人前で話すのが苦手な人の伝え方
企業内の人材育成の仕事に携わるようになって20年。今でこそ講師をお任せいただけるようになりましたが、実は私は、30代後半まで極度の上がり症で「講師の仕事は無理だ」と思っていました。「講師は無理」と思っていた私が、なぜ、講師ができるようになったか。今回は、人前で話すことに苦手意識を持っている方に向けて、私の経験をお伝えします。
どんどん悪化する一方の上がり症
自分が上がり症であることを自覚したのは、いつ頃だったか?たぶん、学生時代だったと思います。人前に出ると、手足が震え、その状態を自覚すると、顔が引きつり声も上ずり、最終的には何を話しているのかわからない。そんな状態でした。
そして、そのまま社会人になり、営業の仕事に携わります。一般的に営業は「人前で話すのが得意」と思われていますが、いえいえ、営業は「お話をお聞きする」のが仕事なので、自分が話す必要はないのです。まして、人材育成ビジネスにおける営業職は「聞き役」。コンサルタントが「話す役」を担っているので、ますます話す必要はなくなります。
このような背景もあり、私は基本的に「話す必要がない」まま、30代半ばをこえていました。今思うと、30代半ばまで、訓練の機会を逸してきたということです。一方で、営業ができ、人材育成会社で働いているとなれば「人前で話せないわけがない」という世間的な見方もあります。「上がり症で、話せない(本当の自分)」と「人前で話すのはお手のものでしょうと見る(世間的な見方)」のギャップは、広がる一方でした。
しかし、30代半ば過ぎ、転機が訪れます。起業です。起業すると、会社のPRは自分でしなければならなくなります。これが、本当につらかった。経営者が集まる交流会などに参加すると、必ずやってくるのが「会社紹介」の時間。
順番がまわってくるまで「上がったらどうしよう・・・、どうしよう・・・、どうしよう・・・」こんな状態で、まともなPRができるわけがありません。しどろもどろ・・・。
こんな状態でも、経営者の皆様は心温かく迎えてくださいますが、回を重ねるごとに自己嫌悪度は増していき、会に出ることすら苦痛になっていきました。
30代後半まで、こんな状態が続きました。
「人前で話す」ことに希望をもつ
しかし、「自分も話せるようになるかも」という希望を持つ、きっかけになる出来事がありました。
それは、オルタナティブ・ブログでも活躍中のアイデアクラフト 開米瑞浩氏から講師を紹介されたのです。その人は、水野浩志さん(以下、水野講師)。当時、水野講師はプロとして活躍するコンサルタントや士業の人たちを対象に「カリキュラム構築アドバイザー」として、研修構築法セミナーの開催やコンサルティングをしていました。
プロのコンサルタントにアドバイスをするとは、かなり大胆不敵な感じですが、一流コンサルタントからの評価も高く、また、ご本人の人柄もあり、研修構築法のセミナーは高額にもかかわらず大好評。
いったい、プロの人たちは、何を求めてセミナーに参加していたのか?
研修構築法セミナーのポイントは「研修参加者が、研修参加後に行動を起こしたくなるカリキュラムづくり」というのが特徴です。プロは「知識を教える」ことは得意でも、「その知識が職場で活用されない」ことに課題を感じセミナーに参加していたのでした。
その後、ご縁があって、水野講師とビジネスをご一緒するようになっていたので、私はこのセミナーに「事務局」として立ち会うようになりました。そして「事務局」として立ち会う中で、「人前で話す」ということに対する自分の思い込みに気づき、そこから、「話せるかも」という希望がもてるようになっていきます。
「人前で話す」ことへの誤解
私は、20代半ばから人材育成の仕事に携わっています。そのため、多くのプロ講師に接してきました。実は、これが私の「上がり症」を悪化させる要因だったのです。
その理由は、プロの講師を見れば見るほど、
・自分は堂々と話せない
・自分には知識がない
・自分には・・・
と、講師と自分を比較して、自分が「できない」ことに意識を向け、人前で話すことを避けるようになっていました。
しかし、プロ講師向けのセミナーで、水野講師が伝えていたこと。それは、
・自分が、一番伝えたいことは何か?
・それは、なぜか?
・それを伝えるための、あなたが経験したことは何か?
ということでした。
私は、それまで、講師を育成するための「インストラクター養成講座」などにも携わっていましたが、「自分が、一番伝えたいこと」をベースに話を組み立てるという手法を聞いたことはありませんでした。
一般的な「インストラクター養成講座」は、たとえば、マナー研修などの講師であれば、
・講師としての心構え
・講師としての立ち居振る舞い
・講師としての話し方(発声、言葉づかい、アイコンタクトなど)
・講師としてのインストラクションスキル(指導法、板書技術など)
という流れです。ですので、そこに「自分」が入る余地はありません。
しかし、水野講師は、「自分が何を伝えたいのか」という、その「想い」をベースに、参加者が理解し手ごたえを感じられるようにプログラムを組み立てることが大事である、と言ったのです。これは、目から鱗でした。
この話を聞いた後、今までご一緒した講師のことを振り返ってみたり、一緒に仕事をしている講師を観察してみました。すると、確かに、「また、あの講師にお願いしたい」とお客様から指名される講師は、「自分が伝えたいこと」をしっかり持って話をしているのです。
このような出来事をきっかけに、「話す」ということについて考えていく中で、「上がる」理由もわかりました。それは、「うまく話さなければならない」という思い込みが強く、そこに意識が向いていたのです。しかし、私が大事だと思うことを、私の経験から伝えること。これであればできそうな気がしてきました。そして、そこから「講師にチャレンジしよう」と思うようになったのです。
「上がり症」は、すぐには改善しませんでしたが、「自分が伝えたい」という想いがあると、気にならなくなりました。また、話し上手になるには「場数」とよく言われますが、本当に訓練次第だと、身をもって体験しました。しかし、その訓練に耐えるメンタルは、自分の想いの強さに左右されます。このようなことからも「自分が伝えたいこと」の有無は、大事であると感じています。
「いい話」と「伝わる話」
以上の経験を通じて思うこと。それは、「人前で話すのが苦手」な人ほど、「伝わる話」ができるのではないかということです。というのは、「人前で話すのが苦手」な人が、その苦手な気持ちを乗り越えてでも「何かを伝えよう」とするならば、その気持ちは人の心を動かせると思うからです。「いい話」は「へぇ!」という関心を持たせることはできますが、「伝わる」というのは、心が動いてこそ。心を動かすためには、言葉以上の何かが必要です。
そして、「伝えるべき何か」は、それぞれの経験の中に必ずあります。特に、技術系の若手社員の人たちからは、「上司や先輩がすご過ぎて、自信を失くす」という話をよく聞きます。もし彼らに、自分たちもみんなと一緒で、こんな風に取り組んできた、こういう風に取り組めば大丈夫だ、といってもらえればどれだけ心強いことか。
これから秋に向け、新入社員のフォローアップや、若手社員のステップアップなどの研修を企画される時期。先輩や講師の経験談などを組み入れ、勇気づけてみてはいかがでしょうか?また、職場やミーティングなどで、自分の経験を伝えていただくのもとても効果的だと思います。
もし、「人前で話すのは苦手」とお感じになっていたら、「チャンス!」と思い、部下や後輩が悩んだり困ったりしていることがないか、その悩みなどを乗り越えた経験がないか探してみてください。その話を、メンバーが待っているかもしれません。
それと、以下はPRです。本文でもご紹介した水野浩志講師の
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