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日本や日本人って何だろう。改めて「海外」を考えるヒントを身近な話題から

「人のいい日本人」という特殊性を活かせる交渉術はないのか?

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前回の結論では、「人のいい日本人は基本的に交渉に不向き」ということになったが、その続きである。

そんな日本人の感性としての特徴が生かせる方向の一つが、「Broker役、調停役をこなす」ことではないか?と感じている。

古くは、落語のネタにもなっている「三方一両損」の「大岡越前」のような立場である。

そして、できればしたたかに、「”一両だすから、投資の分け前を数%よこせ”と言って有望な投資案件に入り込み、資金運用で食べていく」というのは、ある程度成熟した日本のような国の生きていく道でもあるだろう。「単純な物売りメーカー型から、行動する投資ファンドへ」という、生き方・価値観の変化になるかも知れない。実際に、商社などはこのような生き方を模索しているような気がする。

Broker役や調停役のトレーニングとして、私が出席していたExecutive MBAのコースでは、「Deeport Negotiation」というHarvard Business School のRolePlayのケーススタディを用いて、多角的な利害関係者間での集団交渉を教えられた。

「わが町の港湾整備をいかにして実現するか?」というお題の下、1)知事、2)銀行、3)自然保護団体、4)労働組合、5)当事者としての港(Deeport) 6)他の港 などに分かれて、お互いに主義主張を展開し、自分の効用を最大化することを試みるのである。ケーススタディには、それぞれの立場に対する「指令」として、「xxxという項目はどこまで譲っても良いが、xxxは譲るな。xxxxまで獲得できればxxx点のポイント」という設定が、極秘につけられている。こういう条件下で、各自の利害調整をしながら個人としてもどこまでのポイントを獲得できるか?というのが評価の対象となる。

授業の本番では、途中で個別の1対1のnegotiationや利害を共通にする立場のアライアンス的な話し合い、条件提示などが廊下の立ち話や個室に入り込んでの密談で行われ、30分ごとに中間投票を記名投票で行う。その結果を見て、誰が中間案に賛成・反対したかを見ながら、「なぜ賛成した?寝返った?」などの議論を水面上・水面下で行い、3回目の投票で最終的に結論を出すというケース・スタディをベースにしたRolePlayの授業である。

いままでケーススタディなんてマーケティングや企業戦略関係の教材しか読んだことがなかった私としては、そもそも、こういうNegotiationの分野にまでケーススタディの教材が海外ではしっかりと存在するということが、大きな発見であった。

私自身は授業の中では、「知事」の役割を演ずることになった。銀行から多額の融資を引き出してプロジェクトを遂行させ、自然保護団体に反発しながらも産業構造を重工業化し、労働組合・自然保護団体・他の港への保証を最小化するとポイントが高くなるように設計されている。前日にケーススタディを渡されて自分のミッションを理解した後、共通の利害関係者、最後まで反対する関係者、交渉次第で調整可能な相手を分類し、各自のBATNA、ZOPAを予測して誰とどういう順序・どういう条件で交渉し味方にしていくかを計画していくのである。この交渉計画書なども最後に提出し、レポート評価の対象になっていた。

参考:「私が作成した交渉準備用シート」Deeport.htm

ちょうど、伊丹空港問題で揺れる関西地区で、伊丹空港、関空、神戸空港などの利害関係を調整するような状況に似ている。

この「知事」のRolePlayは、とても日本人に向いている立場だと感じた。「銀行」も似たような立場であろう。やってみてわかったのだが、海外では「代理人やロビイストによる交渉」文化が一般的なためか、交渉の直接の相手方ではなく代理人には本音を明かし「交渉の妥結幅を漏らす」ものなのである。

実際の社会では、労働組合が組織票として知事の弱点を握っていたりするのかも知れないが、少なくとも任期中で且つ支持率の高い知事であれば、「調停役」として関係者から情報を収集することが可能であろう。しかも、これまで舐められて無害な交渉相手だと思われている先入観も長所に働くという可能性がある。

この調停役をこなす程度の語学力とフットワークさえあれば。。
文化的には「和を持って尊しとなす」という日本人の特徴が、長所として生かされる場所であろう。
「日本人よ、勇気をもって外へ出よう」と言いたいポイントである。

国際問題の紛争調停などに乗り出すには「軍備を持たない日本」として、交渉上の武器を持たないが故に敷居が高いかも知れない。しかし、最近のインフラ輸出(成長戦略、外需パート)政策などでは他国に引けをとらないカードがあるはずだ。

政府IT戦略では、クラウドデータセンターの海外需要獲得なども話題に上っているようだが、「友愛」の精神をきちんとビジネス的に通用する概念に解釈しなおすとしたら「このようになるのかな?」と考えた次第である。

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