自分らしく、働く一歩を―デジKAMA×kintone就労支援プロジェクト―【後編】
こんにちは。葉月へちまです。
今回のkintone取材記は、デジタル就労支援センターKAMAKURA(以下、デジKAMA)さんへのオンラインインタビューの様子を前編に引き続き、お伝えします!
デジKAMAやプロジェクトについては、前編をご参照ください。(kintoneのサービスについてはこちら)
後半の今回はデジKAMAの支援員である、鎌田さん、鯉沼さんからプロジェクトについて伺いました。
「デジKAMA」×「サイボウズ」
2025年1月から「kintoneを活用したPoCプロジェクト」は、ワーカーが実際の業務を通じてkintoneの活用スキルを習得し、社会参加や働く機会を広げることを目的としたプロジェクトです。
(詳しいプロジェクトの経緯は「【就労困難】「デジKAMA」×「サイボウズ」〜デジKAMAスタッフさんインタビュー」の前編/後編をご参照ください)
kintoneとの出会いとプロジェクト始動の背景
──kintoneとの出会いや本プロジェクトのきっかけを教えてください
鯉沼さん:昨年11月にサイボウズのもっちーさんにお越しいただいた際に、このプロジェクトのお話をいただきました。私たちスタッフ自身、kintoneについて理解はしていない状況でのスタートでした。
──支援員であるおふたりのITスキルは?
鯉沼さん:僕はもともと病院の精神科で相談員をしていたので、まったくデジタルには触れてきませんでした。日常で少し触るくらい。kintoneも使用したことはありませんでした。でも僕自身、興味があったので、そこから独学で調べたりするようになりました。
鎌田さん:システムインテグレーター系の仕事を16年ほど勤めた後にデジKAMAにきています。ですがネットワーク系のスキルだったので、kintoneのようなアプリとは少しちがうかと。今回ワーカーさんに伝えるうえでkintoneにも軽く触れてみました。やはり直感的に操作ができて使いやすいツールだと感じました。
はじめてのkintone、支援員が抱いた期待と不安
──プロジェクト始動直後の印象は?
鯉沼さん:kintoneに理解のない状態で始まったため、ワーカーさんにきちんと支援できるのかな、という不安はありました。ただふだんデータ入力系のお仕事が多いなかでこのプロジェクトは直接的にも間接的にもデジKAMAのスタッフ以外と作業を通じてコミュニケーションを図る機会がとれるのかなというワクワク感もありました。
鎌田さん:私は前職の関係でユーザーが現場で自由にアプリを組むというツールについては理解をしていたつもりです。しかし鯉沼と同じようにkintoneに関する知識がない状態だったため、いろいろ試してみようというところから始まりました。しかし同時に我々がまったくわからないものをワーカーさんに依頼するのはとても危険なんですよね。私たちは楽しいけれども、ワーカーさんが実際にどう感じるか。いかに不安感を払拭してワクワク感をおぼえてもらうかについては苦労した覚えがあります。
不安を「楽しさ」に変えるための工夫
──ワーカーさんの不安を払拭して楽しんでもらうために取り組まれたことは?
鯉沼さん:サイボウズさんのほうで動画や教材をお持ちだったので、そちらを活用しました。あわせてデジKAMAでのプロジェクトの実施環境を説明したり、補足資料を作成したりすることで、不安を解消していきました。
──ワーカーさんの反応はいかがでしたか?
鯉沼さん:個人個人で進める作業が多かったのですが、他のワーカーさんの作成したアプリを見て、「こうつくれば良いのか」といったように気づきを得る方が何名もいて。誰かの工夫から学びを得て、新たな視点でもって挑戦していく様子はとても新鮮でした。
鎌田さん:同じく、ワーカーさんはそれぞれ全然ちがった曜日や時間帯で働いているのですが、kintoneを通じて画面の向こうの人と繋がる感覚、一体感や連帯感といったものが生まれていく様子が見守っていて面白かったです。
"学びがつながる喜び"──kintoneが生んだ変化と可能性
──プロジェクトを通じて感じた可能性は?
鯉沼さん:いちから学んでつくる過程で最終的に目に見えた成果物ができるということが、このプロジェクトの強みであると感じています。はじめて触れるツールに不安のあったワーカーさんが、完成した成果物をみて自信に繋がっていく。成長へのモチベーションが芽生えるプロジェクトだったのではないかと感じています。
鎌田さん:ふだんは決められたフォーマットにデータを入力していくという作業が多いなかで、自分でアプリを設定して動かす、自主的に考えて作業する時間が生まれたことで、またひとつワーカーさんたちの成長に繋がったのかなと思いました。
──前回のインタビューでは比較的kintoneを使いこなせている方が多かったと思いますが、全体をみていかがでしたか?
