「変革」が進まない、ちょっとした理由
多くの組織が取り組む「組織変革」。そのテーマは新商品・サービス開発や業務改善プロジェクト、組織構造改革など多岐にわたります。取り組みの背景には、「このままではいけない」、「次の世代につなぐために」と、さまざまな問題意識があるようです。
さて、そうした「組織変革」ですが、経営者や取り組みを主導する方にお聞きすると「なかなか思うようにはいかないですね」といった声をお聞きすることがほとんど。理由は「トップの意向がなかなか浸透しなくて」、「今までの習慣をなかなか変えるのが難しい」などなど、難しげな答えが返ってきます。
しかし、もし、見方を変えることで、変革のスピードが上がるとしたら?
今回は、どのようなことについて見方を変えるか、私が経験し気づいたことをお伝えします。
「プロジェクトが進まない・・・」
以前のこと、「チームビルディング」研修ができないかというご相談をいただきました。そこで、対応できるコンサルタントとともにお話を伺うことに。
研修は、既にスタートしているプロジェクト(以下PJ)のメンバーを対象に行いたいとのこと。PJの責任者によると、そのPJは「大型事業所」のPJであること。PJには、施工主である「お客様」、設計にあたる「設計事務所」、建設を請け負う「自社」の3社がかかわっており、その連携がうまく取れず進行が遅れ、その状況を打破するために研修を実施したいとのお話です。
しかし、進行が遅れている背景には「設計事務所」の設計担当者の個性が強く、話が前に進まないことや、また、「お客様」内のPJメンバーに当事者意識が感じられないなど、なかなか複雑な様子。
複雑な状況ではあるものの「今回は大型事業所になるので、社長も非常に力を入れているPJなんです。何とか前に進めていかないと。期待に応えて差し上げたいんです」というPJ責任者の気持ちをお聞きし、コンサルタントは、「なかなかセンシティブな案件ですが、やれるだけのことはやってみましょう」と、本件をお引き受けすることになりました。
といっても、忙しいPJメンバーを集め、研修を実施できるのは最大で2日。お客様先を含む取り組みとなるため配慮すべきことも多く、かなり細かな点まで準備し備えました。
そして、研修当日。
さすがに、社長が力を入れているPJということで、「お客様先」のメンバー、「設計事務所」チーム、「自社」メンバー、どの方も見るからに優秀な雰囲気を漂わせています。個人的には、「この人たちでできないことは、ないだろうな・・・」と感じるほど。一方で、PJが遅れていることもまた事実。
研修後、PJが計画に乗って進んでいくよう、この場の成功を祈りながら立ち会っていました。
そんな状況の中でスタートした研修。研修は順調に進んでいきました。
優秀な人が抱えているもの
しかし、1日目の夕食の頃になっても、いま一つメンバーの熱意や一体感のようなものが感じられません。食事中の会話も、コミュニケーションが表面的(他愛もない話)に感じられます。このタイミングでは、もっと今後に向けた熱意のようなものが感じられてもいい頃。
私は、冷めた雰囲気の理由をつかまないと・・・と、思い、「お客様先」のメンバーの一人(仮称Zさん)と話をしてみることにしました。
私:「新しい事業所、いいですね。Zさんは、どんな職場にしたいですか?」
Z:「・・・」
私:「あれ、どうされました?」
Z:「いや、実は私は事業所の移転が、ちょっと・・・」
私:「・・・というと・・・」
Z:「地域で色々な取り組みをしておりまして、そのリーダーを任されているんですよ。事業所が移転すると、通勤圏外になるので地域の活動ができない状況になりまして。自分が旗振り役となっているものですから、少々気が重くて」
私:「そんなご事情があるとは」
Z:「ありがとうございます。それと、新しい事業所の設計内容が、私たちの意見が考慮されていなくって。社長がその設計事務所を気に入っているものですから、なかなか言い出しにくくて・・・」
私:「そういうことも、あるんですね。それは、言い出しにくいですね」
Z:「社長が楽しみにされている件なので、その気持ちを思うと、複雑で・・・」
私:「確かに・・・」
Z:「私以外のメンバーの中にも、事情は異なりますが、いろいろと感じているようで・・・」
といった話を夜のセッションの前にお聞きし、「こういうこともあるんだ・・・」と感じたのでした。
