妻よ、止めてくれるな
男は、胸に思いを秘めて、旅に出なければならないことがあるのだよ、妻よ。だから、止めてくれるな。と、1月12日の朝、私は家を旅立った。かみさんは、朝早くから仕事だったので、妻はおらず、かわりに愛猫に「あばよ」と言った。
いやぁ。今年初めての一人旅なのだ。実は最近、とても気に入っている一人旅ルートがあり、前の晩から降り出した雪で、美しい冬景色を眺めるのが、今回の目的。そのルートとは、
- 八王子から中央本線に乗り
- 途中、甲斐駒ケ岳のボリュームのある山塊を眺め
- 上諏訪で降りて、片倉館という温泉で千人風呂とラドン温泉に入り
- 片倉館2階の休憩室で生ビールとカレーライスとかを食べ
- 松本に移動して松本の町の夕暮れを堪能し
- 松本民芸家具で有名な、老舗松本ホテル花月に泊まり
- 松本駅から篠ノ井線に乗って、日本三大車窓のひとつ姨捨駅でスイッチバックを楽しみ
- 長野について善光寺にお参りし
- 門前の大善の十割そばと今むらの御膳そばを(続けて)食べ
- 長野新幹線で、横川の釜めしを食べながらかえる
というもの。
今回は、というか、このルートで旅をすると不思議なことに、ほぼ確実に雨になるので、今回も甲斐駒ケ岳を見ることができなかった。上諏訪は雪だった。片倉館の温泉で充分あったまり、松本に移動する途中から、山は雪景色となった。
パウダーシュガーを上からふるいでかけたように、葉の散った広葉樹の枝々には、凍りついた雪が小さな花びらになり、カラマツのような針葉樹には、濃い緑色の上に雪が被って、この世の景色ではない。水の国の森や山が、冬の寒い風によって、凍りついている。
篠ノ井線は、テツにとっては聖域のひとつ。松本を出ると、進行方向左に北アルプスの岳々の頂上がが雲の間から顔を出すのだが、思いもよらぬほど、高い位置に頂上があり、眼の焦点を上に持ち上げなければならない。荘厳な雰囲気。 逆に進行方向右側は、なだらかな山が続き、パウダーシュガーがかかっている。
そして、電車は姨捨駅へ。いま、姨捨駅も雪が積もっている。姨捨駅から、下には千曲川、遠く善光寺平を望む。日本三大車窓のあと二つは、北海道根室本線新内駅付近と九州肥後線矢岳駅にあり、東京近辺の人が気軽に出かけられるすばらしい車窓の景色は、なんといっても姨捨だ。姨捨駅には、さらにスイッチバックがある。利用頻度の高い路線で、美しいスイッチバックが体験できるのも、ここぐらいか。
善光寺は、連休の為か人が多く、ありがたみも半減だったが、その後、大善の十割そばと今むらの御膳そばを続けて食べた。十割そばは、そばの香りが豊かで、腰のある、いわゆるシコシコしたそば。全善では、つゆも若干濃いめだ。男性的なきっぱりした味。
逆に今むらの御膳そばはいわゆる更級そばで、白く、そば粉九割、粉一割だ。さらりとした喉ごしで、そばの香りは抑えてある。つゆは若干薄め。女性的なしなやかさがある。私は長野生まれで、中学時代は長野に住んでいたので、中学生の時分から小遣いを持って、先代の今むらのそばを食いにひとりで出かけていた。私のそばの味覚は、今むら先代の味をベースにしている。女性的な品のあるそばと薄めのつゆ。そして薬味のひとつ、旬となる、この冬の季節に出てくる辛味大根だ。信州のこの辛味大根はたぶん、ねずみ大根と呼ばれている物で、そばとは最高の相性だ。そして辛い!
これ、横川の峠の釜めしです。ちょっとご飯が柔らかかったなぁ、今回??