【出会いから看取りまで】伴走型支援をサポートするkintone ー認定NPO法人 抱樸の事例ー
こんにちは。葉月へちまです。
今回のkintone取材記では、北九州を拠点に困窮孤立者の生活再建を支援している特定非営利活動法人抱樸(以下、「抱樸」)のkintone活用事例をご紹介します!(kintoneのサービスについてはこちら)
〇抱樸とは
抱撲は、北九州を拠点に「ひとりにしない」という支援を目指し、老若男女を問わず生活困窮者や社会からの孤立状態にある人々の生活再建を支援する認定NPO法人です。
現在、抱撲の職員は100人を越え、北九州市に限らず福岡市や中間市など複数の拠点で28の事業を行っています。
今回私は自立支援施設や多機能型事業所を訪問し、ホームレス支援の一環である「炊き出し」のボランティアにも参加させていただきました。
その中で知ったこと、感じたことをkintone活用事例とあわせてご紹介していきます。
〇認定NPO法人の現場で活躍するkintone
抱撲では2017年に子ども・家族の伴走支援のためkintoneの利用をスタート。
徐々に利用範囲を広げ、現在は28事業ある法人全体で活用しています。
総務での活用事例
はじめに抱樸での基本的なkintoneの活用方法について、kintone導入チームの一人である総務の蔵元幸夫さん(左)とkintoneエバンジェリストの久米純矢さん(右)からお話を伺いました。
蔵元さんにkintoneの魅力として挙げていただいたのが、
- 情報の流れを一覧できてコミュニケーションが取りやすい
- 誰でもとっつきやすいユーザーインターフェース
- 情報を一箇所に集約できるため、情報の行き違いを減らせる
という点です。
エバンジェリストとして抱樸の開発サポートをしている久米さんも、
「誰でも簡単にカスタマイズできるというのが良いですね。どういうアプリをつくりたいのか、蔵元さんたちユーザー側で基本のアプリを作成してみせてくれるので、こちらもサポートがしやすいです」
とおっしゃっていました。
それでは、蔵元さんたちがどのようなアプリを作成されているのかを見ていきましょう。
活用の機会が多いアプリ①タイムカード
一番使用しているアプリは、日々の勤怠記録のためのタイムカードアプリ。
さらに取材時は蔵元さんが「有休集計表」を作成中でした。
有休の残日数が知りたいという意見が多くあったため、アプリの開発を始めたそうです。
kintoneのアプリを使いやすくする鍵を握るのが、関数。
蔵元さんは有休を使用するたびにー1にし、有休残日数を計算するという方法で作成されていました。
使う人によって目的へのアプローチが変わるのが、kintoneの面白いところのひとつですよね!
活用の機会が多いアプリ②抱樸スタッフML
kintone導入前はメーリングリストを使用されていたとのことですが、個別返信による行き違いが悩みだったそうです。
kintoneのアプリには「いいねボタン」も実装されているため、返信の文章を考える前に既読をアピールすることが可能。これにより連絡の行き違いや確認漏れによるミスは解消されました!
メールに馴染みのある職員の方は、スペースやスレッドよりも使いやすいのだとか。
抱樸代表の奥田さんからのメッセージがついているスレッドもあり、組織上の距離を縮める効果もあるようです!
コロナ禍における感染症対策の周知や感染してしまった職員とのやりとりなどが増加したことも相まって、kintoneのコミュニケーションツールとしての側面が大いに活きていると感じました。
活用の機会が多いアプリ③伝言メモ
電話に関してもkintone導入以前は総務がまとめて受け付けて、メーリングリストかFAXで共有するという流れだったそうです。
伝言メモのアプリはスペースやスレッドだと埋もれてしまうため、専用のアプリを作成。
主な連絡内容が選択式となっており、素早く共有できるように工夫されていました。
路上生活者と最初に接するのがボランティアや巡回相談の方たち。次いで自立支援施設での生活相談や多機能型事業所での就労支援......というように、時期によって関わる部署が変わっていきます。
「出会いから看取りまで」を目指している抱撲と、いつ誰がデータにアクセスしても最新の情報がチェックできるkintoneの相性の良さが伺えました!