鯉沼さん:今回のプロジェクトには、あらかじめ「面白そう」と前向きな感情を持たれている方をこちらで選ばせていただいたので、皆さん積極的に取り組まれていました。ただもし今後もプロジェクトを継続したり、他の事業所で実践しようと思ったときに、いかにモチベーションを維持してもらうか? というのは考えていく必要があるかと思います。
鎌田さん:このプロジェクトに関しては、「実証実験としてkintoneを使って色々なことを試したうえで、その感想を残すことがお仕事」とワーカーさんにお伝えしていました。それでも今回のような「半分勉強、半分仕事」といった特殊なケースに馴染みがなく、苦労されているワーカーさんはおりましたね。先程「目に見えた成果物が残せるのが利点」とお伝えしましたが、当然できないときもあるので、「成果物がないのに、業務委託料をいただいて良いのでしょうか?」と申し訳なさそうにされていました。
"失敗"が許される仕事──挑戦と学びの場としての価値
──そういったワーカーさんにはどのようにフォローされたんですか?
鎌田さん:「クライアントのサイボウズさんは、みなさんが試行錯誤して、苦労したり楽しんだりといった様子も含めて知りたいんですよ」と改めて主旨をお伝えしました。やはり目的をきちんとお伝えすることが大切だと思っています。
──ワーカーさんのなかで比較的進捗の遅れている方の状況はいかがでしょうか?
鯉沼さん:たとえばこれを承認依頼したら次の階層に送ることができるとか、そういったプロセスの管理・ワークフローを組むあたりは皆さんできています。基礎の部分はマニュアルに沿って対応できてますね。
プロジェクトが後押しした卒業後の"働く自信"
──プロジェクトに参加されていた方の中で就業が決まって卒業された方もいるそうですが
鯉沼さん:前回のインタビューに参加されていたなぎさんがそうですね。プロジェクトを通じて、「働くことへの自信、新しい環境にもチャレンジしたいと思えるような気持ちの変化があった」と伺って、とてもよかったなと思ってます。
鎌田さん:在宅スキルがとても高く、依頼された業務は難なくこなす。コミュニケーションスキルもとても高い方でした。そういった方でも、家から出られないというだけでなかなか就業が決まらない状況はもどかしいなと感じていました。今回のプロジェクトを通じて自信がつき、いまは通勤もされているんじゃないかな。そこまで自分の可能性を広げることができたのかと驚いています。本当に「自分にもできる」という自信がついたことは大きいと思うので、その一助となったプロジェクトにはとても感謝しています。
デジKAMAが目指す未来と、プロジェクトの感想
──プロジェクトの感想を一言
鯉沼さん:デジタルの技術を活用した就労支援は、世の中を見ても、まだまだ少ないんじゃないかなと感じています。デジKAMAの取り組みは現在鎌倉市でしか行われていませんが、他の自治体などさまざまなところに広がっていくことを願っています。
鎌田さん:前提として我々はクライアントに対して価値を提供しなければならない。同時にワーカーさんも「これはお情けで業務委託料をもらっているのかな?」みたいなことを思わせたくないんですよね。全員が誇りを持ち、就労困難者が働ける社会をつくる。その理想を知っていただいたうえで参画してくださるワーカーさんや、顧客として委託くださる企業さまと活動していきたいと思っています。
取り組みを全国へ──広がる支援の可能性
最後に、インタビューに参加されていたサイボウズそでらぼのもっちーさんからもお話を伺いました。
──プロジェクトを実施してみた感想をお願いします
もっちーさん:デジKAMAさんとの取り組みは、BPOということもあり、難しい部分も多かったです。ワーカーさんに直接お伝えすることができない中、どんなふうにやって行けば良いのかなと思っていましたが、デジKAMAのスタッフさんが順序立ててkintoneを知るプロセスをしてくれたことで、ワーカーさんkintoneを覚えてアプリを作成するスピードに驚かされました。
──前編のワーカーさんのインタビューの様子を拝見されていかがでしたか?
もっちーさん:インタビューのあとに質問をいただいたりもしたのですが、「こうするにはどうすれば良いですか?」など、皆さんとても深く考えて下さってて感動しました。ただ学ぶだけで終わらない。お仕事に繋げていくには、この試行錯誤が大きく影響するのだと感じました。質問できるアプリも作っていたのですが、アプリは活用できていませんでした。ワーカーさんからアプリ使って質問できたのですね。と言ってもらったりしたので、デジKAMAスタッフさんとそのあたりを細かくお話ししていけたらと反省点も多いです。
──今後の展望は?
もっちーさん:このプロジェクト自体はデジKAMAさんだけでなく、他の事業所さんとも取り組みを始めています。いろんな事業所さんと取り組む中で、私自身もそれぞれの事業所とどんなチームを作っていけるのか楽しみな活動です。今回デジKAMAさんとご一緒したことで、活動の幅が広がっているのを感じているので、とても感謝しています。
おわりに
今回またひとつkintoneの新たな取り組みに触れました。さまざまな事情から就業できずに悩んでいる方に向けて、WordやExcelといったオフィスソフトスキルを身につける就業訓練はよく目にしますが、kintoneの訓練ではどのような変化や効果が見られるのか。ITツールのなかでも年々知名度があがってきているkintoneのスキルを身につけるプロジェクトということで大変興味深かったです。
インタビューに協力くださったワーカーさんからも支援員のおふたりからもポジティブな反応が見られて、限られた時間でも実践的なスキルが身に着けられること、スキルが身に着けばそれが自信になること、スキルと自信があれば就業への可能性が高まるのだということがよくわかりました。
デジKAMAの皆さん、取材のご協力ありがとうございました!