デジタル・トランスフォーメーションとこれからの営業 3/5
今週のブログで「営業がいらない時代」になることを解説したが、このブログでは、その背景を「デジタル・トランスフォーメーション」という視点から、5回の連載で掘り下げてみようと思う。その2回目。
【連載】
デジタル・トランスフォーメーションによってもたらされる2つの力
デジタル・トランスフォーメーションによって、ビジネスは2つの新しい価値を手に入れる。
- 不確実性が増大し、スピードが加速するビジネス環境に対応するために、製品やサービスをジャスト・イン・タイムで現場に提供できる「即応力」
- これまでの常識や価値基準を劇的に転換し、圧倒的な競争優位を手に入れるために、生産性・価格・期間などの常識を覆す「破壊力」
「即応力」を手に入れるためには、ビジネスに関わる事実をリアルタイムでデータとして捉え、それを「見える化」し、迅速な意志決定ができなくてはならない。そして、必要であれば直ちに業務プロセスを実現している情報システムを手直しし、あるいは機器を制御し、対処できなくてはならない。このようにして、ビジネスの最前線で必要とされるサービスをジャスト・インタイムで提供できる仕組みを持つことができる。
「破壊力」を手に入れるためには、ビジネスの価値基準を転換することができなくてはならない。「価値基準を転換する」とは、いままでの常識を、新しい常識に上書きし、人々の心に植え付けてしまうことだ。
例えば、いままで1万円が相場だった金額を1千円で提供でるようにすることや、1週間が常識だった納期を翌日にしてしまうようなことだ。そんな新しい常識を実現し定着させてしまえば、もはや後戻りはできない。これによって、いままでの常識を覆す「破壊的(Disruptive)」な競争力を手に入れることができる。
このような2つの力を兼ね備えた企業は限られているが、そこに最も近い企業は、Amazonではないだろうか。
Amazonは、企業理念として、「最高の顧客体験」を掲げている。例えば、Amazonの商品ページには「1-ClickTMで今すぐ買う」というボタン(ワンクリック・ボタン)がある。このボタンを押すと、住所やクレジットカードの入力、確認画面に移って確認ボタンを押すこともなく、即座に注文が成立する。しかもプライム会員であれば送料はかからない。この便利さに、つい余計なものまで買ってしまう人もいるはずだ。そして、この便利さ故に、同じものを買うのならAmazonを使う人も多いだろう。この仕組みはAmazonの特許であり、他の会社が同様の仕掛けを組み込むことはできない。また、そんな会員の注文履歴を機械学習で分析し、次に何を買うかを予測して、配達先のそばの倉庫に予め置いておくことで、他社にはまねできない短納期を実現している。
また、ダッシュボタンという、ネット・ショップにあるワンクリック・ボタンを物理的なボタンに置き換えたものがある。そのボタンを指で押すだけで即座に商品が注文できてしまう。例えば、カミソリの刃やマウスウォッシュ、洗剤などのドラッグストア商品、シリアルやミネラルウォーターなどの食品・飲料、ほかにも美容関連、ペット関連、ベビー関連の商品など、頻繁にリピートする商品のダッシュボタンが用意されている。それを冷蔵庫や洗濯機に貼り付けておけば、商品が少なくなったり、なくなったりしたら、その場でボタンを押すだけで、最短で当日には自宅に届く仕組みになっている。
Amazon Echoと呼ばれるマイクロホン付きスピーカーがある。これに話しかけるだけで、キーボードでの入力やスマホで画面を操作しなくても音声の指示だけで様々なサービスを実行してくれる。もちろん商品の注文もできる。また、Kindleという少し大きなスマートフォン程度のデバイスを使えば、重たい紙の書籍を持ち歩かなくても、どこでも即座に読みたい本を手に入れて読むことができる。
さらにネットのサービスばかりではなく、リアルな世界にも進出をはじめた。その手始めとして2017年にシアトルにレジ無しのコンビニAmazon Goを開店させた。ここでは、商品を手に取り、自分の鞄やポケットに入れて店を出れば決済は終了する。支払いのために混雑したレジに並ぶ必要はない。Amazonは2021年までに、全米で3000店舗を展開する計画を持っているようだ。
これら以外にも「最高の顧客体験」を実現すべく、デジタル・テクノロジーを駆使して圧倒的な利便性を実現し、他社にまねのできない新しい価値基準をお客様に提供しつづけている。もはやお客様は、その利便性ゆえにAmazonの様々なサービスを使い続けてしまう。
こうして、ネットにもリアルにも顧客接点を拡げれば、膨大な顧客の行動データが集まってくる。これを機械学習で分析して、商品の品揃えを最適化し、適切なタイミングで買ってくれそうな商品を推奨し、注文が入れば即日配送する。こんな仕組みを支えるために、徹底して自動化された百数十ヶ所の倉庫、40機の航空機と数千台のトラックを所有している。
このようにして、Amazonは、「最高の顧客体験」を追求したサービスを拡充し、顧客接点を拡げ、多様で膨大な顧客データを収集し、それを活かして「最高の顧客体験」に磨きをかけるという、他社には容易にまねのできない好循環を生みだしている。
こうやってAmazonは、「業務がITへ、ITが業務へとシームレスに変換される状態」、すなわちデジタル・トランスフォーメーションの第3フェーズを実現し、圧倒的な「即応力」と「破壊力」を実現している。
*** 明日に続く
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【新規】スキルの再定義 p.18
【新規】学び続ける大切さ、それを支える学びの力 p.19
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サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】人工知能の2つの方向性 p.10
【新規】「人工知能」と言われるものの4つのレベル p.12
【新規】各時代のAI(人工知能)と呼ばれるもの p.13
【新規】機械学習がやっていること 1/2 p.14
【新規】機械学習がやっていること 2/2 p.15
【新規】ルールを作るとはどういうことか p.16
【新規】機械学習でできる3つのこと p.17
【更新】AIと人間の役割 p.18
【新規】機械学習の仕組み/学習が不十分な状態 p.56
【新規】機械学習の仕組み/学習が十分な状態 p.57
【新規】ニューラル・ネットワークの仕組み p.65
【新規】どんな計算をしているのか p.66
【新規】A12 Bionic p.150
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【更新】仮想化の役割 1/2 p.61
【更新】仮想化の役割 2/2 p.62
【更新】Infrastructure as Code p.79
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