活用の機会が多いアプリ④寄付金アプリ
もともとExcelやAccessによる手入力で全国から集まる寄付金の管理を行っていたそうですが、郵便振替だけでなくクレジットカード決済のシステムを導入してからありがたいことに寄付が増え、代わりに職員の負担が増加。
そこで、クレジット決済であればCSVで情報をkintoneに移行できるのでは? と開発されたのが、kintoneの寄付金アプリです。まさにNPO法人ならではの事例ですよね!
現金だけでなく、現物で寄付された物品に関してもkintone上で受け渡しのやり取りが行われているという点も特徴的でした。
自立支援施設での活用事例
自立支援施設では、収入や住む場所がない方、お金がなくて困ってる方の相談を受け付けており、自立に向けたサポートを行っています。
取材時の利用者数は15名。
「あんたもわしもおんなじいのち」という標語や、「私たちの目指すもの」として
- ひとりの路上死も出さない
- ひとりでも多く、一日でも早く路上からの脱出を
- ホームレスを生まない社会を創造する
と掲げられている通り、各事業所の中でも生活困窮者の方と直接関わる機会の多い事業所です。
こちらでは、左から吉田由香里さん、春田陽一さん、佐藤敦洋さんからお話を伺いました。
もともと自立支援施設ではAccessを使用していましたが、10万件を超える相談数を管理しきれなくなり、kintoneへ移行したそうです。
はじめはがらりと仕様が変わり、「情報がどこにあるのかわからない」、「通知が多くて困る」と戸惑う声もあったようですが、
「通知の量に関してはkintoneを導入したから情報が増えたのではなく、これまで共有の手段がなかったから目にしていなかったというだけなんですよね。逆にいえば、共有が必要な情報はすべてkintoneに集約されているわけで。徐々に不慣れだった職員もkintoneへの入力に慣れてきたので、必要に応じた情報の取捨選択を洗練していけば解決すると思います」
と春田さん。
kintoneの魅力に関しては、
- 必要に応じて項目の追加などカスタマイズができる
- タブレットやスマホから情報の閲覧が可能
という点を皆さん挙げられていました。
活用の機会が多いアプリ①金銭管理
利用者の中には自身で金銭管理を行うことが難しい方もいらっしゃいます。そういう方には金銭管理方法のサポートを行うとともに、必要に応じて貸与することもあるそうです。
預かったお金を、どなたに、いつ、いくらお返しする予定か。かなり重要な情報ですよね。
しかしAccessだと限られた人しか確認することができません。kintoneを導入したことで職員の誰でもすぐ情報を一覧できるようになり、作業効率が格段に上がったとのことでした。
活用の機会が多いアプリ②土日祝のサポセンからのお知らせ
基本的にサポートセンターは土日祝は休みなのですが、休日出勤して生活相談を受け付けることもあります。
Accessで管理していた時は先程の金銭管理の情報と紐付けられておらず、名前と金額はメーリングリストで共有するといった対応をしていたため、当然抜け漏れが頻発していました。
kintoneではこちらのアプリと金銭管理アプリを対応者の顔写真付きで関連付けて引き継ぎが行われるようになったため、ミスが激減したそうです。
活用の機会が多いアプリ③公用車の管理・予約アプリ
kintoneといえば縦に情報が羅列しているイメージですが、自立支援施設ではカスタマイズによりガントチャートで公用車の使用状況を確認できるアプリを開発していました。
利用時間・使用する車・利用目的などが一覧でき、ブッキングを防止しています。
誰でも見やすく使いやすいアプリにカスタマイズすることで、kintoneに不慣れな職員の方の抵抗感も減ったそうです。
多機能型事業所での活用事例
多機能型事業所では軽度の知的障がいのある方を主な対象としており、車の部品の組み立て、農業部品の作成、チラシの仕分けやシール貼りといった作業を通して、就労継続支援、自立訓練を行っています。
利用者数は29名。平均して60歳ほど。
障がい者として生きてこなかった方が抱樸と出会ったことで生きづらかった要因を自覚し、障害者手帳を取得したというケースも多いのだとか。
共通の悩みを抱える人同士が寄り添い合うことで生きる活力にも繋がり、総じてみなさん仕事へのモチベーションも高いとのことでした。
こちらの事業所では今浪沙織さん(右)と小野順司さん(左)からお話を伺いました。
kintoneの魅力を尋ねたところ、
- 自分でカスタマイズできる
- 紙資料を探す、作成する手間が省けた
- 伝達ミスが減った
という点を挙げていただきました。
今回、3箇所で取材をさせていただきましたが、みなさん「カスタマイズの自由さ」に惹かれている点が面白いですよね!
