英語が公用語化した会社の中での生き残り術
ユニクロや楽天が、「会社のグローバル化のために、社内公用語を英語にする」と発表してから、さまざまな報道や2次取材の記事が発表され、しばらくの時間が経過した。
「英語ができなければ役員はクビ」などというセンセーショナルなメッセージが取り上げられ、「カルチャー変革のためのショック療法的な意味もあるだるう」と思いながら報道される記事を見ていたが、一般社員に対する記述はあまりなかったように感じる。
では、実際に、会社の中で日本人と非・日本人が入り乱れると何が起こるのだろうか。
すべてを英語だけに統一することで、会議メンバー10人のうち、9名が日本人(しかも外国語は不慣れ)という状況でも、無理やりつたない英語で会議することにより、生産性は失われないのだろうか?
少なくとも、思考スピードにおいてネイティブな言語に勝るものはない。
私自身は関西の出身であるが、大学生となって上京した際に、「数学の証明問題や小論文で構成を考えるときに、outputは東京弁の標準語だけれども、思考プロセスは関西弁である」と話して、東京育ちの友人に笑われたことがあった。しかし事実として、当時の私は、「関数F(t)に、t=ax+bを代入するやろ。ほな、その後な、式の展開がこんなになってな。。」などと、頭の中では間違いなく関西弁で思考していたのである。
これが、日本語と英語の壁になれば、間違いなく大多数の日本人一般社員の思考回路は日本語で動くはずであろう。語学の優秀な人に対しては、「日本語で英作文せずに、最初から英語で考えましょう」ということになるのだが。。
そこで、現実的な対応策だが、グローバル企業としてのIBM社内で今でも実践していることや、10年ほど前にオリンピック関連のプロジェクトで、アジア・オーストラリアの多国籍チームを率いていた経験から、幾つかコメントしたいことがある。
英語の公用語化
≒英語と日本語(現地語)のチャンポン推進
≠日本語(現地語)の廃止
ということである。
私自身が見聞きしたり実践しているノウハウは以下である。幾つかでもお役に立てば幸いである。
ノウハウ その1) 言語別(≒人種別)に別メールを送信しない。
たとえば、社長メッセージのような1通のメールにおいても、同じ文書の中で、1)英語、2)日本語、3)現地語 などのように複数の言語で同じ内容を記述した文書を送付することが増える。
これがもし、「日本人には日本語メール」「外国人には英語メール」と別々の文書でメッセージ配信するとどうなるであろうか?「うちの管理職は、日本人と外国人を区別している。別メールを送付するには、伝えるべき情報を切り捨てたり、何か違いがあるに違いない」と、いらぬ疑心暗鬼を呼んでしまう。
一方、英語のメッセージしか配信しないと、やはり「これ、何の指示がわからない」となって、日本人スタッフの日常業務のオペレーションに支障をきたしてしまうのである。
そこで、手間暇はかかるが、「誰が見ても平等に同じ情報伝達をしている」というスタンスを保つべく、同じ文書内で各国言語でのメッセージを盛り込むことになる。
実は、これがITツールの選択にも大きな影響を及ぼしていた。
古巣の話であるが、メールソフトでLotusNotes/Dominoが古くからグローバル企業で好まれている大きな理由の一つが、ここにあったのである。
参考:「すぐわかるNotes/Domino」パンフレットより
(クリックで拡大)
ノウハウ その2): 電話会議も同時進行のチャットで内容を確認。「話し言葉」よりも「書き言葉」重視。とにかく記録に残す。
英会話(とくにヒアリング)が得意でない筆者としては、英語での電話会議の最中に、気心の知れた出席者に、「今の話って、こういう意味?」という確認チャットを送りつけていた。
今風に言えば、社内会議に出席しながら同時進行で特定の相手に、返事を期待して「つぶやいて」いたようなものだ。
一般に、「聞く・話す」よりは「読み・書き」が得意な私の世代にとっては、チャットほど心強いものはなかった。(大学入試の英語にヒアリングが加わった今の世代は、こういう苦労はないのかも知れないが。。) チャットのおかげで、苦手な電話会議の「話し言葉」が「書き言葉」になるだけでなく、「記録に残し、簡単に何度も再チェックする」ということもできるようになった。