そのことをコンサルタントに伝えると、「それは、大事なことだ」と言い、その後、お互いの事情が伝えやすい雰囲気になるよう、より工夫しながら運営を進めました。
その結果、2日目の研修の最後の頃には今後の方向性と、「やっていこう」という気持ちをお持ちいただけたようで、ご相談いただいた責任者には、とても喜んでいただくことができました。また、その後PJは無事に進行し、素晴らしい事業所ができたと言うお話も伺いました。
気遣いと本音
この経験をきっかけに、組織で働く人たちの多くは、周囲への気遣いやその後の影響を考えるため、自分の気持ちを想像以上に言わないものであること。一方で、本音は、誰かに自分の気持ちをわかってほしいと思っていること。その本音をうまく引き出す工夫が必要であることを理解しました。
そこで、休憩時間や食事のときなどに、何気ない話をきっかけに話を聞いてみると、意外とみなさん、社外の人間には本音を言うものですね。「不安」、「不都合」、「負担」など、いろいろなものを抱えています。一方で、それぞれが言葉にする内容は、個々の事情により異なり、また、そのレベルも違います。組織から見れば「ちょっとしたこと」と思えます。しかし、そのちょっとしたことを積み重ねていくと、大きな重石になり物事は停滞します。
本音を言える関係を、リーダーとしていかに築くか?
それでは、社内の人が、本音を知りたいと思ったとき、どのようにアプローチすればよいでしょうか?
そのヒントとして、先日開催されたヒューマンキャピタル2015で紹介された、新幹線の清掃会社「JR東日本テクノハートTESSEI」のケースをご紹介します。
「TESSEI」は、現在、ハーバード経営大学院でもケーススタディとして取り上げられ、次期(2015年9月以降)は、必修科目になるほど注目されているそうです。
今では多くの注目を集める「TESSEI」ですが、10年前は、社員が「働いていることを人に言えない」と言い、上からの指示と、お客様からのクレームに押しつぶされながら働いていたそうです。
その組織を変えることに貢献したのが、同社で、前おもてなし創造部長として活躍した矢部輝夫氏。
矢部氏の講演に感銘を受けた私は、講演で紹介のあった『リーダーは夢を語りなさい 新幹線清掃会社「TESSEIの奇跡」が起きるまで』(PHP刊)をすぐに買いに行きました。そして、書籍で、矢部氏がスタッフの「つぶやき」を大事にされていた事例をみつけ、そこに大きく共感しました。その部分をご紹介します。
「矢部さんね、派手な人って目につきやすいでしょ?でもね、派手なことは言わないけど、地道にコツコツやっている人がうちにはいっぱいいるのよ。そういう人をちゃんと見てね」
別のスタッフはこうつぶやきます。
「矢部さんね、私たち忙しいでしょ?お年寄りのお客様が困っておられて、ご案内するけど、そのあとどうなったか心配なの。なんとかしてあげたいんだけど、時間がないからそれも無理。そういうのをうまくできないかしら?」(引用了 P110)
矢部氏は、このような言動から、スタッフの細やかな気配りや、お互いを思いやる関係性などを汲み取り、「TESSEI」の可能性を感じ、方向性を決め、組織を変えるきっかけを作っていったそうです。
ここで大事なことは、このような「つぶやき」から可能性を感じること。そして、それをどう生かすか?と考え行動する、リーダーとしての姿勢ではないでしょうか?
ちょっとした話にしっかり耳を傾け、組織運営に生かそうとするか、
ちょっとした話を聞いても「なぜ、上の指示を優先して取り組まないのか」と考えるか、
私たちの職場は、「やらなければならないこと」に溢れ、一人ひとりの「ちょっとしたこと」を気にかける余裕がないのも現実です。しかし、本当にやらなければならないのは、組織のビジョンを達成していくこと。
そのビジョン達成の過程で、犠牲者が増えるのか、あるいは、同志が増えるのか。そう考えると、ちょっと怖いですね。
ご紹介した『リーダーは夢を語りなさい』は、矢部氏のJR時代の体験談なども多く紹介されているので、取り組みポイントがよくわかり、リーダーの方にとてもお勧めです!夏休みに読む図書に加えてはいかがでしょうか。
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