しかし今浪さんは同時に、
「kintoneのカスタマイズが可能な点は魅力ですが、いざ自分でアプリをつくろうと思うと意外と難しいですよね。ある程度パッケージ化されたものがあるとありがたいです」
ともおっしゃっていました。
これまでもkintoneの事例取材を行ってきましたが、ユーザーの作成したアプリで使い勝手の良いものはあちこちでシェアされていっているので、どこかの事例が抱樸で、抱樸の事例がまたどこかで活かされていき、kintoneがさらに使いやすいツールとなっていくと良いですよね!
それではそんな多機能型事業所で使用されているアプリの事例を見ていきましょう。
活用の機会が多いアプリ①支援記録とサービス提供の実績記録
kintone導入以前は日々の支援記録をWordで行っていたそうです。職員がリレー形式で順番に入力していたため時間がかかり、有事の際に記録を遡る作業も手間でした。
kintoneの導入により、いつでもどこでも記録の入力・検索が可能に。今浪さんは手が離せない時は音声入力をすることもあるそうです。
効率化の恩恵は職員の残業問題の改善だけでなく、今まで手が回らなかった分も手厚い支援にも繋がっていました!
活用の機会が多いアプリ②利用者マスター
利用者マスターは利用者情報を管理するアプリです。
紙媒体だった時は支援記録とは別で管理されており、情報の確認に時間がかかっていました。
しかしkintoneを導入したことで、支援記録と利用者マスターを連携して同時記録を可能に。
有事の際は、関連するワードで検索をかけ、すぐに必要な情報を引き出せるようになり、他の事業所との連携もスムーズになったそうです。
○コロナ禍における変化
まだ不安な日々が続いていますが、緊急事態宣言の解除に伴い、今回こうして取材の機会を頂けたため、コロナ前後の変化について伺ってきました。
生活困窮者が増えているのではないかと危惧しての取材でしたが、
「特別、相談者や施設入所者が増えたという印象はありません。我々もリーマンショックのときのように増えるのではないかとかまえていたのですが、あの頃から少しずつ制度が変わってきていることも要因かもしれません」
と自立支援施設の佐藤さん。
抱樸代表の奥田知志さんにもコロナ禍での変化を伺ったところ、
「実は2009年にも政府が給付金を配ったことがあるのですが、その時は路上生活者が受給する仕組みが出来上がっておらず、大変でした。しかしその時に役所に掛け合い続けたおかげで、今回のコロナ禍では北九州市側から『抱樸で一括して給付金の手続きを請け負ってほしい』と依頼してきたんです。そのため路上生活者のためのワクチン接種や給付金手続きもスムーズに行うことができました」
とおっしゃっていました。
なるほど、これまでの経験を活かして抱樸が迅速な対応をとったことも、路上生活者が増加しなかった要因のひとつとしてあるかもしれませんですね。
マスクや消毒剤の配布も炊き出しの機会に積極的に行われており、路上生活者の間で感染症が流行するといった事態も未然に防げているようです。
ただし、その感染症対策のために貴重であったコミュニケーションの機会が激減してしまいました。
以前は炊き出しのあと、お弁当を食べながら話し合ったり、各施設で交流のイベントが開催されていたようですが、コロナ禍では軒並み中止に。
悩みを共有し、寄り添える支援を目指す抱樸にとって、コロナ禍におけるコミュニケーション手段は引続き課題として残っているそうです。
○まとめ
今回、私は取材とともにホームレス支援の一環である「炊き出し」にも参加させて頂きました。
やはり、実際に見て、聞いて、話して、と体験してみなければわからないことってありますね。どこか遠い問題のように感じていたこれまでの自分が少し恥ずかしくなりました。
私は社会教育主事の資格を取得していることもあり、学生時代にこうした支援活動について学んだ経験もあったのですが、実際に活動させていただいたのは今回が初めて。取材だけでなく、とても貴重な機会が頂けたことに感謝しています。
抱樸の職員のみなさんも大きな目標の実現に向けてまだ現状多くの課題を抱えているとおっしゃっていましたが、kintoneのようなツールによる効率化と組織連携の強化により、これまで以上の手厚い支援が可能になることを期待したいですね!