大前研一「お金の流れが変わった」は、日本への処方箋を含む良書
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中国のGDPが日本を抜くのが確実になったとか、米中首脳会談の結果などが取り沙汰されているこの頃ですが、その辺の世界観にある背景をおさらいするとともに、日本復活のためにできることとして、少しだけ新しいアイデアを得られるのが本書。
タイトルだけ見ると、証券市場とか為替レートの話など金融市場に特化した話と誤解しそうになるが、中身は途上国への投資マネーの変化などマクロ経済と現場のビジネスをつないでくれるレベルの話が豊富。
「BRICsからVITAMINへ」などの提言は、ちょうど「中国とインドに続くねらい目はどこか?」で分析した話を裏付けられた感じ。
最後の章に書かれている処方箋のひとつとして、鉄道や原子力のパッケージ売りのような「既によく聞く話」も出てくるが、これも新しいネタとして以下のような深堀りがあるのが、大前研一流というところでしょう。
例を挙げると
- 「鉄道は儲からない」という定説を覆した最強の日本企業がJR東日本。SUICA、お財布ケータイのネットビジネスに加えて、駅ビルや駅ナカのテナントビジネスまで含めてパッケージ売りするべき。(逆にここまでやらないで、単純に「線路敷設、車両、運行管理」まででは、日本の強みを活かすビジネスモデルになっていないと暗に示唆しているような感じ)
- 私鉄による鉄道敷設+郊外不動産開発+商業施設による住民誘致で、都心のスラム化を防いだのも日本の強み。このノウハウも輸出可能だが、これが可能だったのは、戦後のドサクサで各種許認可がOne Stop Shopping 化されていたから。新興国においても、この種の許認可一元化が重要
- 原子力の技術者は、(意思決定が遅く撤退が遅れたため)日本が潤沢。海外企業の買収やアライアンスなども含めて、これを国策として輸出産業にするために、日本自身がもっと原子力を使うべき。燃料再処理なども自前でできるようにするべき。
などなど。
さすが、一流コンサルタントとして常に実行できそうな提言が記述されており、「日本もまだまだ捨てたものではない」と元気が出てくるのがなぜか不思議。
中国の強みとしても、政治的には一党独裁であるために、土地の収用など「いざとなったら国がQuickDecisionで無茶できるから」という話が述べられている。
日本で同じようなことをやろうとすると、国というよりは基礎自治体レベルで「スーパーマン的な市長」が登場し、これに呼応して地元住民が既得権を投げ出して賛同するような成功例でも出てこないといけないのだろうという気がする。
そういう意味で、名古屋市のトリプル選挙(2011/02/06)の動向には個人的に注目したい。
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