本間正人・祐川京子著「ほめ言葉ハンドブック」を読んで
トラパパさん、辻さん、堀内さんの本の感想を書いたら、この先駆的な本を読まざるを得ないじゃないですか。祐川京子さんとは、一度だけ会合でお会いしただ けで、お話もできなかったけれど、実はとてもすてきな女性だし、アグレッシブな方のようですしね。
おそらく、本の種別をしてしまえば、この本は実用書になってしまうし、実際、第4章第5章の「覚えておきたい「ほめ言葉」 I & II 」は、ほんとうに実用的だ。実は私は一般的な実用書をあまり好まない。摂理や道理、根本的な考え方を突き詰めていけば、応用は自分の裁量だから、個々の細かい内容を 読んで、それだけを使おうとする実用書は、つらいなあ、と思う。それだけで、なんの発展性もないから。
しかし!!この祐川京子さんの本は、最初の3つの章を使って、なぜ、誉めるのか、誉めることの道理はなんなのか、が書かれていて、丁寧に「ほめ言葉」まで導 いてくれているところが、単なる実用書とは異なるところだ。
誉めるというのは結局のところ、これはイソップ寓話の「北風と太陽」だな、と理解できる。北風を吹かしても、服は脱がないが、暖かく太陽が照れば、人は服を脱ぐ。同様に、人間はムチで叩いても前には進まない。ロバを進ませることといっしょだ。あっ、最 近ロバなんて、見ないよなあ。私の様に 3000 年ほど生きていると、ロバを使って荷物を運んだりしたところを見たことがあるのだ。にんじんでもなんでも、えさを与え、おしりを、痛くない程度に押す、ぴ ちゃぴちゃ程度に叩くとロバは進む。
この本では、誉めるなら中途半端でなく、おもいっきり誉めようと言っている。そのぐらいはっきりと誉められれば、人もロバも、少し前進するのだろう。ロバ は面白いもので、荷車が動き出すと、自分で歩き出す。何時終わるのかなんて、ロバの意識にはなく、ただしっかりと荷物を運ぶようになる。人間もロバも実は 同じレベルなんだな。
ほめ言葉があるなら、叱る言葉もあるだろう。ほめ言葉のボキャブラリーが貧弱になってきているように、叱る言葉のボキャブラリーも心細くなってきている。 昔々、家のまわり、隣近所のコミュニティがあったころは、じーさん、ばーさんやおとな、年長の子供達と、誉めたり叱ったりしてくれる機会がふんだんにあっ た。
年齢差のある、上下関係のある人付き合いが昔はあって、その環境で、誉められ、叱られた人たちは、ほめ方、叱り方を体験として覚えている。だから状況や環 境がどうであれ、目下のものや育てている人、仲間を誉めたり、叱ったりできたのだ。いまやそういった環境は、望むべくもなくなってしまった。そういう意味では今後は、もしかしたら「叱り言葉ハンドブック」も出てくるかもしれない なぁ。
もうひとつボキャブラリーが貧弱になっているものに、悪口、罵詈雑言があると思う。「やーぃ、お前のかーさん、出べそ!」なんて、もう死語だろうし。いか に相手が馬鹿で、死んでも直らなくて、汚らしくて、なんの価値もないかを、ガンガンと言い放つ言葉が少なくなっている。「うざい」なんて、てんで悪口に聞 こえない。こっちの方のボキャ貧は、日本人としてなさけないなあ。