研修効果を左右する「オリエンテーション」
人材育成や教育に携わる人とご一緒に「参加者に喜ばれる研修を提供したい」。
そんな思いから、「使える研修を企画・運営するためのアプローチ」について紹介する第4回目。今回は、「研修効果を左右する「オリエンテーション」です。
研修冒頭に数分で行われるガイダンスを「オリエンテーション」と言います。
この「オリエンテーション」を日頃、どのような形で運営されているでしょうか。
一般的に多いのは、
・研修会場内での過ごし方のルール
(施設の説明、休憩時間の案内、PCや携帯のマナーなど)や事務連絡
・研修テーマ、目的の確認
・講師紹介
です。
そして講師にバトンタッチし、改めて講師からもオリエンテーションを行い、参加者同士で自己紹介をして場が徐々にあたたまるような形で研修は進んでいきます。
しかし時折、「呼ばれたから来た」という感覚で集まっていた参加者であったとしても、表情がグッと引き締まり、研修冒頭から講師に対しオープンマインドでスタートすることがあります。
参加者が惹きつけられるのはなぜ?
徐々に場があたたまる時と、研修冒頭から集中力高くスタートできる時と、いったい何が違うのだろう。その点を観察してみると、後者の場合、いくつか共通していることがありました。
その違いを生み出している共通点。私が観察したところでは・・・
それは、講師にバトンタッチする前の、経営トップあるいは人材育成部門(または、研修を企画した部門の)責任者のスピーチ(多くの場合、5~10分程度)にありました。
そのスピーチ内容を具体的にしてみると、次のような構成です。
①日頃の労い(対象者の貢献を伝える)
②組織の状況(中期経営計画の進捗、現状の課題、トピックス)
③対象者への期待
④研修への思い
(ご自身の経験から研修を通じて得たこと、内容への期待、講師への信頼、
期待する成果など。そのときの対象に合わせた視点で)
⑤忙しい時間をとって参加することへの感謝
このようなメッセージの後は、もうこのご挨拶で終わっても十分なぐらいの雰囲気になり、斜に構えていた人も、顔を上げ前を向くなど、姿勢が変わります。
参加者の態度が変化する理由
それでは一体なぜこのような変化が起こるのでしょうか。
人材育成に携わる人にとってはバイブル的な書籍、エドワード・L・ガブマン著 ヒューイット・アソシエイツ監訳 畑佳子訳『人材戦略』東洋経済新報社刊(1999年)の序章に、上記のアプローチが効果的である理由と考えられる記述があるので、一部引用します。
事業を長期的な成功に導くためには、うまくいっていると従業員に感じさせなければならない。
人材を効果的にマネージしようと思えば、まず、その点を理解しておく必要がある。
従業員を事業と切り離して論じることはできない。それどころか、彼らこそ事業そのものなのだ。
(中略)
長年にわたるコンサルティング経験の中で、これまでに何度か従業員の意識調査を行ったことがある。大半とまではいわなくとも、多くの場合、従業員のあげた一番の問題はいつも同じで
「コミュニケーション」だった。
事実、あまりにも頻繁に耳にするため、そもそも何の調査なのか分からなくなることもあるほどだ。
意識調査はその結果を細かく分析してみると、効果的だ。
その結果、従業員が次の4つを知りたがっていることが明らかだった。
1.会社全体は何をめざしているのか?
2.そのために今何をしているのか?
3.自分はどんな役に立てるのか?
4.そうすれば自分にはどんな見返りがあるのか?
以上が従業員の抱える、コミュニケーションに関する4大ニーズである。
ご紹介したアプローチと引用文を照らし合わせると、参加者の変化が起こるときは、従業員側のニーズが満たされてるときといえそうです。
「オリエンテーション」の語源が教えてくれること
少し角度を変えて、「オリエンテーション」の意味を調べてみると、
1(新しい環境・考え方などに対する)適応、順応
(新入生、新入社員などに対する)オリエンテーション、方向づけ
2態度(の決定)、志向
3(方位)を合わせること
教会堂を東向きに立てること
4【心理】方向定位、指南力、見当識(自己と時間的・空間的・対人的な関係の認識)
5【動物学】(ハトなどの)帰巣本能
英和辞典・和英辞典weblioより引用
とあります。
さらに、「オリエンテーション」の語源にさかのぼってみると、「オリエント」は「東」という意味があり、そこから「方向」という意味づけがなされているようです。
また、「東」は「日が昇る」方向であることから「陽がさしこむ」という意味合いも含むようです。
ということは、オリエンテーションでやらなければならないこと。
それは、参加者に「陽がさしこむ」ような気持ちになってもらうこと、と、解釈できるのではないでしょうか。
そしてこれは、社内の一定のポジションがある方に担っていただくからこそ、効果があると思います。
数分間の「オリエンテーション」も考え方と取り組み次第で色々な可能性がありそうです。
次回は「研修の構成上のポイント」についてです。
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