モード2ではそのまま通用しないことだ。
モード1では「現場の要求は中長期的に変わらない」ことを前提に要求仕様を固めるので、仕様を凍結した後はビジネスの現場と開発を一旦切り離して作業を進めても、時間の経過にともなう要求仕様の変化が比較的少ないという特性がある。そのため、業務要件を確実に固め、要求仕様通りシステムを開発するというやり方でも対応できる。
一方、モード2では、移ろいやすい顧客の志向やビジネス環境の不確実性にともなう変化に対応できなくてはならない。そのため、事前に要件を完全に固めることはできず、開発の過程でも現場のフィードバックをうけながら、ニーズの変化に臨機応変に対応して、新たな開発や仕様の変更を受け入れなくてはならない。
デジタルな人間関係が大きな比重を占めるようになったことで、SoE/モード2で顧客にリーチし購買に結びつけ、SoR/モード1で購買手続きを迅速、正確に処理しデータを記憶するといった連係が重要になってくる。もはや、企業の情報システムはSoR/モード1だけでは成り立たず、SoE/モード2への取り組みを合わせて進めなくてはならない。ただ、両者は、その特性の違いから、開発や運用の思想が違い、手法やツールも違う。この違いを理解して、両者を組み合わせて使いこなす必要がある。
ガートナーはこの組合せを「バイモーダルIT」と呼んでいる。しかし、両者は、往々にしてそこに関わる人たちの思想や文化が違うことで、対立が起きやすい。だからこそ双方に敬意を払いつつ、お互いの取り組みを尊重し、それぞれの違いを受け入れて、協調・連係する努力が必要となる。
理想論を突き詰めれば、Amazonのような第3フェーズを実現することも知れないが、現実はなかなか難しい。しかし、ITを競争優位の源泉と考える企業は確実に増えてゆくだろうし、そのための取り組みも拡大してゆくはずだ。そうなれば、両者を組合せ使いこなしてゆくバイモーダルITが、これからのトレンドとなるだろう。
(連載・完)
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【新規】機械学習の仕組み/学習が十分な状態 p.57
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