市場のシェアでだけで製品選択をするのは、思考停止と同じだ、と思う
オルタナティブ・ブロガーの吉川さんが、「製品のシェア調査の結果を見るときのポイントなど」のブログを書かれている。論点は正しくて、たいへん役立つブログだと思う。私は、15年間ぐらい市場のシェアを「調査される側」であったので、内実を正直に書こうと思う。いわゆる、赤裸々な告発、というやつです(笑)。
吉川さんの書かれる様に、「調査会社がこうしたシェアの調査をどうやってやるかというと、各製品の製造・出荷元にアンケートを配布して、出荷本数や売上金額を回答して貰い、それを集計して全体の市場規模や各製品のシェアを推測するという手法をとることが多い。」というのは、本当だ。ここで、注意して欲しいのは、「出荷本数や売上金額」というのは、セキュリティレベルとしては、「極秘(Need to know)」にあたるものだ、ということだ。特に外資系では、ほとんどそうだと思う。
もし、そういった情報が「極秘(Need to know)」であれば、正直にアンケートに答えるはずがない。「答えられません」というのが、正しいアンケートの回答である。しかし、調査会社はそれでは商売にならないので、インタビューに訪れる。インタビューでも、正確な数値は答えられない。
すると「だいたい、この辺ですか?」などと聞かれる。「う〜ん、もっとかな」とか「いやあ、それほどでも」ぐらいなら、極秘情報を漏らしたことにはならないので、インタビューアが、想像した数値を作る。それで、市場調査、ということになる。そういった、あいまいな数値を元にした市場のシェアの数値など、どの程度意味があるのだろうか。
さらにいえば、出荷台数と出荷金額では、シェアの構造が異なってくる。たとえば、アプリケーションサーバの市場でいえば、サンのGlassFish は市場売り上げのシェアはゼロである。「タダ(無償)」だから。ダウンロードは、ちょっと前の数値だが、世界で650万ライセンスだ。日本のダウンロードをたとえば 1% と思いっきり低く見ても、6万5000ライセンスある。WebSphere や WebLogic がどの程度売れているのかわからないが、1万ライセンス行っているのだろうか。
もっと正確な方法がないのか、というと、無いことはない。サンフランシスコにある Ferris Research が2005年11月に発表した。メール用サーバソフトのシェアは、ネットワーク上の定点を世界何百かセットし、そこを通過したメールのヘッダから、そのメール用サーバを割り出し、エントリー数を確認したものだ。むろん、同じユーザは何通メールが出ても一エントリーと数える。
そう、すでにお気づきの方もいるように、私が担当していたメール用サーバがシェア・ナンバー 1 だったのですね(鼻高々!)。こういった感じです。すべてを出すと Ferris Research 社の知的所有権に抵触するだろうから、目立ったものだけ抽出すると、
- Sun Java System Messaging Server .......... 1億7000万エントリー
- Sendmail .......... 1億エントリー
- Exchange .......... 5000万エントリー
- Lotus Notes .......... 2500万エントリー
なぜ Sun Java System Messaging Server が多いかというと、世界の超大企業や大 ISP がみんな、このサンの製品を使っているからだ。今現在は、Gmail がすごい勢いで伸びているので、このエントリーにも変化があると思われるが、この方法、費用がかかるので、最近は出していないようだ。
だいたい、自分のメールサーバを選ぶのに、Notes なのか、Exchange なのか、サンなのかなんて、まったく気にしませんよね。現在、すでに ISP のサービスも飽和状態で、残っている魅力的なサービスは、無償ということぐらいだ。企業も今後は、SaaS型のメールサービスに移行するものと思われる。
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さてでは、どうやって製品選択をするのか。当然、選択する側が知識を蓄え、情報を収集し、営業トークから本音を導き出すことだ。調子の良いことしか言わない営業・SEは信じられない。顧客事例だって、自社に的確に適合できるかわからない。
でも、私がお付き合いさせて貰ったお客様は、だいたい、鋭い選択眼を持った人が多く、逆に私が冷や汗をかいたりしたこともあったが、無茶な考えをせず、平常心のあるひとなら、選択する能力もあるように思う。
ソフトウェアでも、最近は高い買い物になってきているので、慎重になりすぎているのだろうけど、市場のシェアだけで選択してしまうより、いろいろと思い悩んだ方が良い結果になるのではと思われる。ちなみに、最近のオープンソースの流れで、開発費用を低く抑えられ、比較的安い場合がある。価格の高い製品が、機能・性能の良い製品という相関関係は、もはやあり得ないので、その点も注意する点だ。