この経験がキッカケで、日本人同士で日本語の会議においても、「チャットをリアルタイム根回しに使う」という新たなアイデアも実践するようになった。
今であれば、携帯電話に付属のVoiceRecorder機能を駆使して、英語の会議は必ず録音しておき、「何が話されていたのか後で確認できるようにする」という、振る舞いも可能であろう。
留学中の同級生には、すべての講義を毎回VoiceRecorderに録音している強者もいた。
皆、それなりの努力はしているものである。
ノウハウ その3): 社内会議のプレゼン資料作成時に日本語と英語をチャンポンにし、単語だけは英語で記述する
プレゼン資料については、最後にお客様に見せるときには、「お客様は日本人なのだから、日本語に揃えなさい」ということを厳しく言われるし、そのとおりだと思う。
しかし、社内資料については、「最後にどう使われるかわからないし、ページ単位でバラバラに多様な局面でグローバルの他地域に再利用される」ということを考えると、まずは、ページ単位で最低限の理解が進むようにチャンポンにしてしまうというのが、私自身のノウハウだ。例えば、日本市場の状態を他国の人間に伝えるという点では、「製品名の固有名詞」、「業務上の専門用語」さえ英語に置き換えておくと、大方のメッセージは通用するものである。
- 文章を極力避けて、図解やデータで勝負する
- 図表やデータ分析については、日本語・英語チャンポンでコピー&ペーストを多用し、事実が関係者全員に正確に伝わるように心がける。
- 「です、ます」とか、文章としての体裁は日本語をそのまま踏襲することにより、「思考スピードは落とさない」。単語は、英語を織り交ぜて、外国人にも何の話をしているのかがわかるようにする
というところが、実践的ノウハウ(のつもり)である。
そこさえクリアされていれば、細かいニュアンスについては、「そもそも日本人同士でも、論理的に話せない人間の言うことは伝わらないのだから、腹八分目で良しとしよう」という割り切りもできるというものだ。
たとえば、下記のようなチャートである。(クリックで拡大)
これは、昔あるとき「日本のシステム開発者市場で、なぜ新しい開発ツールが浸透しないか?」という議論を行ったときに、ある調査資料を引用して説明したときのものである。
全部を英語にするのも簡単だったが、最下段のメッセージ部分はあえて日本語と英語のチャンポンにしたのが、同席者への配慮であった。
「高専」とか「専門学校」などという概念・制度が海外にあるのかどうか? それ故、この訳語が正しいかどうか?正しいとしても意味が伝わるか?などという心配は尽きない。
しかし、「何の議論をしているか?」という事実はそれなりに伝わっているので、「誰か特定の人間だけが疎外されている」ということにはならない(ハズ)であろう。
「単語の羅列なら可能だが、きちんとした英語のセンテンスにするのは苦手である」というレベルの人はまだまだ多いだろう。無理に思いついたまま英語にしようとすると、往々にして日本人の日本語はダラダラしているので、”xxx of xxx of xxxx is xxxx of xxx of and xxx” みたいに何がなんだかわからなくなってしまう。
短いセンテンス、メッセージにして、長い文章を書かない
=英語的な論理的な説明を行う
=結論から先に言えるようになる
という基本が自分なりにマスターできたのは、コンサルティング会社において、日本語で思考回路を鍛えられたこその結果であるように思う。
短いセンテンスに加工された発言であれば、誰か英語の得意な人が簡単に翻訳の助け舟を出してくれる可能性も高まってくる。
結論: 「単語」さえ置き換えれば、仕事上における「英語の公用語化」にはついていける。逆に言えば、流暢な英語ではなく、まず業務上のボキャブラリーの充実を目指すべき。
流暢な英語を目指すのは、「オフ・タイムの会話で本音を引き出す」ようなレベルになってからでも間に合う話であろう。まあ、このレベルこそが役員に期待されるレベルでもあるのだが。。